タイプライターと猿をかった話

作者 華川とうふ

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★★★ Excellent!!!

もし猿がタイプライターをランダムに打ち続けたら、いつかはシェイクスピアの作品ができあがるだろう。そんな話がある。(ちなみに「無限のサル定理」というらしい。)
『タイプライターと猿をかった話』は、その定理をモチーフにした作品だと思われる。

   ***

物語は奇妙な実験の様子からはじまる。
暇つぶしと称し、「私」は猿に小説を書かせようと思い立つ。
猿とタイプライターを購入し「タイプライターを叩きなさい」と命令する。
だが、猿はタイプライターを叩くどころか机を蹴飛ばしてしまう。

読み進めていくうちに、なんだか奇妙だぞと思いはじめる。
突然「猿の言語」で話し始める猿。
その猿とあまりにも自然にやり取りをする「私」。

とうとう猿はタイプライターに向かい、最初の一文字を打つ。
その様子に目が離せなくなる。
だが、いつしか「私」と「猿」の意識の食い違いが顕著になってゆく。
はたして猿は小説を書き上げることができるのか。

そして、最後には強烈などんでん返しが待っている。

   ***

作品を読み終えたら、ぜひ最初からもう一度読み返してほしい。

おそらく一度目は「私」が「猿」を見下しているような空気が流れているだろう。
ところが、二度目はその印象がすっかり変わる。
序盤から張り巡らされた伏線の数々に驚く。
そして、物語に漂う「奇妙な雰囲気」の正体がわかる。

『小説を書きたくないのですか?』
『書けないっていってるんだ』

この少し「ズレた」やり取りの本当の意味がわかったとき、思わず「ああ! そういうことか!」と膝を叩いた。
作中に登場する「私」は「猿」に対して「ちゃんとした答えもだせない」と評しているが、実際にズレているのははたしてどちらなのか。

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“Your soul is carried to the most suitable place with… 続きを読む