ソーメンのやさしさ

「どうだった」


「どうだったって」


「面接行ったんでしょう」


彼女はソーメンをすすりながらぼくに言う。


そして「なんとなくわかるけど」と言って笑う。


「その女の子が言うにはね、正直すぎるんだって。


その会社の仕事には向かないみたい」


「女の子って」


「面接した女の子。かわいい子だったよ」


「じゃ、がっかりしたんじゃない」


「なんで」


「だって、かわいい子だったんでしょう。


同じ会社で仕事ができたじゃない」


「そうか。そうだよね。そこまで考えてなかったよ。


もう少し頑張ればよかったかな」


「同じだよ。てきとうにあしらわれただけなんだから」


「そうかな」


「そうだよ」


「このソーメン、ゆでぐあい絶妙だね」


「天ぷらも食べて。サクラエビと野菜のかき揚げ」


「おいしそうだね」


彼女はかき揚げをはしで小さく切って、


それをつゆにつけて口の中に入れる。


それから「うん、おいしい」と言って


またソーメンをすする。


「そんなにあせらなくてもいいかもね。


しばらくいていいよ」


ぼくが洗い物をしていると


彼女はぼくのとなりにきてそう言った。


そしてぼくの洗った食器をふきんで拭いている。


「ねえ、今日はいっしょに寝てもいいよ。


今日だけね、特別。お風呂から出たら部屋に来て。待ってる」


彼女は食器を戸棚に戻している。


そうか。いいのか。ぼくは彼女のほうを見た。


彼女もぼくを見ている。


とりあえず今日は足をのばして寝れそうだ。


〈完)

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見えない川のほとりで 阿紋 @amon-1968

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