エピローグ

 心拍計の音が鳴り響いている。

 目を開けると、そこは見慣れた天井……病院か……

 私……学校で倒れたんだっけ……確か、そうだった。



 聞いたところ、学校で倒れて、救急車で運ばれて、そのまま緊急で手術したらしい。そしてその手術はうまくいったらしい。だからこうやって生きてるんだと思うけど。



 数日間は体が思うように動かなかったけど、あとは順調に回復した。


 学校で倒れたなら、開飛くん知ってるよね……? あの時いたよね……? 来てくれてもいいのにな……


「先生、開飛くん、来てないですか?」

「え、あ、ああ……来てないね……」


 なんか、おかしい? 気のせいか……


「あの……さ、ちゃんと、受け止めてほしいんだけど、」

「うん」

 なんだろ

「開飛くん、亡くなったんだ」

「えっ……」


 正直、理解できなかった。信じられなかった。開飛くんが亡くなったなんて……もう、会えないなんて……なんで、なんでこんなことに……なんで私だけが生きて、開飛くんだけが死ぬの……? どうして、どうして……



 数日間寝込んだ。

 気持ちの整理がつかなかった。そう言えばきれいだけど、ほんとは何もわかってない。何もできてない。

 先生も、お母さんも、励ましてくれるけど、励まされたって、何も変わらない。


 そして私はふと思った。『開飛くんって、先生が手術できるからここに来たんだよね……?』と。

 ということは、開飛くんを治せたのは山田先生だけで、山田先生は私の手術をしてた。だから助からなかったの? なら私のせいじゃん、私がこんなになったから、学校で倒れたから、急変したから、だから開飛くんが死んだ。そういうことなんだ……


「そんなことない。そんなことないよ」

「だって、だってそういうことじゃん、それとも、なんかあんの?」

「開飛くんは、君の手術中に亡くなったんじゃない。ほんとに、ごめん」

「だったらなおさら……助けてよ……ねぇ……」

「ごめん……」

「妃奈! なんてこと言ってんの!」


 お母さんは私を叩こうとした。でもそれはしなかった。


「あなたもわかってるでしょう? お医者さんでも治せないものがあるの。助からないことだってあるの。あなたが言う開飛くんがどんな子かはわからないけれど、受け入れなさい」

「そんなの……無理だよ……」


 その時、携帯が鳴った。

 それは開飛くんからのメッセージだった。


『これ、前に野良でやってたときにたまたま前に教えてもらった妃奈のアカウントとマッチングしたから録画したやつ。俺たち、一応一緒にやってたよね?』


そこに添付してあった動画には、確かに私の垢と開飛くんが一緒にプレイしていた。

急に涙が溢れてきた。まるで自分が死ぬことを準備してたみたいで、悲しかった。そして開飛くんが、ほんとに死んでしまったことを理解できたようにも思えた。



「……最後、手紙を書いたらどう? きっと届くわ」


 そんなの届くはずない。でも、今はそれしかできなかった。



 開飛くんへ

 私は、なんとか今、生きてます。開飛くんが死んじゃって、心にぽっかり穴が開いた気分です。開飛くんも、同じ病気で、同じ理由で引っ越してきて、そういう同じような子と、友達になれてほんとによかったし、私は開飛くんに救われました。ほんとにありがとう。

 うまく文字にできないから最後にこれだけ。


 私は開飛くんのことが好き……だったかもしれない。

 今まで本当にありがとう。


 なんか敬語になっちゃってごめんね

 妃奈



 書けた……かな……? 届いた……かな……?


『ちゃんと届いてるよ。妃奈、俺も好きだったかもしれない。ほんとにありがとう。俺の分まで、普通に生きて。妃奈』


 か、開飛くん……!?


 私、頑張って生きるね。

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消えそうな君と1年の物語 月影澪央 @reo_neko

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