第3話
〇廃工場(第2話の続き)
ヴァリガナイトの攻撃により爆散するエレメンター・グランド。
グランド「ぐあああああああああ!」
力尽き、変身が解けて倒れるマサル。
ナイト「我が剣は皇帝のため、グランドマスターであるお前を倒すためにある。だがお前の攻撃には、決定的に大義が欠けている。それではこの体には傷一つつけられん」
〇タワー・展望台
地上100mに位置するタワーの展望台。
眺めを楽しむ客達がいる中、屋根裏から突如現れるクモ怪人・シッタ。
シッタ「ヒャーハー!死ねぇ!」
恐れおののく人々に糸を吹きかけると、風の力でそれらを中央の柱に巻き取り、巨大なクモの巣を作り上げる。
巣からタワーの外に糸が伸び、それを伝って子グモが散り散りに外へ飛び出す。
〇街中
糸の伸びるタワーをスマホで撮る一般人に、子グモが飛び掛かる。
思わず顔を手で覆うが、気がつくとクモが消えている。
一般人「何、今の……うっ⁉」
突如苦しみ倒れる一般人。
悶えるその手には子グモが埋まり、体を蝕んでいる。
〇廃工場
クモに苦しむ人の声が聞こえ、闇が景色の奥のタワーに吸い上げられているのを見ているしかないマサル。
ユキ「うっ……ああっ……!」
先ほどまでより激しく苦しみ出すユキ。彼女の手にもクモが埋め込まれている。
マサル「ユキ……!」
立ち上がることもできず、剣を持ったヴァリガナイトがにじり寄る。
ナイト「今のお前に、できることは何もない」
そこに、突如ヴァリガナイトに向けて光弾が放たれる。
ナイト「⁉」
全て弾き落としたヴァリガナイトの前に、重聖銃・エッジガンナーを携えたテルと探知箱を持ったエリが現れ、ヴァリガナイトの前に立ちふさがる。
マサル「お前ら……!」
テル「ここから離れるぞ!」
テル、エッジガンナーにカートリッジを装填し、銃口をヴァリガナイトに向ける。
ヴァリガナイトもそれに反応し、再度剣を構える。
テル「はあっ!」
ガンナーから光線が放たれる。
ナイト「ぬうっ!」
光線と闇の剣がせめぎ合う。
後ずさるヴァリガナイトだが、全力を剣に込め反撃、両者の間で爆発が起こる。
煙が晴れ視界が開けると、4人の姿が工場から消えている。
ヴァリガナイトは憮然とした態度で剣の刀身に傷が入っているのを一瞥し、それを腰に収める。
〇事務所・リビング(朝)
ドアが開き、テルに肩を貸したマサルと、ユキを背負ったエリが入ってくる。
その様子に驚き、4人に近寄る政五郎。
政五郎「おいおい……ちょっと待て。救急箱持ってくるからな」
× × ×
式紙でマサルの治療をするテルと、救急箱を抱えそれを見ている政五郎。
政五郎「便利なもんだな……」
治療を終え、銃口の傷ついたエッジガンナーを手に取るテル。
テル「だが、一時しのぎでしかない……
エリが入ってきたのと正反対のドアから現れ、神妙な面持ちで報告を行う。
エリ「ユキちゃん、今は式紙で闇の影響を抑えてるけど、正直いつまで保つか……」
俯き、その言葉に拳を固く握るマサル。
テルはそんな彼の胸倉を掴み、そのまま立ち上がる。
エリ「テル……!」
テル「お前、俺達に何も言わずに行ったな?」
マサルは何も答えない。
テル「お前が俺達を信用しないのは勝手だ。だが1つ言っておく」
エリを一瞥して、
テル「俺達は、今度こそこの手でグランドマスターを守らなければならない。それがやらないと言っているお前であっても、俺達は可能性に賭けるしかない……。お前を死なせるわけにはいかないんだ……!」
マサル、ようやく呟くように口を開く。
マサル「俺、どうしたらいいか分からなかった……」
胸倉を掴むテルの手をゆっくり解き、
マサル「いきなり戦えって言われて、戦うのは死ぬほど痛くて、ずっと頭の中にめぐ姉のことが浮かんで……。でも、あいつにやられて分かった。あいつら戦わなきゃ、沢山の人が苦しんで、もっと辛い目に遭っていくだけなんだって……」
痛みの残る右腕を押さえ、
マサル「だから、決めた。絶対に生き残って、ユキも、巻き込まれた人達も全員助け出す……!そのために力を貸してくれ」
固い意思で見つめ合うマサルとテル。
その間に政五郎が割って入る。
政五郎「そういうことなら、人手が要るだろ?」
マサル「おっちゃん……」
政五郎「なんでも屋をご贔屓に、だ」
そこに窓から鳥型の式紙が現れ、政五郎の前を通ってエリの手元に乗る。
エリの方を向く一同。
政五郎「うおっ⁉な、なんだそりゃ⁉」
マサル「それも式紙?」
ユキ「そう。タワーを偵察させてたんだけど……やっぱり展望台の人達は捕まってるみたい」
テル「だが、タワーには守り手がいる筈だ。恐らくさっきのやつだ」
改めて傷ついたエッジガンナーを持ち、
テル「俺たち全員でも敵わないだろう」
マサル「そのことなんだけど……」
全員の中心に立つマサル。
マサル「1つ、思いついたことがある」
〇タワー前・通り(昼)
タワーを背に待ち構えるヴァリガナイトと、それに相対するマサル・テル・エリ・政五郎。
ナイト「このヴァリガナイトから逃げ延び、再び相見えたこと、その執念を讃えよう」
剣を抜くヴァリガナイト。
ナイト「だが、ここからは先のようにはいかん。雌雄を決する時だ」
マサル以外の3人が道を横切り、マサルがそれを庇うように手を差し出す。
3人に向けて斬撃を放つヴァリガナイト。
だが、土の壁が現れそれを防ぐ。
ナイト「これは……」
腕輪が土色に光る。
ゾルド『これでよいのか?』
マサル「ああ、あとは見ててくれ」
ゾルド『よかろう』
〇回想・事務所
マサル「俺があいつ……ヴァリガナイトをひきつける。3人はその間に、タワーに向かってくれ」
そう言うとマサルは部屋の真ん中の机の、ゾルドが入った箱に向かう。
マサル「……一緒に来てくれるか?」
ゾルド『覚悟ができたか』
マサル「それを見届けてほしい」
〇タワー前・通り
ブラム『よし……いくぞ、マサル!』
マサル「ああ!」
腕輪を起動し、ヴァリガナイトに向けて走るマサル。体が炎をまとい、グランド・ブラムへと変身。
トンファーでヴァリガナイトの剣技を防ぎつつ攻撃を仕掛け、やがて鍔ぜり合う。
ナイト「悪くない動きだ。だがそれでも私には届かん」
グランド「やってみなきゃ……分からない!」
〇タワー・展望台
エレベーターが開き、シッタが振り向くとそこからテル・エリ・政五郎が現れる。
シッタ「何だお前ら?」
テル「手筈通り、事を片付けるぞ」
政五郎「ぜぇ……ぜぇ……了解……」
戦闘員ラスカを呼び出すシッタ。
シッタ「行けぇ!」
ラスカ達を蹴散らすテルとエリ。政五郎も攻撃を躱しながら、中央の巣へ近付く。
エリがナイフで巣の糸を切り裂き、捕らわれた人を助け、政五郎に渡していく。
エリ「おっちゃん!」
政五郎「お、重……任せろ!」
シッタ「させるか!」
2人を襲おうとするシッタを止めるテル。
テル「こちらの台詞だ」
テルが剣としてエッジガンナーを振るい、シッタと渡り合う中、助けた人々をエレベーターに運んでいくエリと政五郎。
〇タワー前・通り
グランド、隙の無い連撃をヴァリガナイトに加えるが全て弾かれ、剣とトンファーがぶつかる音が何度も響き合う。
力で勝るヴァリガナイトはグランドの攻撃を押し上げ、斬撃を何度も浴びせる。
怯むグランドだが、諦めずに立ち向かう。
グランド「まだだ!」
〇タワー・展望台
エリ「(人を担ぎ)これで最後!」
最後の1人とエレベーターに乗るエリ。
シッタ「このぉ!」
エレベーターに糸を吐くシッタだが、テルが肉壁となってそれを受ける。
政五郎「よし!」
政五郎がボタンを押し、捕らわれた人達を乗せたエレベーターのドアが閉まる。
それを振り返って確認するテルだが、苛立った様子のシッタに蹴り飛ばされる。
テル「ぐっ!」
シッタ「……まあいい。どうせバラ撒いたクモどもが闇を運んでくれる」
〇事務所・ユキの寝室
ベッドに横になり、苦しみだすユキ。
ユキ「うっ……ああっ……!」
手首を子グモが這い回っている。
〇タワー・展望台
追撃を躱し剣を振るうテルだが、糸のせいで思うように動けず首を掴まれる。
シッタ「それとお前の命で、チャラってことにしてやらあ!」
シッタが攻撃を放つ寸前、式紙を取り出すテル。
テル「ふっ!」
辺り一面が強い光に包まれ、思わず掴んでいた手を放して目を覆うシッタ。
シッタ「ぐあっ!」
光が消え、お互いによろめく2人。
シッタ「こんな子供騙しで、やられると思ったか!」
怒りを募らせたシッタの猛攻に、再度危機に陥るテル。
〇タワー前・通り
突きを肩に受け後ずさるグランド。
膝をつき、ヴァリガナイトの方を見上げると、また立ち上がって攻撃を仕掛ける。
それらを弾くヴァリガナイトだが、グランドはトンファーをクロスさせて剣を封じ、体重をかけて体を押 す。
ナイト「ふんっ!」
だが、足払いで体勢を崩され、背中から地面に叩きつけられると形勢は不利に。
剣を押し込むヴァリガナイト。
しかし、グランドがトンファーを槍に合体変形させ、エネルギーを溜める。
グランド「炎投……煌之月!」
至近距離からの必殺の投擲を思わず躱し、後退するヴァリガナイト。籠手に傷がついた程度で、ダメージは無い。
ナイト「考えたな……だが、無意味だ」
倒れたまま一息つくグランド。
そこからゆっくり上体を起こすと、
グランド「(皮肉を込めて)本当にそうか?」
頭上を見上げるグランドの様子に、ハッと振り返るヴァリガナイト。
投げられた槍は炎を纏ったまま、巣の張られた展望台を直撃する。
〇タワー・展望台
テルの胸倉を掴んでいたシッタが、こちらを目掛け飛んでくる槍の存在に気付く。
シッタ「んなぁっ⁉」
慌てて手を放し避けるも、槍は巣に直
火が燃え広がって巣を焼き尽くし、集めた闇が漏れ出ていく。
シッタ「あ、ああ、俺の巣がぁ……!」
必死で卵嚢に闇を搔き集めるシッタ。
満身創痍で満足気にそれを見るテル。
〇タワー前・通り
火の手が上がる展望台を呆然と見つめるヴァリガナイト。
グランド「はああああああああ!」
振り向くと炎を纏った拳を振り上げたグランドが目の前に迫り、思わず剣で受け止める。
ナイト「貴様……!」
腕輪を起動すると、グランドはグランド・ウォーカーになり、青龍刀を持つ。
ヴァリガナイトの飛ばした斬撃を水の噴射で跳んで躱すと、そのまま回転して距離を詰め、高圧水流の剣を振るう。
再び剣で受けるヴァリガナイトだが、亀裂に加わった炎の熱と水で刀身が限界を迎え、剣がパキリと折れる。
驚くヴァリガナイトに、追撃が加わる。
グランド「ハアッ!」
鋭利な一撃を防ぎきれず、傷を受けるヴァリガナイト。傷口と折れた剣を見つめ、
ナイト「……最初から、これが狙いだったか」
グランド、肩で息をしながら、
グランド「……あれからずっと、一発お前に当てたかった……」
自分を見据えるグランドの姿に敬意を表し、折れた剣を収めるヴァリガナイト。
ナイト「お前の大義、しかと見届けたぞ……」
ヴァリガナイト、その場から消え去る。
膝を屈し、変身を解除するマサル。
マサル「やった……!」
腕輪が光り、精霊が話し出す。
ゾルド『よく言うわい。光が見えるまで随分とコテンパンにやられおって』
マサル「手厳しいな……」
マサル、ゾルドの小言に笑みを浮かべる。
ゾルド『……じゃが、筋は悪くない。それぐらいのが鍛え甲斐があるわい』
マサル「……そっか」
膝を支えに無理矢理立ち上がるマサル。
ゾルド『さて、もうひと仕事じゃぞ!』
マサル「ああ!」
〇タワー・展望台
風の力で突風を起こし、巣の炎をなんとか消し飛ばすシッタ。
疲れ切っていると、エレベーターが開く。
シッタ「てめぇ……⁉」
中からはマサルが1人で現れる。
シッタ「弟だけじゃなく、俺の作った巣まで壊しやがって……許さねえ!」
マサル「……行くよ、ゾルド」
ゾルド『儂の力、存分に振るうがいい!』
腕輪を起動、構えを取るマサル。
マサル「……結晶!」
そう呟くように言うと、全身を土色の装甲に包まれた戦士、グランド・ゾルドに変身する。
ゾルド『宣言する!お前を倒すのに、儂らはここから一歩も動かん!』
シッタ「んだとおっ!」
挑発に乗り、グランドに糸を吐きかけるシッタ。風の力で糸が縦横無尽の軌道を描き、グランドの四肢を絡め取る。
グランド「フンッ!」
しかし、グランドは怪力で糸を振り回し、シッタを天井と床に叩きつける。
シッタ「ぐはっ⁉」
そのまま糸と共に引っ張り上げられるシッタ。グランドは力を振り絞って絡んだ糸を引きちぎり、宙を舞うシッタを召喚したハンマーで迎え撃ち、吹っ飛ばす。
シッタ「こうなったら……!」
自らの風の力を暴走させ、巨大なクモの姿をとるシッタ。
シッタ「死ねええええええ!」
突進し、巨大な脚で攻撃を加えるシッタ。
グランドは土の力で装甲の隙間を覆い、鋭利な攻撃を全て防ぎきると、床を操りシッタの脚を固定して動きを封じる。
グランド「剛重・土連撃(ごうじゅう・どれんげき)!」
土のエネルギーを溜め巨大化したハンマーで8本の脚を砕くグランド。
巨大化の解けたシッタの胸部に必殺の一撃を見舞い、核ごと体が砕け炸裂する。
シッタ「こんな、こんなバカなあああああ」
爆散したシッタの体から風の精霊が球となって現れ、腕輪に宿る。
ハンマーを置き、一息つくグランド。
〇タワー前・公園(夕)
逃がした人達の体から子グモが消える。
それを確認するエリと政五郎。
政五郎「(魂が抜けたように)やったか~」
そこへテルに肩を貸し、タワーの方向からよろけながら歩いてくるマサル。
エリ「マサル!テル!」
エリ、2人のもとへ駆け寄り、肩を抱く。
マサル「ちょ、ちょっと、危ないって!」
エリ「良かった……2人とも無事で……!」
テル「無事と言うには、苦しいがな……」
マサル「うん……凄く疲れた……」
突然スマホが鳴り、テルをエリに預けて電話に出るマサル。
ユキ『……マサル?』
マサル「……ユキ、起きたのか?」
ユキ『うん……なんとか』
ユキが申し訳なさそうな声音で何かを言おうとしているのを察し、遮るマサル。
マサル「大丈夫!」
ユキ『……え?』
マサル「ユキも、俺も、皆も、大丈夫だから。 (穏やかに)帰るまで、待ってて」
ユキ『(安心して)……うん!じゃあ、また』
通話を終え、腕輪を見つめるマサル。
マサル「(呟くように)グランドマスター、か」
それに反応するテルとエリ。
マサル「俺がそれになって皆を守れるなら……なってみる」
テル「……軽い奴だ」
目を閉じ、頬を緩めるテル。
それを見て微笑むエリ。
政五郎「ようし、とりあえず……この人達、どうする?」
そう言う政五郎の視線の先には助けた人達の姿が。体に糸が絡んでいる。
マサル「あー、そうだった!」
式紙を使い、急いで糸を切りに行くマサル達。疲れ切って座りそれを眺めるテル。
〇闇黒軍・アジト
折れた剣に手を添えるヴァリガナイト。
そこに近付くクインジャドウ。シッタが遺した卵嚢を小脇に抱えている。
クイン「お前にしては手痛いミスね」
ナイト「この借りは返す……必ずな」
クイン「まあいい。こちらの出迎えも済んだ。 来なさい。闇祷師デサーティン」
呼びかけに応じ現れる、鎌を携えた闇祷 師デサーティン。
デサーテ「まさかグランドがあそこまでやるとは。手の施し甲斐があるわい」
◇第3話 終◇
エレメンター・グランド[シナリオ] @tylar
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