第17話 人狩りの首謀者

リゼットが目を覚ますと、そこは鉄でできた小さな檻の中だった。人ひとりが収容できる広さだ。

手錠と足枷がされていた。


鉄格子の仕切りを挟んで、隣には自分の檻よりは広いものの、ぎゅうぎゅうに詰め込まれ、うずくまる人々がいた。

皆、下を俯き目に光はない。まるで死人のようだ。

何人かシクシクなく声も聞こえる…

それは、村で見かけたことのある者達…女や子供ばかりいた。


(アーシャが捕虜になる代わりに村人には手を出さないと言っていたが…律儀に約束を守るようなやつらではないらしいな。腐ってやがる…村が焼き尽くされてなければいいが…)

とリゼットは心配になった。


周囲の状況から考えるに、牢獄の個室と大部屋といった感じだろうか。

おそらく、危険なやつは個室の檻に入れ、無能力者や非戦闘スキルの者達など抵抗が出来ないやつらは大部屋の檻にまとめて入れているのだろう。


時折、檻全体がガタガタと小刻みに揺れている。

檻の中にある鉄格子のされた小窓からは月明かりが入り、周囲の風景がゆっくり流れて行っているのが見える。


「牢獄の馬車で輸送中か…」

リゼットは呟いた。


まるでドナドナと売られていく家畜になった気分だ。

目の前に横並びに2つ、右側1つ同じ個室の檻があったが、中はもぬけのからだ。誰も居ない。

アーシャは別の場所のようだ。


手枷・足枷が重くて邪魔だ。

確かスキルを使えば、素材が何であろうが喰らうことで、破壊することが出来る。

手枷や足枷はおろか、馬車諸共破壊し尽くすことさえできるだろう。


敵と対時した際にアーシャが、自分のことを〔無能力者〕だと言ってくれたおかげで、敵も完全に油断している。

なんせ、この牢獄馬車には敵兵の見張りが1人も居ないのだから。

牢にぶち込んどけば逃げらない。

敵もそういう風にたかを括っているのだろう。


私はいつでも脱獄することが出来る…だが、アーシャの所在が分からない以上、いま下手に暴れて馬車ごと破壊すれば、他の捕虜達やアーシャを傷つけたりするとまずい。

それに、アーシャを人質に取られることだけは何としても避けたい。

先ずは、アーシャの身の安全の確保が最優先…


しばらくは、そのまま様子を見よう。

隙を突いてアーシャと脱出する。

リゼットは、そう決心した。


「いま出来ることは何かないかな…」


リゼットは、自分の『捕食者』というスキルについて深く考えることにした。

父上は不思議なことを言っていた。


「お前のスキルは、他のスキル持ちのモンスターやスキルを持つ人間を喰らうことが出来る。だが、人間の肉は喰らうな」と。


人間以外のモンスターはいままでのように、そのまま喰らっても問題ないことはわかる。

捕食することにより、そいつらが持っていたスキルが自分の物になるだけだ。


だが、スキルを持つ人間の場合、喰らってもいいが肉を喰らうな…これは矛盾している。


人間を喰らうと、おそらくその部位が完全に無くなるだろう…そうなると人間の肉を喰らうことになる。


スキル『捕食者』を発動すると、手など体の一部が変化し、黄金色の竜が現れ対象を喰らう。

喰らわれた物は、その部分が完全に消失する。

つまり、破壊してしまうのだ。


人間の肉を喰らうなというなら、その人間が持つスキルを自分の物にはできず、また人間に対してスキルを使った攻撃が一切出来ないということだ。


つまり、たくさん別のスキルを捕食して増やし、別のスキルを使用するか、手持ちの武器がないと戦えない。


続けて父上は言っていた。

「我は人間の肉を喰らい吸収するなとしか、言っておらん。」と。


この言葉の気がかりなのが、〔吸収するなとしか言っていない〕の言葉。

つまり、逆に言い変えれば、吸収しない限り人間の肉はいくら喰らってよいということになる…のか?

だが、身体に吸収しなければスキルは手に入らないはず…

『捕食者』というスキルの真髄は、対象を喰らい吸収し、自分の血となり肉にすることでそのスキルが使えるようになるというもの。

吸収しないとなると、人間が持つスキルは手に入らない。だが、できると父上は言う。

ん〜、またまた矛盾が…


「よし、やろう。」


頭で考えてわからないなら、実践あるのみだ。


ちょうどその時、牢獄の馬車が止まった。

どうやら目的地に着いたらしい。


「ほら、新しいお家だ。お前ら、ささっと出ろ!」

看守らしき男が言った。


一番手前の牢獄にいたリゼットから、順々に鎖を手枷に繋がれて、馬車の外へ出る。

どうやら、いまいる場所は、どこかの城の入り口のようだ。


「ほら、さっさと歩け!」

先程の看守らしき男が捕まえて来た捕虜達を急かす。


城の門をくぐり、城の中へ入る。

そこは広間のような場所だった。

一旦、そこへ集められる。


すると、目の前に村で指揮を取っていたリーダー格の鎧を着た男と、隣に高そうな生地で出来たドレスを見に纏う明らかに位の高そうな女が居た。


「王妃様、噂にあった『鑑定』の SRスキルを持つ女を捕らえてきました。」


「どいつだ?」


「この者です。」


すると、手枷と足枷に繋がれたアーシャが王妃と呼ばれる女の前へ連れて来らた。


「こいつが噂の…サイラス国王もさぞ、喜ばれるであろうな。」


「あなた達、何が目的なの? 村人達には手を出さないって言ったのに! 何で捕虜として、ここに連れて来られているのよ!」

噛み付くようにアーシャが言った。


すると、王妃はアーシャの頬をビンタした。

王妃の目前に倒れ込むアーシャ。


「アーシャ!」

思わず、リゼットが列から離れ、アーシャの元へ走る。

鎧の男が、剣に手を添え身構えた。


「アーシャ、大丈夫?」


リゼットはアーシャの元へ行き、寄り添う。


「えぇ、大丈夫よ、リゼット。」


鎧の男は、反抗する意思がないとわかったのか、剣から手を離し、自然体の姿勢へ戻った。


すると、偉そうな女が激昂した。

「うるさい!黙れ、家畜共が!!

我はサンドリア王妃、お前達が口を聞いていい相手ではない。」


どうやら、サンドリアと言う名の王妃らしい。


「アーシャよ、口答えするな。

我と我が主、サイラス国王に従え。さもなくばお前と仲の良さそうなその少女が痛い目を見ることになるぞ。」


「…わかった、従うわ。」

下を俯いたまま、アーシャが言う。


「アーシャ!?」


「リゼット…必ず助けてあげるから、もう少しだけ辛抱しててね。」

そう言って、アーシャはリゼットの頭を撫でる。


「ほら、小娘!さっさと行くぞ。」


「アーシャも必ず無事で居てね!!」


リゼットは、鎧を着たリーダー格の男に繋がれ鎖を持たれ、地面を引きずられながら、最後にそう伝えた。


そして、そのまま城の地下の独房へと連れて行かれるのだった。

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