第31話:最終話

 俺たちはこうして結ばれたのだったが、やはりあれほど体力を消耗したというのに体力も精力も溢れてくる。魔力もなぜか数値化してわかるようになった。眠るアーリエを見ると魔力量レベル1000だった。普通100とかじゃないのかよ。そういう自分はどうなのかと調べてみるとカンスト表示だった。マジかよ。すごいじゃないか俺。今なら何でもできる気がする。


 俺はその勢いに任せてアーリエの唇にキスを落とす。


「ん~」


 アーリエは朝から色っぽい声をして伸びをするもんだから、俺は再びその気になってしまっていた。


「あーダメだ。童貞だったからかあの良さが忘れられない。また味わいたい」


 俺は煩悩と戦うために頭を毟る。ってたくさん毛がある?


「あれ? どういうことだ? いや今はいいんだよ。やっぱりいただきまーす」


 アーリエに再び覆い被ろうとしたが、すでにアーリエが目覚めていた。


「おはよう。ロイまだやる気なの? やっぱりもとに戻ったから体力も若くなったようね」

「へっ?」


 俺はアーリエの言葉に思わず変な声が出てしまう。そう言えば髪の毛がふさふさだった気が……思わず頭皮を確認してしまう。


「ふふふ。さては私の精力吸い込んで若返ったのね。だって昨夜のあなた……初めてとは思えないほど激しかったもの……私が更けてたりして」

「ちょっと……恥ずかしんでやめてもらっていいですか。アーリエは今も前と変わらず綺麗でかわいいよ」


「あぁ……もうあなたって人は……あっ。スキ。やっぱりこっちの方が好き。愛しているわ。ロイ」

「俺もです」


 そのまま朝からおっぱじめそうだったのだが、突然、咳払いが聞こえたので俺は声の方を向く。そこにはトーマスが突っ立ていたのだった。


「はぁ。トーマスあなたってば……毎度毎度狙っているわけ? タイミングを考えなさいよ」

「……考えたので、いや、周囲に止められたからこそ……昨夜は我慢して訪れなかったのですけど……だから褒めてほしいくらいなんですけど……」

「それで、なに?」


 アーリエはあからさまに不機嫌である。


「早くお戻りいただきたく思います」

「何かあったの?」


「それが……」

「何よ。もしかしてまだ魔王の分身とかいた?」


「いえ……そうではなくて……アリア様が……」

「またアリア様何かしたの?」


「説明するより、転移します。ってロイ戻ったのか。やはり影響は少しだったんだな」

「えっ?」


 俺が答える間もなく、城まで転移させられていた。目の前にはアリア様は像になっている。これの何が問題なのであろうか。


パンパン


 拳銃のような音が聞こえる。やはりまだ終わりではなかったのかと思い、無意識で魔力を込めると体が自然と臨戦状態になり、アーリエを背に守っていた。俺は内心驚いている。なぜだかわからないが、勝手に体が動くのだ。


 俺はその音の方へ意識を向け攻撃魔法を打とうとしたそのとき……


「サプライズ!! 童貞卒業おめでとう!!」


 この声は……アリア様だ。そこには、ミロリンとカノン、ジョイ、カーター、アダム、ミアなどみんなが揃って並んでいる。


「ん? どういうこと?」


 像だと思っていたアリア様がいきなり動き始めたのだ。まさかカノンの視覚効果だったのかと気づき、カノンを見るとウィンクしていた。アリア様はジョイにうな垂れて乙女モードでジョイに甘えていた。それを見たミロリンがトーマスに同じことをすると、トーマスはミロリンをもふもふしてやっていた。みんななんだよ。幸せなのか。まぁいいことだ。って今はそんなことどうでもいい。


「アリア様どういうことですか?」

「あなたの呪いは私がジョイと結ばれたことで解除されたわ。ふふ。吐きそうなくらいのおっさんではなくなったわよ。だから今はイケメンとまではいかないけど普通いや、平凡レベルの青年の顔に戻ったってわけ。よかったわね」


「あの……それも嬉しいですけど……それよりもなぜ俺が童貞を卒業したってわかるのですか?」

「それは私がここの神だからよ。すべてのチートも開花してこれでオッケーね。カノン。お疲れ様。あなたは真面目に生きるのよ」


カノンは苦笑いで言う。


「はい。アーリエ姫のように一途に愛せる誰かを見つけて幸せになります」

「それでいいわ。では」


シャラララン


綺麗な音が鳴り響くと、カノンは消えていたのだった。


 よかったと俺は感動していたが、さっきのアリア様の言動を思い出す。俺おっさんじゃなくなったって言ったよな。やっぱり今朝の髪ふさふさはカツラではなく本物なのか。今さらになって喜びを噛みしめてしまう。


「よっしゃー!! いくらでもアーリエを抱ける!!」

「ちょっとロイ。さっきは止められたからって今は駄目よ。2人きりのときにして」


「あぁ、愛おしい。愛している」

「私も」


「はいはい。そこいちゃつくのをやめなさい。それにおっさん。じゃなかったロイだっけ。もうアーリエは抱いちゃだめよ」

「えっ。なんでですか」


「……それは……今は言えないわ」

「なんだよ。それ。また呪いとか言うんじゃ……」


「違うわよ。楽しみにしておきなさい。きっとアーリエちゃんは気付いているわよ」

「えっ?」


 アーリエを見ると顔を真っ赤にしている。


「アリア様、やはりあの噂は本当なのですか……?」

「えぇ、あなたがここの王女でしょ?」


「はい」

「精進なさい。私はジョイがあなたに仕えている限り味方でいてあげる」


「ありがとうございます。アリア様」

「じゃあジョイ私たちも負けてられないわよ」


「こらっ。アリア。下品な子は嫌いって言っただろ?」

「いやん。ジョイ。お仕置きね。喜んで受けるわ」


 2人はそのままいちゃいちゃしながら地下へと向かって行った。ミアが号令をかける。


「そうと決まれば今から挙式の準備ですよ。アーリエ姫の体調も考え、1週間で全手配をお願いします」

「えっ……そんなの無理じゃ? それにアーリエどこか悪いの?」


「何を言っているんですか。これだからここの国ではない人は……」

「ミア、いくらあなたでもロイを侮辱するのは許さないわ」

「アーリエ姫、申し訳ござません」


 ミアは深々とお辞儀をしてから、近衛騎士たちとともに一目散にその場から走っていった。その後、もろもろの業務連絡や結婚準備に追われることになった。


 俺たちはあれよあれよと気づけば挙式を挙げる日になっていた。結婚式は薬草医院カフェを使ったレスランウェディング。一国の王女がこんなレベルでいいのだろうかと疑問に思ったが、すべては計算されていたようだ。ここでの栄養たっぷりの食事と最先端の治療を他国に見せることが目的だったようだ。


「アーリエ一生幸せにします」

「もちろんよ。あなたが今後ハゲようとおっさんになってもあなたを愛すると誓うわ」

「俺もアーリエがおばあさんになっても愛することをここに誓います」


 こうして無事に挙式も挙げ、夫婦になった俺たちだったが、なぜか腕輪の監視は外さないそうだ。そんなに俺のこと信用がないのだろうか。


 それにしてもアーリエが最近元気がないように見える。診察しようとしたら触らないでと怒られるし、夜になって寝室は同じなのにキスだけだし俺は混乱する。勝手に調べてやろうかとも思ったが、知らぬ間にそんなことされたらアーリエが嫌がると思い我慢した。きっと、いつか言ってくれるだろう。それまで待とうと思う。それに感覚的に嫌な予感もしない。魔力的にそういう意図を感じるのだ。何よりも触るなという何か強い意志が伝わってくるのだ。


 トーマスはミロリンといい感じのようだが、推しの子がなんだか嫁いでいくような気がしてなんだか寂しい気もする。別にやましい気持ちなど1ミリもないというのに、ミロリンを眺める度に電流を流すのは勘弁してほしい。


「心も体もアーリエ。俺は君だけなのだから。心配はいらないよ」

「あーロイ。その言葉を聞く度に私は電流を流してしまうのよね!!」


「ちょっと……ならもう言いませんよ。今度電流流したら……何でもないです」

「何よ。言いなさいよ」


「いや、今度お仕置きですよって言いそうになったけど、お仕置きして我慢できなくなるのは俺の方だから……だから何でもないです」

「うん。そういう優しいところ好きよ。私の体のこと心配してくれてているのよね。スキ。大好き、愛しているわ。ロイ」


 人前だというのにぶちゅりとキスの嵐はやめてほしい。本来であれば嬉しいが今の俺にはただの拷問だ。好きな愛する女性を抱けないなんて……


 俺はアーリエから離れ薬草医院カフェに向かう。薬草医院カフェは大忙しとなっていた。メニュー表や処方箋に応じた料理を出すと、たちまち民は健康になったのだ。それが口コミを呼び、次から次へと客が押し寄せてくるようになった。


 俺は俺で治癒士として魔法力を最大限に利用し、医学の知識もフル活用して診察と治療を両方行うようにした。薬もドンドン開発していった。


 俺たちの挙式が功を奏したようで、他国からも勉強するために留学に来るほどにもなった。異民族も増え人口も増加しこの国は繁栄したのであった。


 俺は1人でも多くの患者を救うべきして、前世の記憶が蘇ったのかもしれない。

俺は医療と魔法の融合を調和して、前世で救うことができなかった治療法がないと言われている難病も治すことに成功した。


 その結果、俺は偉業を成し遂げることとなる。どんな難病でも治すと世界一の治癒士と呼ばれ有名となった。今まで以上に他国の王族たちがここぞとばかりに国にやってくるようになった。


 昔の俺だったら金も取らずに治療しただろう。けれど、今の俺はそんなに甘くない。昔の医師時代の俺だったならチップは受け取るし、治療費の高い手術ばかりを請け負っていた。人生「金」だと思っていた節がある。


 だからこそ、こうして第二の人生で愛というものについて考え、お金のあり方について教えられたのかもしれない。だがしかし、慈善事業というわけにもいかない。治療費分をもらう分には問題ないだろう。従業員たちにお給料を払わなくてはいけない身なのだ。さすがに無給サービスの精神では誰も働いてくれないはずだ。なので俺は最低限のお金は受け取ることにした。もちろんチップや裏金は全て返却した。そうしないと、アーリエが怒るのもあるが……汚いお金は受け取らない。それはここのルールである。


 ラパス家の家族たちはいうと……アーリエがここに呼んだ。無能だと思っていた俺が、世界一の治癒士となり有名になっただけで悔しかったに違いない。それに俺の下で働かされるなど想像もしていなかったのだろう。ショックが大きいようでだんまりを貫いている。


 謝罪をしないところが親父らしいといえばそうなのだろうけど……母は申し訳そうに俺をチラチラと見ているがやはり何も言わない。マイクにおいては、借りてきた猫のように静かである。


 今までは人を見下し偉そうに接してきた家族が今ではこき使われる毎日。そして、今度は自分たちがジョイからの罵声を浴びせられているのだ。ジョイのストイックな部分が、あの家族のプライドの鼻をへし折るようだ。ある意味プライドの高いラパス家にとってはこのこと自体が屈辱的なことに違いない。自分がコキ使われる立場になるとは思ってもいなかったのだろう。どんどんと痩せていった。これはこれで最高の仕打ちとなったのかもしれない。けれども、俺はその様子に心苦しくなってしまった。薬草医院カフェに行くように処方箋を書いてしまうのだから、お人好しにもほどがある。


 俺はアーリエ姫と出会い、愛を知ることで、この世界で最強最高の治癒力を手に入れることができたのだった。アーリエが今は無事に子供を産んでくれることを楽しみに毎日幸せにお腹を撫でる。できないのは悲しいがこれはこれで幸せに感じられたのだった。




         ~完~



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おっさん転生者は実家から「無能」だと追放されるも、隣国王女に愛され最強の力を手に入れる tira @tira154321

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