似たもの同士
「ちょ、ちょっと待てよ! 話が見えねぇって!」
どうにか、ギリギリのところで取り戻した自我に、何故か少しばかり不満を抱えながらも、結望にそう言った。
あからさまに人格が違うこととか、オプションがオールフリーなこととか、分からないことだらけだ。
だってのに、ため口にする為には三万円払え、だ?
馬鹿げている。意味が分からない。
けれども、その意味を、俺は知りたいと思っていた。
「あら、どうして拒否するんですか? このお店に来たって事は、そういうことが目的でしょう?」
「みんながみんなそうだと思うな。いや、別に俺がまるっきり違うって訳じゃねーけど・・・・・・」
否定は、無論出来ない。
なんやかんやの事情がなければ、今頃はその先に猛進していたことだろうし、それはそれで、やはり惜しい。
「でも! 今はそういうことじゃない。やりたいこととかしたいことを全部しようって言ったな。じゃあ、お前のプライベートを話せ」
御法度もいいところ。お店の女の子のプライベートを探る客は、どんな客よりも圧倒的に嫌われる。事の次第によっちゃ出禁もあり得る行為だとかなんだとか。流星談。
「そういうのは、どうでしょうね・・・・・・」
「敬語のオプションは三万円だったな。プライベートトークのオプションはいくらだ? 言い値で払ってやる」
なぜ、そこまで足を進められるのか。
それは一体、何の為、誰の為なのか。
考えるまでもないだろう。
他ならない、俺の為だ。
「オプションではそういうのはありませんので・・・・・・でも、どうしてもと言うなら」
「おう。いくらだよ」
「私を愛してくれませんか?」
なんて、妙に頬を赤らめながら言うものだから、肩透かしもいいところ。
「何言ってんだよ。もう愛して――」
「そうではありません!」
店内に響き渡るユーロビートの爆音をかき消す勢いの、怒声だった。
想定外の反撃に、俺は少しばかりたじろぐ。
「じゃあなんだってんだよ」
「あなたが私を愛している? それは、千尋さんのような感情ですか? いいえ、私は分かります。あなたが私に向けている愛の感情など、家でお留守番をしている犬や猫、ペットに向けるものと同じようなものだと」
俺を見据える瞳に帯びる水分が、徐々に、増幅していく。
「所詮飼い主とペットのようなもの。家でほったらかしにしておいても、いざ帰ってくれば何事もなかったかのように尻尾を振って飛びかかってくるペットと同じ。あなたにとって私は、どうやったって自分を必要としてしまう、何があろうと自分の元から去って行かない都合の良いヒトでしかないんです」
「違う、そんな風になんて・・・・・・」
思ってない。と、本当に言えるのだろうか。
確かに俺は、結望に愛しているだなんだと宣いながら、その実千尋に意識を向けていて、結望から見れば、同じ意図であると捉えることは困難かもしれない。
けれど、俺は、確かに結望も愛している。千尋との違いなんて、かつての俺が恋心を向けていたかどうか程度の僅かな差だ。
今の俺は、明らかに恋愛観が崩壊している。
けれど、それでも。
「でも俺は、結望のことを、間違いなく好きだよ」
なんて、絵空事のような関係性を保とうとする。
千尋に二人のことをバラしたことへの大きな怒りでさえ、こんな儚く消え去りそうな結望、もとい、みゆを見ていれば、不思議にも鎮火していく。
いじめられていて、人に絶望して、人生に絶望した経験がある俺だからこそ、分かるのだ。
結望は、俺と同じだ。
「嘘」
結望があんな行為に走った理由は、はっきりとしておかなければならない。
やったことの重大さはさることながら、それでも、その理由を解明しないことには、前に進めないのだ。
ただ、切り捨てるだけでは。
ただ、捨て置くだけでは。
あまりにも、みゆが、結望が、可哀想でならないのだ。
「嘘なんかじゃない」
「嘘です」
「だから違うって」
「じゃあどうして、あの日、中学校の頃のこと、覚えていないって言ったんですか?」
あの日、とは、初めて再会した日のことだろう。
確かに、そんなことを言っていた。
そのときは、なんのことはないと受け止めて、簡単に流した。
それを重要なことだと受け止める瞬間が、やってきたのだ。
頭を、フルスピードで回転させる。
赤学法学部主席の頭脳は、伊達じゃねーんだ。
「俺が、お前を、幸せにしてやる・・・・・・って、言ったんだっけ」
風景が、脳裏に走った。
JKリフレで指名した人気No.1キャストが、高校時代のアイドル的同級生だった。 月原蒼 @tsukihara_sou
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