第7話

 そんなかつてない盛り上がりを見せる庶務課のドアがノックされた。

 誰も返事をしないので少し間を置いて総務部長小柄なハゲが勝手に入ってきて、弱々しい声で言った。


「ああ、“憤怒”課長、その、今役員会から通達があってだね」


「はあ、なんです?」


 このハゲ水を差すんじゃねえと口に出す寸前みたいな顔で“憤怒”課長が応対する。


「こんなご時世なんで、来月まで外出や会食は控えるようにとのことなので、庶務課でも周知徹底頼むよ」


 庶務課の中が凍り付いた。ぎこちない動きで“憤怒”課長が総務部長の前に立つ。


「宅呑みは別にいいよな?」


 空気が張り詰めている。総務部長はもの凄い冷や汗をかいている。

 彼は暫く沈黙して言葉を探した後、非常に重苦しい面持ちでどうにか絞り出すように答えた。


「いやまあ、あんまり多人数では、ちょっとねえ。まあでも、なんかあったとき困るんで、出来たら少人数でも、そうだねえ、まあ、自粛して欲しいかなあ」


「「「「「「はあああああああっ!?」」」」」」


 その後、総務部長は“憤怒”課長にボコボコにされ、庶務課の全員から辛辣な意見陳情の数々を受けめちゃくちゃに突き上げを喰らい(アタシもそれとなく加わってるポーズはしておいた)、しかし上からのお願いベースの自粛要請実質的な業務命令を無視するわけにもいかないので結局宅呑みは中止。

 アタシはめんどくさい宅呑みホストをしなくてよくなり、可愛い可愛い生ハム原木ちゃんアタシだけの癒しも守られ、怒りの矛先失言の代償は全て総務部長に引き取っていただき、まさに完璧パーフェクトな結末を迎えられたのだった。


 まあ、アタシが“怠惰”に過ごすための処世術ってやつで庶務課メンバーと可哀想な総務部長には月曜に少しだけ生ハムのおすそ分けをしたので許して欲しい。


 ああやだやだ、働きたくないねえ。…ねえ?ないよねえ?生ハムの原木ちゃんが居なかったらもう退職してるわアタシ。



~おしまい~

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

地獄OL“怠惰”ちゃん あんころまっくす @ancoro_max

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る