ブラック先輩&(と)ミルキー後輩

タキトゥス

ミルクは甘い、ブラックは苦い

今日は特別に暑い。

昨日の特別警報の大雨とは打って変わって青空が元気に話しかけてくるようだ。

k県k市は今日梅雨明けを迎えた。

湿度60%ぐらいの少し、じめじめした暑さが街中を覆う。すっきりしたものが飲みたくなるような季節。


こうゆう日はやっぱりキンキンに冷えたアイスカフェ・オ・レ。暑苦しくても甘くてサッパリとしたアイスカフェ・オ・レが1番。今日の朝もちゃんと欠かさず飲んできたんだ。


ブラックコーヒー?無理無理。苦すぎて一口飲んだだけで吐いちゃうよ。子供だから苦いのは苦手。


学校はあと少しで夏休みが始まる。

3年のブラック先輩は補習で大忙し。

私はブラック先輩の為に急いで食堂に向かう。

缶コーヒーを買う為に。


もちろん、ブラックコーヒーをね。

いつもブラック先輩は自分で缶コーヒー買う。

だけど今日はブラック先輩に買ってあげるんだ。

今日は忙しそうだったから。


多分ブラック先輩は....喜ばないかな。

喜んでるところ見たことないから。



アイスカフェ・オ・レを買う時はよくブラックコーヒーは売り切れている。

ブラック先輩は毎朝ブラックコーヒーを買っている。学校の生徒でブラックコーヒー飲むの先輩ぐらいだ。何で飲んでるかは分からないけど先輩は、大人だからかな?


学校ではそれが原因なのか先輩はいつもブラック先輩、ブラックパイセン、ブラックと呼ばれている。

私はブラック先輩派。あんまりブラック先輩はそう呼ばれるのは好きじゃないみたい。


最も苗字が黒木だからなのかもしれないけど。


先輩が近づいてくる時はいつも柑橘系シトラスの匂いがする。夏なのにいつも爽やかだ。

「ニヤニヤしてどうした?そもそも別の階に用もないのに来ない方が....」

ブラック先輩は周りを眺めジロジロと見る他の男子を睨みつけた。


ブラック先輩は7階、私は3階の教室。

別の階に行くには先生の許可が必要だけど私はそんなことは気にしない。

「いつも来るからいいじゃん。そうそうブラック先輩にプレゼントがあります」

後ろに隠したブラックコーヒー冷たかった。手がひんやりして気持ちが良い。

「いや、別に要らない。そしてブラック先輩って呼ばないでくれ」

間一髪いれずにブラック先輩は放った一言は冷たかった。 

条件反射?

それとも無条件反射?


ブラック先輩はクールというか、人と関わるのが苦手なのかよく分からない。ただ冷たいけど、いつも私に構ってくれる。そもそもすぐ近くに住んでいるからよく話しているだけなんだろうけど。


「そんな....折角用意したのに....」

私は悲しそうな声でつぶやく。

先輩は私には優しかった。その代わり他の人には厳しかった。特に男子には。

「はぁ....わかった。それでプレゼントって?」


私は隠していたコーヒーをぱっと先輩に渡した。

「ジャーン!!ブラック先輩がよく飲んでる缶コーヒー買ってきたんだ。最近補習で忙しいでしょ?」

「ありがとうと言いたいところだけど今日はもう缶コーヒーは買ってるからなぁ」

ブラック先輩は面倒臭そうにため息を吐いた。


「そうだったの?まあいいじゃん。明日買わずにすんだんだし。そういえば今日天の川見に行こうよ。今日待ち侘びた星夜祭だもん」

この学校では七夕に星夜祭というイベントがある。

大体カップルがよく行くけど行ったことはなかった。私がブラック先輩を誘わなかったわけではない。


ブラック先輩を去年誘ったけどブラック先輩は

「いや俺は行かない、恥ずかしいし」と捨て台詞を残して去っていた。先輩は私を恋愛対象と見ていなかったのかもしれない。悔しかったと言うよりも寂しかったかな。いつも構ってくれてたから。

「まあいいけど、もしかして天の川見る為にコーヒーを奢ったんじゃ無いよな?」

図星だ。ここは冷静に、落ち着いて。

「違うよ。ただの善意。じゃあ今日、ベランダで待ち合わせようね」

まさか先輩が来てくれるとは思わなかった。ヒヤヒヤした。去年みたいに断られると思ったから。


ブラック先輩は困った顔でうつむいている。

嬉しかった。でもブラック先輩の困った顔を見てばつが悪い。


急いでエレベーターで3階へ降りる。

教室はクーラーが効き過ぎて寒い。

温度調節がおかしいのはここの学校だけではないのだろうか?休み時間が終わりそうだったから急いで次の授業の準備をする。次は数学....か。


「光希、また先輩のところに行ったの?先生に見つかるとまずいよ。今月生徒指導室に沢山連れて行かれてるよ。」


友達はいつも心配してくれる。だけど私はやっぱりブラック先輩と一緒にいる方が良い。寒い教室にいるぐらいなら....


[[PM9:00]]

いつもうるさい蝉が疲れて寝静まった。

静かな夜だった。

永田川の近くに大きなベランダがあってそこには沢山の人が居る。文化祭、体育祭、クラスマッチ、そして星夜祭。この学校でカップルにとって4大イベントの一つだ。とは言っても私達はカップルじゃないけど。


星達は今日が楽しみだったのだろうか?

光りながら共鳴しあっている。

まるで喜んでみんなの前で笑っているみたい。

冬の方が星は綺麗だと人は言う。

だけど夏の星達はまた違う顔を見せる。

暑さすら忘れさせてくれるほど輝く。

涼ませてくれるからこその趣きがある。


そういえば

天の川について有名な話を聞いたことがある。

希臘ギリシア神話

ゼウスは、ヘラクレスを不死身にするために、女神ヘラの母乳をヘラクレスに飲ませようとしていた。しかし、嫉妬深いヘラはヘラクレスを憎んでいたため母乳を飲ませようとはしなかった。一計を案じたゼウスはヘラに眠り薬を飲ませ、ヘラが眠っているあいだにヘラクレスに母乳を飲ませた。この時、ヘラが目覚め、ヘラクレスが自分の乳を飲んでいることに驚き、払いのけた際にヘラの母乳が流れ出した。これが天のミルクの環になった。

と言う話。


ミルキーウェイとはこの伝説が由来だ。


「ごめん、遅くなった」

走ってきたのか息が切れていた。

ブラック先輩は言葉足らずだしそう言うところが頼りない。だけど、どの言葉も嘘偽りがない。

無口というより、ただ不器用なだけで。

伝えられない思い。

恥ずかしそうな表情で私の方をまじまじと見つめながら-


刹那。沈黙な時間があったけど、直ぐに私の方から口が動いた。

「いいよ、今年ブラック先輩が卒業しちゃうから一緒に見れて嬉しい。ブラック先輩が卒業して学校で会えなくなる前に思い出を作りたかった」

声が出なくなる。目が熱くなる....

そして前が見えない、ボヤけてる....

何でだろう、先輩が来てくれたのに....


「ごめんなさい、私の我儘で先輩を付き合わせちゃって....」

「去年断ったとき、本当は行きたかったんだ。でも恥ずかしかった、怖かった。でも、心のどこかで光希を取られたくないっていう気持ちがあった。いつも苦しかった」

ブラック先輩が何か言いたかったのかわかった。

星を眺めながら黙り込んだ。

何かを後ろに隠していた。


そっと取り出したものは私が好きなカフェ・オ・レ。私がよく買ってる缶に入ったカフェ・オ・レ。

いつも先輩は私のこと見ててくれたんだ....


「一緒に飲もう、光希が好きな缶に入ってるカフェ・オ・レ。さっき買ってきたんだ」

先輩はカフェ・オ・レのような甘くてミルキーで滑らかな舌感触は嫌いなはずだった。子供のような、幼いような、その飲み物はどうもブラック先輩のイメージにそぐわない。


「ブラック先輩。カフェ・オ・レ嫌いじゃなかったの?」

一緒にカフェ・オ・レを飲めて嬉しい。

同じ時間を過ごせることも。


でも甘いものは嫌いとか言ってたのに。

我慢しないで欲しい。

わざわざ私と一緒のものを飲もうなんて...

ブラックコーヒーでも良かったんだよ?

「光希って本当優しいよね。オレの心配なんてしなくて良いのに。カフェ・オ・レのミルキーな優しさみたい」


そう言うとブラック先輩は嫌な表情を見せず、それどころか嬉しそうに飲んでいた。いつもクールな先輩がうれしそうな表情を見せるのは予想外だった。ブラック先輩はビターな表情だけではなく、甘い表情も見せてくれるなんて....


きっとミルキーウェイの星空は本当に甘くてビターに違いない。コーヒーみたいに黒い夜空にミルクのような明るくて白いミルキーウェイ。


嫉妬深いにことには訳があって、ヘラは天真爛漫なゼウスのことが好きだっだのだろうし、ヘラは冷たく書かれがちだけど本当は優しいのだろう。


私が男子に見られた時に睨んだのも、私を守りたかったんだよね。ブラック先輩ってなんかヘラに似てるよね。冷たいし嫉妬するところとか。そして人を一生懸命に守ろうとする優しさも。


喉が渇いた。少し緊張しちゃった。

私たちはカフェ・オ・レを飲んだ。

その日のカフェ・オ・レは特別甘かった。

そしてコーヒーの苦味も特別感じた。

私には苦味は嫌でも何でもなかった。

ブラック先輩の好きな苦味。

味わえて一緒になれた気持ちになれたから。



永田川をさらさら流れる水の

笑いかける甘くて苦いミルキーウェイ

カフェ・オ・レで暑き夜も涼しい


私たちは星を眺める。

夜二人、カフェ・オ・レを飲む。

ミルキーウェイの空の下で。

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