エレメンター・グランド[シナリオ]

@tylar

第1話

〇エレメンティア

 五大元素を司る精霊と人間が共に暮らす世界、エレメンティア。

 今、その世界が燃えている。

 炎を背に立つのは、闇黒軍(あんこくぐん)を率いる闇皇帝ダート。

 膝をつきながらも、地に伏す戦士・テルとエリを庇うようにダートと相対するのは、全ての元素を操る「最高の元魔師」グランドマスター。

 辺りではダートが引き連れてきた奇械兵・ラスカの軍団が破壊の限りを尽くしている。

ダート「この世界、エレメンティアも我が軍門に下った。恥じることは無い。グランドマスターよ。他の世界と変わらぬ、こうなる運命だったのだ」

 グランドマスター、その言葉に立ち上がり、

マスター「……1つだけ訂正しておきましょう。闇皇帝ダート。運命などというものは、存在しないと」

 右手首につけた腕輪を起動すると、ハッとするテルとエリ。

 マスターはそれに微笑み一瞥して、ダートに向かって走る。

 彼の体が光を放ち、ダートと周囲を巻き込んで爆発。

 テルとエリは、その爆風に吹き飛ばされる。


〇地上・ビルの屋上(夜)

テル「ぐあっ!」

エリ「うっ!」

 吹き飛ばされ地面を転がるテルとエリ。

 起き上がるとそこは静かなビルの屋上。

 2人が空を見上げると、紫のオーロラが輝いている。

エリ「(空を指差し)見て!」

 オーロラの奥に色を失った世界が見える。

テル「エレメンティアが……」

エリ「でも、あいつらは倒せたんじゃ……」

テル「(空を見上げたまま)……いや、マスターが俺達をここに送り込んだのだとしたら、次の標的は……」


〇公園(夜)

 紫に光る空から腕輪が落下し、地面に突き刺さる。

      × × ×(時間経過)

 腕輪を拾い上げる星野大(マサル)。犬用のキャリーケースを抱えている。

マサル「(腕輪を見つめ)何だこれ?」

 茂みから、首輪のついた犬が出てくる。

マサル「あ!待て!」

 腕輪を仕舞い、犬を追いかけるマサル。


次の日


〇ある家の玄関(日替わり・朝)

 犬の入ったケースを、家の主人である夫人に渡すマサル。

夫人「(受け取りながら)チョコちゃ~ん!ありがとね~、また逃げ出しちゃって」

マサル「困ったら何度でも言ってくださいよ。仕事なんで!(ケースの犬に目線を合わせ)もう逃げるんじゃねえぞ?」


〇家の前(朝)

  家の前の近くには、商店街が見える。

マサル「(一礼)またのご利用、ご贔屓に!」

 マサルが家を背にすると、同じなんでも屋で働く逢坂優希(ユキ)が現れ、腕輪を手渡される。

マサル「ユキ、迎えに来てくれたのか?」

ユキ「まあ、半分そんな感じ。(腕輪を見つめ)あとそれ、分解してみようと思ったけど、どうやっても出来なかった」

マサル「マジで?」

ユキ「(あくび)色々試したけど、何なのか全っ然分かんない。だからあんたに返す」

 不審がってブレスを眺めるマサル。

 スマホの着信音が鳴り、応答するユキ。

ユキ「はい。……あ、おっちゃん?」


〇なんでも屋「ほしの」事務所・所長室(朝)

 電話の主は、マサルの叔父にして彼らが働く事務所の所長、星野政五郎。

政五郎「おっちゃんじゃない。せめてお・じ・さん、だ」

ユキ『おっちゃんはおっちゃんでしょ。それより、どうしたの?急に電話なんか』

政五郎「……ああ、ちょっと緊急の依頼が舞い込んできてな。マサルは?どうしてる?」


〇家の前(朝)

ユキ「マサルは……」

 ユキ、商店街の方に目を向けると、いつの間にかマサルが迷子の子供の世話をしている。

マサル「お客さんの中に、お母さんはいませんかー⁉」

ユキ「(呆れ気味に)……いつも通り、かな」

政五郎『(同じく呆れ気味な声で)……そうか』


〇道路(朝)

 マサルとユキの乗った車が走っている。

ユキ「まったく、お人よしもいいところよね」

マサル「だって放っとけないじゃん。それより、緊急の仕事って?」

ユキ「調査の依頼だって。昨日のオーロラの」

マサル「ああ、あれか。何かあったのか?」

ユキ「あれを見てから、変な現象が起こってる人がいるんだって。具合が悪くなって病院に駆け込んだとか、変な顔が見えたとか」

マサル「(理解できなさそうに)顔?」

ユキ「それで、そうなった人は蔵元駅の近くに多いみたいだから、他にも影響があった人がいないか調べてくれって。物好きな知り合いの大学教授からでも頼まれたんでしょ」


〇駅前・近くに住宅地(昼)

 車を降り、聞き込みをするマサルとユキ。


〇駅・改札前(昼)

 ユキ、タブレットで調査報告を送信する。

 マサルはメモを片手に、ユキの傍に立つ。

ユキ「結局あんまり大した話は出なかったね」

マサル「でも、実際に顔っぽいものを見たって人、それなりにいたよな」

ユキ「……そういえば、あんたは何も無かったの?ネコ探しの最中だったでしょ?」

マサル「いや?何も無かったけど……」

 マサル、思い出しながら腕輪を取り出す。

マサル「そういえばこれを拾ったの、その時間帯だったかも」

 突然、周りの人の騒ぐ声が聞こえ出す。

マサル「……なんだ?」

 人々が空を見上げているので見てみると、前日の夜と同じオーロラが。

ユキ「あれって……」

 オーロラから黒い光の塊が飛来し、改札前に落ちる。

マサル「ユキ!」

 咄嗟にユキを庇い伏せるマサル。顔を上げると、煙の中からサルのような姿をした怪人・タイセイと、奇械兵・ラスカの一団が現れる。

タイセイ「この世界、悪くなさそうだな」

マサル「なんだ、あいつら……」

タイセイ「(ラスカに向けて)やれ」

 タイセイの一言で、人々を襲い始めるラスカたち。苦しむ人々の声が建物内に響き渡る。

 マサルはユキを助け起こし、ラスカの攻撃を防いで、

マサル「ユキ、逃げろ!」

 そう言うマサルの視線の先で、タイセイが手に持った棒を近くの百貨店に向けると、棒の先が青く光り出す。


〇百貨店・1階

 買い物をしている客が違和感を覚え下を見ると、床からなぜか水が湧き始める。

 水はあっという間に全身が浸かる高さまで達し、フロアの人間達が苦しみ始める。 


〇駅・改札前

 遠くから、デパートの全ての階が同じように浸水しているのが見え、呻き声と共に黒いオーラが建物から漏れる。

 タイセイはそれを瓢箪に集め、悦に入る。

タイセイ「(笑い交じりに)いいぞ、もっと苦しんで死んでいけ……!」

 その様子を見てマサル、憤り殴りかかる

マサル「やめろー!」

 しかし受け流され、頭を掴まれる。

タイセイ「なんだ、お前?」

 タイセイ、マサルの記憶を読み取る。


〇回想・とある民家

 家が津波に吞まれている。幼いマサルが、同じく幼い姉・めぐみの名を叫ぶ。

〇回想・病院

 マサルが病室のベッドで起きているめぐみと話している。


〇駅・改札前(昼)

タイセイ「(笑みを浮かべ)なるほど……」

 そこに駆けつけるテルとエリ。

 辺りを見回した後、

エリ「(タイセイを睨み)あいつら……!」

テル「ここで叩くぞ……!」

 剣を手に、ラスカを蹴散らしていく2人。

タイセイ「(マサルから手を放し)ほう、あいつらエレメンティアの戦士か……!」

 テル、ラスカの相手をエリに任せタイセイに斬りかかるが、タイセイは水の力で地面に潜って躱し、返り討ちにする。

テル「ぐあっ!」

タイセイ「脆いなぁ、人間というのは。だがおかげで、もっと沈めがいのある場所がみつかった」

テル「なんだと……?」

 倒れていたマサルの指が動く。

タイセイ「それじゃあ行くとするか……ん?」

 タイセイが後ろを振り返ると、マサルが腰にしがみついている。

マサル「あそこには、絶対に行かせない!」

 振り払われ、殴り倒されるマサル。すぐさま立ち直り殴りかかるも鳩尾を棒で叩かれ、今度は胸倉を掴まれる。

タイセイ「しつこい奴だな、いい加減諦めろ」

 手を放され、尻餅をつくマサル。

マサル「ぐっ……!」

タイセイ「どんな時代も弱い奴から滅びる。そういう運命だ……!」

 棒を振り下ろすタイセイ。テルとエリが慌てるが、マサルはそれを受け止める。

 ポケットに入れていた腕輪が赤く光る。

マサル「運命なんて、知るかぁ!」

 拳が赤く燃え、繰り出されたパンチでタイセイが吹き飛ばされる。

タイセイ「ぐああああああ!」

 炎が消えた拳を見つめるマサルの手首に、腕輪が意思を持ったように巻き付く。

テル「あれは……」

エリ「なんで……⁉」

 マサルが困惑していると、腕輪から精霊ブラムの声がする。

ブラム『ようやく火が点いた!俺の出番か!』

マサル「お前、誰だ⁉」

ブラム『俺は俺だ!それより……、お前名前何て言うんだ?』

マサル「あっ……。星野、大」

ブラム『よぉし、マサル、今細かいことは抜きだ。あいつらは放っておけばどこまでも人を傷付ける。だが俺とお前が力を合わせれば、あいつらを倒せる!』

マサル「倒せるって、さっきみたいに?」

タイセイ「そうだ。一緒に戦ってくれ!」

 マサル、目の前の敵と苦しむ人々を見て、

マサル「訳分かんないけど……取りあえず分かった!」

 腕輪が起動するとマサルの体が光を放ち、白い姿の戦士、エレメンター・グランドに変身する。

タイセイ「(声を震わせ)その姿は……⁉」

ラスカ「識別名『エレメンター・グランド』」

 突然のことにグランド(マサル)も驚く。

グランド「なんだよこれ⁉コスプレ⁉」

ブラム『今は目の前のことに集中してくれ。あいつらを倒す姿をイメージするんだ。その体はお前が思い描いた通りに動く』

グランド「イメージ……」

 立ち尽くすグランドをラスカ達が襲う。


〇駅前・広場

 戦いの場を移し敵と戦うグランド。

グランド「はあっ!」

 軽い身のこなしで攻撃を躱してラスカ達を一蹴したことで、自らの強さに戸惑う。

グランド「すごい、体がバネみたいだ……」

 グランドの前に現れるタイセイ。

タイセイ「グランドマスターの力、試させてもらうぜ!」

グランド「うおおおおおお!」

 攻撃するグランドだが、水の力で地中に潜るタイセイにパンチは当たらず、伸びる棒の一撃を見舞われ   地に伏せる。

グランド「くっ……!」

ブラム『あいつは他の敵とは違う。俺の力を使え!』

グランドが赤く光る腕輪を操作すると、炎の精霊の力が加わり、赤い戦士・グランドブラムへと変化する。

グランド「また変わった……」

 両手に炎が宿り、それが二本のトンファーに変わる。

タイセイ「姿が変わっても同じことだ!」

 再びぶつかり合うグランドとタイセイだが、グランドは炎のトンファーを駆使して目にも留まらぬ早業  で棒術をいなし、的確に攻撃を当てる。

タイセイ「ぐっ⁉こいつ……!」

 再び地面に潜るタイセイ。

 棒を伸ばし地面から攻撃を仕掛けるが、グランドは全てトンファーでいなし、地面にトンファーを叩きつける。

 熱が地面を伝わり、その熱さに耐え切れず飛び出すタイセイ。

タイセイ「キーッ⁉」

 尻に点いた火を暑がっているタイセイに、グランドはすかさず力強いアッパーを加え、空中に投げ出す。

ブラム『今だ!最後の一撃を決めろ!』

 促されるまま、トンファーを連結するグランド。

 2本のトンファーが、1本の槍に合体変形する。

 槍を構えると、穂先に炎のエネルギーが溜まる

グランド「炎投・煌之月(えんとう、きらめきのつき)!」

 投げられた炎の槍が、タイセイの胸のコアに的中。

 コアからエネルギーが漏れ、そのまま空中で大爆発する。

タイセイ「ギ、ギエヤァァァァァ!」

 爆炎が消え去り、変身が解けるマサル。そこへユキが駆け寄って来る。

ユキ「マサル!」

マサル「やった……俺、倒せた……」

 マサル、疲れから、そのまま気を失う。


〇事務所・寝室(夕)

 ベッドの上で目を覚ますマサル。横ではユキが椅子に座っている

ユキ「マサル⁉よかった……!」

マサル「(起き上がり)夢……?」

 腕輪からブラムの声がする。

ブラム『やっと起きたか』

マサル「(眠気から覚めて)……うわ!」

ブラム『なんだ、まだ驚いてんのか……』

 ドアを開け、テルとエリが入ってくる。

マサル「あんたたち……誰だ」

テル「その腕輪の持ち主を知っている者だ」

マサル「持ち主?」

テル「その男の名は、グランドマスター」

マサル「誰だよそれ?あんた達も、あの悪い奴らも、何なんだ?」

ブラム『俺達は、別の世界から来た』

マサル「……え?」

ブラム『お前達の住むこの世界の外には、別の世界がある。その1つが俺達の世界、エレメンティア。人間達は俺達精霊の力を借りて、元素の力を操り様々な術を使って暮らしていた』

マサル「(おそるおそる)それで、どうしてこの世界に来たんだ?」

ブラム『……俺達の世界は、別の世界を襲い滅ぼす悪の勢力、闇黒軍に攻め込まれた』


〇闇黒軍・アジト

 闇皇帝・ダートの巨大な顔が映る。

ダート「現れたか、グランドマスターを継ぐ者が」

 ダートの傍に、鉄扇を手にする黒務執政官(こくむしっせいかん)・クインジャドウと、カラクリ仕掛けの暗黒騎士・ヴァリガナイトが並び立つ。

   


     ◇第一話    終◇

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