第2話

〇事務所・ダイニング(夜)

 なんでも屋「ほしの」の事務所は、マサル達にとって住居としての役目も果たして いる。

 そのダイニングスペースで食卓を囲むマサル、ユキ、テル、エリ。

 キッチンでは政五郎が洗い物をしており、4人はビーフシチューを食べている。

エリ「ん~、美味しい!」

政五郎「違う世界の人の口に合うか心配したけど、味は世界を超えるってやつだな」

 2人の会話に困惑するマサル。

マサル「なんで受け入れてるんだこの人……」

政五郎「(得意げに)年の功だよ」

ユキ「まあ、あんな化け物が出てきたらね」

 テーブルにはサル怪人・タイセイが出現した件を記事にした新聞が置かれている。

マサル「……で、グランドマスターって結局何なんだ」

 質問を受け、スプーンを置くテル。

テル「さっきも話しただろう」

ブラム『俺達の世界には、5つの元素を司る精霊と、その力を操る元魔師がいる』

 マサル、突然喋り出す腕輪に驚く。

ブラム『その全てを操り、元魔師の頂点に立つ存在が、グランドマスターだ』

テル「だが、世界の外には他の世界を食らう闇の力が存在した。それを操るのが闇黒軍、そしてそのトップ、闇皇帝ダート」

 エリもスプーンを置く。

エリ「あいつら、とんでもなく強かった……」

テル「その力にエレメンティアも呑み込まれかけたが、グランドマスターが自らを犠牲にして、世界そのものを停止させた。爆心地にいた闇皇帝も実体を失ったが、人々を苦しめ闇を集めれば、いずれは復活する」

ブラム『それを阻止するために、敵に持って行かれた他の精霊と、グランドマスターの素質を持つ者の力が必要なんだ』

 その時腕輪から、青い光の球、水の精霊・ウォーカーが飛び出す。

ウォーカー『おっと、私を忘れてもらっては困りますね』

 突然のことに驚くテル以外の一同。

マサル「何だお前⁉」

ブラム『ウォーカー?……ウォーカーじゃないか!』

ウォーカー『そう、私は水の精霊・ウォーカー。そこな火の精霊・ブラムと同じく、グランドマスターに与する者。下品なサルめの体に押し込められ、散々な心地でした』

エリ「あんた、あの怪人の中にいたの⁉」

ユキ「じゃあ、他の精霊も……?」

ブラム『これならやれるかもしれねぇ。なあ、マサル……!』

マサル「嫌だ」

 マサル、腕輪を外そうとするが外れない。

マサル「俺は只の一般人だ……!世界とか何だとか、話のスケールが大きすぎる……!」

 結局根負けして諦める。

ブラム『なんだよ、さっきは勇敢に戦っただろ!』

マサル「それとこれとは話が別!」

 割って入ることもできず、言い合いを見ている3人。

 そこにひとり疑いの視線を向けるテル。

政五郎「じゃあそれはそれとしてだ、マサル。 ……今日から暫く、テルくん達をウチで預かろうと思うんだ」

マサル・ユキ「「……は?」」

政五郎「ほら、2人とも行くとこ無いし、暇な時は仕事手伝ってもらってさぁ。お前ら、明日も仕事入ったし」

マサル「いや、ちょっと待って。第一この2人だってどう思ってるか……」

テル「(立ち上がって)少しの間、厄介になる」

マサル「え?」

エリ「(ユキの手をとり)私、こっちに来てからこの世界の技術が気になってたの!」

ユキ「そういうことなら……いいかも」

政五郎「じゃあこの2組で、明日は頼むわ」

 話が纏まる中、1人だけ首を傾げるマサル。

マサル「いや、いやいやいやいや……」


(次の日)


〇百貨店・売り場(朝)

マサル「よろしくお願いします!」

 売り場の責任者にお辞儀をするマサル。横には普通に立っているテル。

 売り場は荒れていて、床に濡れた売り物が散乱している。

責任者「いやあ、急に来てもらって悪いね。昨日の件でさ、全フロア荒れ放題になっちまって……。そっちの子は新入りかい?」

マサル「(テルに頭を下げさせ)ええ、そんな感じです……」

責任者「そうか。じゃあ、2人でここのスタッフと協力して、片付け作業、頼んだよ」

 テル、その場から立ち去る責任者の背に

テル「了解した」

 それに対し、複雑な顔をするマサル。


〇闇黒軍・アジト

 巨大な顔・闇皇帝ダートの前に、クインジャドウ、ヴァリガナイトが現れる。

ダートの下には、タイセイが使っていた瓢箪が置かれている。

クイン「陛下、お加減はいかがでしょうか」

ダート『人間から集めた闇、悪くない。より多くの闇を集め、我が血肉となす』

ナイト「しかし、それには些か障害がございますな」

ダート『それは貴公の使命だ、ヴァリガナイト。……手立てはあろうな?』

ナイト「はっ。(ダートに背を向け)面を上げよ!」

 呼び声に従い、地中から姿を現すクモ怪人兄弟、シッタとハッタ。

2人「「イェーイ‼」」

ナイト「(向き直り)こ奴らと共にグランドマスターを退け、闇を集める作戦を立てております。そのために、エレメンティアで得た力を……」

ダート『うむ』

ダートが2つの光の球を放つ。緑色の球がシッタに、土色の球がハッタに宿る。

ハッタ「これが精霊の力……ヒャッハー!」

 喜び勇んでどこかへ消えるハッタ。

シッタ「つ、連れ戻します!」

ダート『待て』

 その一声で一斉にダートの方を向く3人。

ダート『まあよい。地上の者達があ奴に気を取られているうちに、作戦を整えよ』

 指令を受け、平伏する3人。

3人「「「……はっ!」」」


〇百貨店・建物裏(昼)

 壁に背を向けて座り込み休憩するマサル。

 テルが仁王立ちで見下ろしている。

マサル「……あんた、力あるな」

テル「あれぐらいはどうということは無い。

俺は戦士だ」

マサル「戦士って、エレメンティアのか?」

テル「エレメンティアには、厄介事もそれなりに多い。そんな時にグランドマスターと共に人々を守るのが、俺達の使命だった」

 マサルは話に耳を傾けながら、水の入ったペットボトルを鞄から取り出す。

テル「闇黒軍からは、守れなかったがな……」

マサル「(呟くように)守れなかった、か……」

 少しの間ペットボトルを見つめ、それを口に運ぶマサル。

 それを訝しげに見つめるテル。

テル「……お前、」

 話しかけようとしていたところに、突然着信音が鳴る。

 マサルがスマホを見るとユキの名前。

 電話に出る。

マサル「もしもし?」

ユキ(声)『……マサル。昨日の連中みたいなのがまた出てきて、人を襲ってる……!』

 顔を見合わせるマサルとテル。

テル「ここは俺が引き受ける。お前の力でなければ、奴らは倒せない」

マサル「……分かった」

 マサル、渋々その場を走り去る。



〇町中・広場(昼)

 逃げ惑う人々を襲うクモ怪人、ハッタ。

ハッタ「ヒャーハー!逃げろ逃げろ!この糸から逃げられるもんならな!」

 吐き出した糸で動きを封じ、土属性の力で体を圧迫され苦しむ人々から漏れた闇を、卵嚢のような袋に集めるハッタ。

 そこに駆けつけるマサル。

マサル「やめろ!」

ハッタ「ん?なんだ、お前?」

ブラム『早くしないと、糸で巻かれた人達が耐えられないぞ!』

マサル「分かってる!」

 腕輪を起動し、マサルがエレメンター・グランドに変身する。

ハッタ「おお、お前がグランドマスターか!」

グランド「……違う!」

 グランド、走って距離を詰め、そのまま徒手空拳でハッタに攻撃する。

 キックを受け後ずさるシッタ。

ハッタ「少しはやるみたいだな!」

グランド「まだまだぁっ!」

 正拳突きを放つグランドだが、突如目の前に土の壁が現れそれに当ててしまう

グランド「(拳を押さえ)痛ってえ~!」

 下を向いていると壁が消え、ハッタがクモの足を伸ばして攻撃してきて、それを受けて吹き飛ぶグランド。

ハッタ「馬鹿め!」

 グランドの手足にハッタが糸を吐き、体の自由を奪う。

 土の力で強烈な圧迫を受け、苦悶の声を上げるグランド。

グランド「くそっ。なんだ、これ……!」

ウォーカー『私がお助けしましょう』

 腕輪から水でできたカッターが飛び出し、糸を切り裂いてグランドを解放する。

ウォーカー『あれなるは土の精霊の力。私の力をお使いください』

 腕輪を操るグランド。

 水の力で青い戦士、グランド・ウォーカーに変身。腕輪から現れた青龍刀をその手に握る。

ハッタ「こけおどしだ!」

 土の力で糸を固め、針状にしたものを飛ばすハッタだが、グランドは全て刀で弾き落として距離を詰める。

ハッタ「ふんっ!」

 再び土の壁が目の前に立ちはだかる。

 高圧水流を纏った刀の一撃が、それを両断する。

ハッタ「なに……⁉」

 間髪入れず斬撃を浴びせ、ハッタを吹き飛ばすグランド。

ハッタ「くそっ、馬鹿な……!」

ウォーカー『水は時として激流となり、全てを切り裂くのです』

 グランドが刀を掲げると、大量の水が巻き取られるようにエネルギーが集まる。

ウォーカー『そして時には、大波となる!』

 振り下ろされる刀と共に、そのエネルギーが叩きつけられる。

グランド「タイダルプレッシャー!」

ハッタ、土塊を発生させエネルギーを防ごうとするが、大質量に押し潰され爆散。

ハッタ「があああああああああ!」

ウォーカー『この力、その命をもって、存分にご堪能いただけたでしょうか』

 爆発跡から土の精霊が光の球となって現れ、腕輪に吸収される。

 人々に絡みついていた糸の拘束が解ける。

グランド「やった、なんとか……勝てた……」

 安心した途端変身が解け、膝をついて肩で息をするマサル。

マサル「ハア……ハァ……」

ブラム『おい、大丈夫か⁉』

 ウォーカー『まだ、体が力に馴染んでいないようですね……』


〇事務所・リビング(夜)

 エリがマサルを治療している。

 体に紋章の刻まれた紙を当てると、傷が癒えていく。

ユキ「……便利ね、それ」

エリ「式紙よ。簡単な術ならこれで使えるわ」

ユキ「昨日みたいにならなくて良かった。(あくび)明日は仕事早いから、もう寝るね」

エリ「え、私は?」

ユキ「明日のお客さん、少し気難しい人だから。エリも大変だったでしょ?休んどいて」

 そう言い残して部屋を去るユキ。

 そこでテルが帰ってきていないことに気付くマサル。

マサル「……そういえば、あいつは?」

エリ「ああ、テルなら寄るところがあるって電話してきたけど」

テル「少し気になることがあってな」

 声の方へ振り向くと、テルが窓から身を乗り出している。

マサル「うわっ!」

テル「(そのまま中へ入り)病院へ行っていた」

エリ「病院?なんでまた」

 テル、足を止めマサルの方を向いて、

テル「『星野めぐみ』を知っているな?」

マサル「……なんで知ってるんだ」

テル「昨日のお前と怪人のやり取りだ。なぜ病院という言葉が出てきたのか、ずっと気になってな」

 それを聞いて一呼吸し、堰を切ったように話し出すマサル。

マサル「星野めぐみ、めぐ姉は、俺の姉だ」

 初めての情報に驚くエリと納得するテル。

マサル「俺とめぐ姉は、両親が小さい時に死んで、おっちゃんに引き取られた。住む場所も何もかも変わって、おっちゃんも警察の仕事で忙しくて家になかなか居られなくて、2人で励まし合って生きてきた」 

 話を続けるマサルの拳に、力が入る。

マサル「……でも1年前、めぐ姉は事故に遭った。半年間眠り続けて、今じゃようやくリハビリもできるようになったけど、目覚めた時には「ごめん」って、何度も何度も泣いて謝られたよ」

 マサル、立ち上がってテルに近づき、

マサル「できることなら俺だって困ってる人は見過ごせないし、力になりたい。でも俺が死んだら、めぐ姉はどうなるんだよ⁉」

 言い返せないテルとエリ。

 腕輪から土の精霊・ゾルドの声がする。

ゾルド『そんな考えなら、儂の力はお前に貸せんな』

マサル「あんたは……」

ゾルド『儂は土の精霊・ゾルド。儂の力を使う者は、不動の心を持たねばならぬ』

 腕輪を離れ、エリの持つ箱に宿るゾルド。

マサル「……とにかく、俺には無理だ。世界に比べたら小さな悩みかもしれないけど、頼むなら、他の人を見つけてくれ」

 そのまま部屋を出ていくマサル。

 ドアがバタンと閉まり、取り残される2人。


次の日


〇町中・車道(早朝)

 事務所の車を走らせるユキ。

 信号で停車していると、遠くでクモの怪人(シッタ)が右から左へ跳んでいくのが見える。

ユキ「あれって……」

 急遽レバーを上げてウィンカーを入れ、そのまま車を右折させる。

 振り返り、その車を嘲笑うシッタ。


〇寝室(早朝)

 ベッド横に置かれたスマホが鳴り出す。

 マサルは眠そうに体を起こして画面を見ると、ユキからの着信に出る。

マサル「……はい、どうした?」

 知らない女性の声が聞こえる。

女性「大変です、女の人が倒れてて……!」

マサル「……え?」

女性「クモみたいな化け物が襲ってきて、この人が私を庇って……!」

マサル「(目を覚まし)ちょっと待って……場所はどこですか⁉」

女性「町はずれの、廃工場です。これを見て下さい!」

 ビデオ通話に切り替わると、地面に倒れているユキの姿が映る。


〇廃工場(朝)

 息を切らし、走って入ってくるマサル。

 倒れているユキと、その傍で立ち尽くす女性の姿が目に入り、急いで駆け寄る。

マサル「(肩に触れ)ユキ!」

ユキ「(苦しそうに)ん、くっ……!」

マサル「息がある。なあ、あんたは……⁉」

 マサルが振り向くと、首元に鉄扇が突きつけられている。

女性「本当に来るとは。無防備な奴」

 鞭が振り下ろされる瞬間、ユキの両肩を掴んで地面を転がり攻撃を避けるマサル。

マサル「なにするんだ!……あんたは⁉」

 気が付くと、女性がそれまでと異なる姿、クインジャドウに変貌している。

クイン「初めましてだな、この世界のグランドマスター。私は闇黒軍の黒務執政官、クインジャドウ」

 クインの傍らにクモ怪人シッタが立つ。

マサル「闇黒軍……!」

クイン「そしてこいつが、今日のお前の相手」

 鉄扇を振るうと空間に裂け目ができ、そこからヴァリガナイトが現れる。

ナイト「我が名は闇黒騎士ヴァリガナイト。グランドマスター、お前を倒すことが、皇帝より賜った我が使命だ」

シッタ「弟の仇、打たせてもらうぜ~!」

 飛び出そうとしたシッタを制すヴァリガナイト。

シッタ「え?」

クイン「お前の仕事は別。来い」

 シッタを連れ裂け目から消えるクイン。

ナイト「これで邪魔者はいなくなった。我が剣技、受けるがいい――!」

 剣を抜き襲い掛かるヴァリガナイト。

 マサルは腕輪を起動しグランドに変身してそれを受け止め、ユキから離れたところへ誘導するが、歯が立たず斬撃を受け吹き飛ぶ。

グランド「ぐっ……!」

ブラム『俺の力を使え!こいつ速さも力も段違いだ!』

 言われた通りグランド・ブラムとなり、二本のトンファーで攻めに転じる。

 しかし軽々と籠手で受け止められ、がら空きになった胴に斬り上げを食らって倒れる。

ウォーカー『(焦って)こうなったら私の力をお使い下さい!剣には剣です!』

ナイト「無駄だ。たとえどれだけ武器を変えようと、今のお前には一撃も遅れをとることはない」

グランド「(よろめきながら)なに……?」

 ナイトが剣を構え、エネルギーが溜まる。

ブラム『まずい……あれを食らったらタダじゃ済まないぞ!』

グランド「わかってるよ……!」

 ヴァリガナイト必殺の剣技が放たれる。

ナイト「ゾーン・シュバルツ!」

 グランドは強力な斬撃波をトンファーで受けるが、受けきれずに爆散する。

グランド「ぐあああああああああ!」


      ◇第3話に続く◇

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