第18話 覚醒

「お前だけ、個室に入れてやる。反抗心丸だしで、いつ何をしだすか分からんからな。あとで、『マインド』を呼んで来てやるよ。洗脳して奴隷の従順な犬にしてやるから、覚悟しとけ!」


リゼットは、乱暴に独房の中へ入れられ、壁にある鎖へ繋がれた。


「ねぇ、サイラス国王っていったい誰なの?」

と、リゼットは鎧の男に聞いた。


「はぁ?この城の王、お前の飼い主になる人さ。

まぁ、忙しい人でいまも出掛けてるがな。

一旦、帰ってくるとは言っていたが、また今日、出かけるんだとさ。いったい何をしてるんだかねぇ…」


「ふーん、なぜこんなことをするの??」


「俺らは国王と王妃の指示で動いてるだけだから、知らねぇよ。まぁ、どうせ儲かるからだろうさ。

噂じゃあ、捕まえた人間を他所へ労働力に売り飛ばしたり、売れないやつは他の種族のエサにしちまうなんて言うがね。」


「そっか…」


「てか、余計な詮索するんじゃねぇ!」

と、鎧の男から上腹部を蹴られた。

リゼットは、おぇっと吐きそうになる…


鎧の男は立腹した様子で勢いよく重たい扉を閉めた。そして、ガチャっと鍵をかけられた。

最後に、扉の小窓から中を確認し、「しっかり見張っとけ!」と看守に言い残し、どこかへ去って行った。


『マインド』か…確か父上が城を反乱軍に攻められた時も同じスキル名を言っていた。


相手を洗脳する能力…これは、反乱軍に加わっていた人物かは直接本人に会って確かめるしかない。だが、本当に洗脳されるとまずいな…

何か対策を考えるべきだ。


お腹を蹴られたせいで、また吐き気がする…


ん?吐き気??


確か『捕食者』と言うスキルは、普段、私が食べることと全く同じ仕組みだと言っていた。

ということは、吐き出すこともできると言うことか!

吐き出せば、食べた物は吸収はできない。

つまり、人間を喰らったとしても、吸収する前に吐き出してしまえばいい。

そうすれば、禁忌を犯すことなく、このスキルを武器として扱える。


残る問題は、他の人間が持つスキルの獲得方法か…

吐き出すということは、吸収しないから自分のスキルにならない。


「ん〜、どうしたものか…」

とリゼットは呟いた。


捕食者の発動条件は、〔喰いたい〕と強く願うこと。

すると、思い通りに身体の一部をドラゴンの顎へと変化させ喰らうことができた。

もしかして、〔スキルを喰いたい〕と願えばスキルのみ喰らったりできるのか?


「ん〜…」


あーでもない、こうでもないとブツブツ呟いていると、急に怒鳴り声がした。


「少しは静かにしねぇか!うるさいぞ!!」


どうやら、声の主はここの看守のようだ。

看守は扉の格子がついた小窓からこちらを睨みつけて見ている。

何故か両耳を痛そうに塞ぎながら。

不思議なことに、その看守の頭上には人魂のような物がユラユラしているのが見える。


「え…??」


「いいか!黙っていてくれ、頼むから。ずっと頭の中にお前の声が響いて病気になりそうだ。全く…なんでこの俺がこんなコントロールの効かないクソスキルなんかを持ってるんだが。あぁ、クソ!頭が痛い…」


「あ、頭の上…」


「頭の上??」

看守は上を見上げる。


リゼットには、看守の視線の先に人魂のような物があるのがはっきり見えていた。

しかし、看守は…


「何言ってんだ?何もないじゃないか。いいか、黙ってろ!わかったな。」


「う、うん…」


リゼットには、ずっとユラユラと揺らめく人魂のような物が看守の頭上に見えている。


「もしかして…」

〔あのスキルを喰いたい!!〕


すると、背後からドラゴンが現れた。しかし、いつもとは少し様子が違う。

いつもの物体を喰らうドラゴンは、黄金色の首が大きなドラゴンだったのに対し、いま現れたドラゴンはいつもより首が一回り小さく真っ白な色をしていた。

出現したかと思うと、看守の背後から目の前に堂々と飛び出した。


(まずい…)

リゼットが身構える。

看守の前に堂々と白竜が姿を現したことで、看守にスキルを使ったことがバレたとリゼットは思っていた。

しかし、看守に驚いた様子は全くなく、そのまま巡回している。どうやら、看守には見えていないようだ。


白竜は、とぐろを巻いかと思うとそのまま看守の頭上に揺らめく人魂のようなものを喰らった。

ゴクンッとそれを飲み込むと、そのままユラユラと虚空へ消えてしまった。


白竜の消失と同時に、リゼットは体の中に新しい力が入って来るのを感じた。

遠くの誰かの足音、壁を超えた先にいる誰か話し声、看守の呼吸音など、まるで手に取るように全て聞こえる。さらに集中すれば、遠くにいる人の話し声はより鮮明に聞こえ、近くにいる看守にいたっては呼吸音だけでなく、腸音や心音まで聞こえる。

どうやら、看守が持っていたスキルは感覚拡張スキルのようだ。


(目が1つ増えたようなもの…これは使えるわ。)

リゼットはこのスキルを手に入れたことで、さらに周囲の状況を把握することができるようになった。

ただ、ひとつ気がかりなのが、スキルを喰われた側の看守側がどうなるかだ。


看守の頭上の人魂は現在、消失している。ということは、おそらくスキルを失っているはずだ。

下手に気づかれて騒がれなければいいのだが…


ちょうどその時、看守が小さな声でぶつぶつと言っているのがリゼットの耳にはよく聞こえた。


「あれ?なんだかスキルの感覚が鈍くなってる…疲れているせいか?まぁいいか、調整が難しくて使い勝手が悪かったし、頭痛も両耳の痛みも良くなった。いまがちょうどいいぐらいだぜ。どうせ、ゆっくり休めば明日には元に戻ってるだろうしな。」


そう言いながら、看守はあくびをしていた。


(なるほど、そもそもスキルが消失するなんてありえないから、自分が疲れていて一時的にスキルが弱まっていると判断したのか…これは好都合だわ。使い方がわかった、ならあとは機をみて脱獄するのみ…ん?)


リゼットの耳には、階段を降りて来る4人の足音とともにアーシャを殴ったサンドリア王妃、そしてサイラス国王と呼ばれる男の話し声が聞こえる。


「今日は大きな収穫があったわ。」


「ほう、それはどんなだ?」


「実はね、村から・・・」


足音が段々と独房の方へ近づいて来る。

残り2人は無言で足音のみ…どうやら護衛のようだ。


ときおり足音が止まり、捕虜たちについて話している。

(なるほど、今日捕らえた捕虜の様子を見に来たというわけか…)


「みんなまるで死んだようにしているな、全く活気がない。これじゃあ、売り物にならない。」


「活気がある捕虜なら個室の独房へ1人居ますわ。」


「ほう、それは珍しいな。案内しろ。」


リゼットのいる独房へと4人が近づいて来る。

そして、重たい扉の前で足音が止まった…

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イーター (Eater) ヨル @yoru117

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