第47話 知らない感情


「「おぉっ」」



 召喚の儀が行われている中、一際歓声が上がる。

 

 渦中にいるのはこの国の第一王子、ウィリアム・パルモティア。彼が詠唱を終わらせると同時に、魔法陣を包んだ光よりもさらに辺りが眩しくなった。

 眩しさが落ち着き目を開けると、そこには燃え盛る炎に包まれた鳥、フェニックスが現れている。天井すれすれまで舞い上がった従魔は、華麗に聖堂の梁に止まり、我々を見下ろしていた。



 「う、美しい…」



 シーンとした聖堂内、ぽつ と感嘆の声が響く。

 王子本人は驚いた様子も見せず、いつもの人懐っこい笑みを浮かべて「おいで、」とだけ言って颯爽と中庭へ出ていってしまった。

 その毅然たる態度に主人と認めたのか、フェニックスは大人しく王子に付いて行った。

 彼らが聖堂を出て行くまでは皆驚きと恐怖で鎮まりかえっていたが、出て行った途端「さすがは王家。素晴らしい。」「伝説級とは。この国の未来は明るいな。」などと賞賛が相次ぐ。段々のその輪は広がり、周りの方がむしろ騒がしいほどだ。

 


 そんな中ひっそりと魔法陣に立ち、既に詠唱を始めていたのはアレン・ベネクレクスト。

 彼が詠唱を終えると、今度は雷鳴が轟き、室内であるにもかかわらず雲行きが怪しくなる。

 そして召喚光の中から出てきたのは、雷を操る鳥、サンダーであった。

 フェニックスとは違い、堂々たる姿で天井高くを旋回しつつこちらを見下ろしている。

 アレンもまた、大して反応もせず中庭へと出て行ってしまった。


 あっという間に2体連続で伝説級の従魔が召喚されたことに対し、皆 唖然とするしかなかった。

 その後そこに残っていた者によると、しばらくは魔法陣へ向かう生徒は現れなかったという。




 *




 「アレンは雷か。僕との相性は良くもなく 悪くもなくってところだね。」


 アレン中庭に出ると、王子の声が聞こえてくる。

 声のする方に視線を向けると、ウィリアムは上級生を含めた大勢の生徒に囲まれていた。



 「共闘は難しいかもしれないな。戦う時は有利不利なくて面白い戦いになりそうだ。」



 アレンはタイミングを見計らって話しかけようと列を成していたクラスメイト達を上手く受け流し、ウィリアムの元へと近づいていく。

 こういう時 ウィリアムはいつも周囲に丁寧に対応するな、とつい感心してしまうが、将来王位に付く者として時には冷たく遇らうことも必要だと教えてやりたいと思う。

 そして威厳のある王のもとで、忙しいながらも補佐として支えて行くのだろうな。


 そう考えて、はっ と思わず息を呑んだ。

 自分がこんなにも明るい未来を思い浮かべるなんて。


 まだ完全に解呪できているかなんて分からない。この先長生きできる保証なんてない。

 それでも、今まで考える前に諦めていた自分の未来を、真っ暗なイメージ以外で思い浮かべられる日が来るなんて思ってもいなかった。


 それもこれも、全て彼女のおかげなのだ。

 先に召喚の儀を終え聖堂を出て行ってしまったはずの彼女を、目で探す。

 この式に参加できたことも、魔法陣に乗って詠唱を唱えることも、立派な従魔を召喚できたことも、まだこうして息をしてご飯を食べて友人達と学校で授業を受けられていることも全て。



 「聞いてる?…って あぁ、熱烈だね。」


 「は?」


 「とぼけちゃって。アレンも可愛いところあるんだね。」


 「何なんだ。おい、どこへ行くんだよ」


 

 ウィリアムが笑いながら意味不明なことを言ってくるが、何だか悪い気はしなかった。

 彼は従魔のフェニックスへ目をやると、何かやり取りをしたのか歩き出す。

 自分の従魔もそれに付いて行ってしまったので、大人しく一緒に移動することとした。


 フェニックスが漸く止まったかと思うと、そこにはオレンジ色をしたイルカが宙を飛び跳ねていた。

 あ、と思った時にはウィリアムがイルカの主人へと話しかけていた。



 「やぁ、うちの従魔が悪いね。お邪魔しても良いかい?」


 「殿下!流石ですね。フェニックスですか。」


 「うん。そうみたい。でもウィンスレット嬢の従魔とは相性が悪いから勝てそうにないね。」


 「いやいや、伝説級の火力で押し切られそうですけど…」



 2人が楽しそうに話しているのをぼうっと眺めながら、どこかモヤモヤする気がしていた。

 彼女が自分に気付いてもくれないことが、無性に腹立たしくも感じる。

 いつもは冷静に振る舞っているつもりだが、その時だけは声が大きくなっていたことに 自分でも気が付いていなかった。



 「雷となら!!相性抜群だと思うな。練習すれば連携技とかもできるんじゃないか?」


 「まぁ、貴方もサンダーなんて凄いわ。たしかに氷水と雷なら色々できそうね。」


 「あぁ、そうだよ。」



 アレンは訳もわからず、心の中でガッツポーズをした。



 「だから、」


 「アレン様!本当素晴らしいですわ!うちの子も見てくださいまし。」

 「相性が良くないのは残念ですが、やり方は色々あるはずですもの。そうだわ、わたくし従魔用のお菓子を持ってきましたの!どうぞ受け取ってくださいまし。」



 もう少し話していたいと思い次の会話内容を探していると、それまで様子を見て隠れていた令嬢達にあっという間に囲まれてしまった。

 隣では同じく令嬢に囲まれているウィリアムがお腹を抱えて笑っている。

 いつの間にかユリカはどこかに行ってしまったし、ウィリアムは謎に笑っている。

 アレンはもう部屋に帰りたい気分だった。

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私は薬じゃありませんっ!〜お願いだから依存しないでください〜 (旧タイトル:薬で治した狼さんに襲われてます?) 百合夢 @lilyonic

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