第7話 それから
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「夏綺さん。前は曖昧になっちゃったけど、もう一回はっきりさせたいことがあるんだ」
「…………海が綺麗だね」
「……夏綺さん」
「なあに」
「ぼくは、夏綺さんが、好きだ」
「……」
「順番が逆になってしまったけど、ぼくは、君と付き合いたいです」
「……」
「もし夏綺さんも、ぼくのことを好きでいてくれているなら、付き合ってください」
「……そっか、そう来るんだ」
「え?」
「ううん、なんでもない。ハルシくん。わたしも君のことは好きだよ」
「……じゃ、じゃあ」
「でも、返事をする前に一つだけ聞かせて?」
「……」
「わたしと付き合って、どうしたいの?」
「それは……今まで通りこうして遊んで、たくさん喋って」
「……それと?」
「うう、はい、そりゃまあエロいこともする」
「よく言えました。でもさ、それって今も変わらないよ?」
「……」
「わたしは今でも、ハルシくんとなら基本的にどんなデートだって付き合うし、何回だってエッチしていいよ」
「……でも!」
「でも」
「それじゃあただのセフレじゃないか」
「また、そうやって、名前を付けたがる」
「え?」
「恋人だとかセフレだとか、そういう言葉遊びに意味あるの? ハルシくんはわたしのことが好き。わたしはハルシくんのことが好き。他に何か必要?」
「だからその! ……その……ああ、そういうことか」
「なにがわかったの?」
「ぼくは、ただ、保障が欲しいんだ」
「保障」
「お互いに好き同士だという保障が欲しくて、恋人関係になりたいんだと思う」
「そっか」
そうやって、形のない“好き”という感情に、君は形を与えてしまうんだね。
「わかった。ハルシくんの気持ちはよくわかったよ」
「うん」
「付きあお? 変な問いかけしてごめんね。さっきも言ったけど、わたしも君のことは好きだから、ぜひともよろしくお願いします」
「……っ!」
ぼくは思わず手を握った。
江ノ水を出たところから見える海に、太陽が沈んでいく。いつか見た夕焼けを思い出す。
「じゃ、帰ろっか」
「そうだね」
「あ、夏綺さん」
「どうしたの?」
「これからお付き合いするということで、ひとつだけ聞いておきたいことがあるんだ」
「……なにかな?」
「夏綺さんが、どうしても許せないことって、ある? 付き合っていく上で、変な地雷を踏みたくないから知っておきたくて」
「ああ、白いパンツを履く人は厳しい、とかウノって言ってな~いっていう人は無理、とかそういうやつかな」
「そうそう!」
「うーん、地雷かあ、例えばハルシくんは?」
「ぼくはね、映画館で映画を観ていて、体調不良とかの事情がないのにエンドロールで席を立っちゃうのはやめてほしいな」
「うん、それはわたしも苦手だな」
「ほ、よかった。で、夏綺さんは?」
「うーん、あんまり思いつかないなあ」
「じゃあ答えやすいよう質問を変えるね。人生で一番嫌な瞬間って、なにをしているとき?」
「嫌いな瞬間」
「うん」
「……濡れた靴下を、履き直すときかな」
「……ぷっ」
「ふふ」
「あははは! それはぼくもすごく嫌いだよ! わかるわかる」
「でしょ? わたし、本当にあの瞬間が嫌いでさぁ」
でもね。
「ま、もしまた思いついたらその都度教えてよ。ぼく、夏綺さんの嫌がることはなるたけしたくないと思っているから」
「それはどうもー。そうね、思いついたら教える」
本当の人生で嫌いな瞬間の第一位はね。
「じゃ、帰ろっか」
人に、価値観を押し付けられた時、なんだよ。
サマータイムトリミング 姫路 りしゅう @uselesstimegs
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