第46話 新しい仲間と名前

  

 4学年も終わりに近づき、最後の授業では召喚の儀が行われる。

 この学年に関わっている教員はもちろん、低学年担当の授業のない教員全員と5,6年生の生徒が補助として参加する大きな儀式だ。



 ユリカはこの日をずっと楽しみにしていた。

 教科書には学校に古くからある"召喚用の魔法陣"の上に1人ずつ立って呪文を唱えると、その生徒に合わせた従魔が1体だけ召喚されると書いてあった。

 従魔の魔法適性は召喚者の適性に左右され、見た目は召喚者の持つ魔力とイメージ力によるという。それなりの魔力があり具体的な見目まで想像できればイメージ通りの従魔が召喚できると言うが、なかなか難しいらしい。

 だからか、世の中には動物モチーフの従魔が多い。

 歴史上では何度も召喚の儀を試した人がいるらしいが、何度やっても最初に召喚した従魔が歪みの間で異界とこちらの世界とを行ったり来たりするだけだったという。つまり、人生で一度きりということだ。

 


 「ユリカはどんな子召喚するか決めてきた?」



 ホームルームから魔法陣のある聖堂に移動中、アシュリーが笑顔で問いかけてくる。

 相変わらず今日も可愛い。



 「うん!あのね…この子にしようと思って。」


 「あー!」



 そう言って、胸ポケットに差し込んでおいたイルカのペンを出す。

 以前アシュリーと一緒に街へ出かけた際にカンテラ文房具店で買った、お揃いのガラスペンだ。

 ペンの持ち手には魔法で動く動物のガラス細工が付いており、私のはイルカ、アシュリーのはハリネズミをモチーフとしている。

 私の魔法適性は氷であるため、海や水のイメージがあるイルカは難しいかとも考えたのだが、このペンがお気に入り過ぎて他に良い案が浮かばなかったのだ。

 また、従魔は召喚者と同じ言語が話せると言う。いつも一緒に勉強を頑張ってきたこの子と話してみたかった。



 「一緒!私もこの子をモデルにしようと思ってたの!上手くいくと良いよね!」



 私が出したイルカのペンの隣に、アシュリーがハリネズミのペンを並べる。

 スキップでも始めそうな勢いで、嬉しそうにしているアシュリーは破壊的に可愛い。周りにいる男子も、鼻の下を伸ばしながらチラチラと見ているのが丸わかりだった。




 聖堂に入ると、まずは無事に儀式が執り行われるよう、全員でお祈りをする。

 そのあとは上級生に付き添われながら魔法陣の周りに並び、順番に召喚をしていく。ただそれだけだ。

 並ぶ順番は特に決まっておらず、イメージがしっかりできていて自信のある者からの、謂わば挙手性である。


 1番に名乗り出たのはクラスのムードメーカー、レン・フォルグラスチム君。

 元気いっぱいの彼は、意気揚々と魔法陣の上に立つと大きな声で詠唱を始める。

 緊張感漂う中、彼の勢いに皆が呑まれそうになりゴクンと唾を飲み込む。

 迫力のある大きな声で呪文を唱え終わり、彼ごと魔法陣の光に包まれると…出てきたのは可愛らしいインコだった。



 「あっれぇ?強く美しく気高い、どこまでも飛んでいけるような鷹をイメージしたのに?!」


 「ほら、後ろがつかえるから早く進みなさい。」



 グレゴール先生の呆れた声に会場からはドッと笑いが起こり、緊張感は一気になくなった。

 インコだって美しく気高い鳥であることには間違いない。

 そのままその少し大きめのインコを肩に乗せたまま、上級生に中庭へと連れ出されていった。


 それからは順々に召喚しては喜び、落ち込み、自分の従魔の方が凄いだの、あの子と従魔を通してお近づきになりたいだの騒がしい状態が続いた。

 中には従魔を制御できず尻に敷かれ、教員や上級生達がフォローに回っているような生徒もいた。それを見たユリカは、ゾレナさんの従魔エクトスを思い出してしまったことは心にしまっておくことにする。


 そしてユリカの順番になり、魔法陣の上に立ち呪文を唱える。

 魔法陣が光り始めたと思ったら、暖かい何かに包まれた。あまりのまぶしさに目を閉じてしまうが、キュキュッと可愛らしい鳴き声が聞こえてゆっくりと目をあける。

 すると、目の前にはオレンジ色のかわいらしいイルカが空を泳いでいた。

 泳ぐたびにキラキラと氷の破片のようなものが波のように散らばっては消えていく。

 思わずぼうっと眺めていると、上級生に肩をたたかれて移動しなければならないことに気付いて慌てて中庭へ移動する。


 

 「無事に従魔召喚おめでとう。まずは挨拶してごらん。」


 「ありがとうございます。はい、やってみます。」



 ついてくれた上級生が優しく次の行動を示してくれる。

 優雅に泳いでいた従魔はゆっくりとユリカの前に降りてきた。



 「キュキュッ!初めまして、ご主人様。あなたの従魔ですわ。よろしくお願い致します。」


 「は、初めましてイルカさん。ユリカ・ウィンスレットです。よろしくお願いします。それと、ご主人じゃなくてユリカって呼んで欲しいな。パートナーになるんだもの!」


 召喚した従魔はものすごく丁寧にあいさつをしてくれた。

 上級生が「ふふ、イルカさんじゃなくて、きちんと名前をつけてあげたらどうかしら?」とアドバイスをくれたが、全く考えていなかった。すぐには思い浮かばず「そうですね、うーん。」と悩む。

 そんなことをしていると、アシュリーが召喚を終わらせてやってきた。



 「ユリカー!私も無事召喚できたわ!」


 

 連れている従魔を見ると、直前に見ていたガラスペンのハリネズミそのものであった。

 ピンクのクリスタルのようなものでできたトゲを身にまとうハリネズミがちょこんとアシュリーの手の平に乗っていた。

 私達は同じガラスペンからイメージして召喚したが、私の従魔は人が乗れそうなくらい大きいが、アシュリーの従魔はとても小ぶりであった。



 「わぁ、可愛い!よろしくね、ハリネズミさん。」


 「アシュレイさまのお友達?チュチュ…恥ずかしい…けど、よろしくお願いします…」


 「か、可愛い〜!恥ずかしがり屋さんなのかしら?あ、そうだアシュリー、名前ってもう考えてある?」


 「ユリカのイルカさんも素敵ね!うん、お顔見て似合わなかったら変えようと思ってたけど…やっぱり、アリアドネちゃん!」


 「チュチュ!名前!アリアドネ?嬉しい!」


 「すっごく良い名前だと思うわ!イルカさんは…そうだ、ラキューロは?どうかな?」


 「キュキュ!素敵な名前、気に入りました。ありがとうございます、ユリカ様。」


 「じゃあ決まりね!よろしくね、ラキューロ!」



 アリアドネはアシュリーの肩に移動して彼女の頬をペロペロと舐める。

 ラキューロは嬉しそうに宙をクルクルと泳いでいる。

 微笑ましい光景に、周りからの視線を集めていることは2人は知る由もなかった。

 

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