⑤愛は永遠に

 穏やかな陽だまりの中、僕は庭の陰の椅子に座り、この日記を読んでいる。

 この日記には、僕たちのたくさんの思い出が詰まっている。これを読んでいると、あの頃の記憶が一気に蘇ってくる。

 ソフィアがどんな気持ちで旅をしていたのかも、知ることができた。時々あった僕に対する愚痴は、見なかったことにしておこう。

 この分厚い日記を、僕は何日もかけて、ゆっくりと読み進めていた。僕たちが旅に出た日からのことが、全て記されている。


 やがて僕は、最後のページをめくった。


――親愛なるブラッド様へ


 そこに書かれていたのは、ソフィアからの、僕に宛てて書かれたメッセージであった。僕は目を見開いた。急いでそれを読む。


『元気にしていますか? 私がいなくても、ちゃんと一人でやっていけてますか? 

 ブラッド様がこの日記を読み終わる頃には、私はもういないでしょう。

 ブラッド様の人生は、これから先、長く続いていきます。人間よりもずっと長く。時の流れとともに、いずれあなたは、私のことなんて忘れてしまうでしょう。こんなに苦労して世話をしてあげたのに。それはしょうがないことだと分かっています。ブラッド様は少々阿呆ですからね。

 私はジョゼフ様に連れられて、ここへやって来ました。最初にあなたと出会った時は、わがままで自惚れやで、不思議な吸血鬼だなと思いました。でも、あなたと過ごしていく中で、優しさや強さに触れ、私はあなたから学ぶことも多くありました。

 これから先、色んな人々に出会っても、大切な人ができても、あなたの頭の片隅の、ほんの一部でも構いません。そこに、私と過ごした日々を置いておいていただけたら嬉しいです。私にとってあなたは特別な方、そしてその逆もそうであって欲しい。

 どうかこの日記が、私のことを思い出すきっかけになってくれることを願って。

 私は何があっても、ブラッド様の味方です。どこまでもお供することはもうできませんが、私はいつだって、あなたのことを見守っています。

 ありがとう、ブラッド様。

 あなたのおかげで、私は幸せでした。

 そして、あなたの未来が、素晴らしいものでありますように。

              ソフィアより』


 読み終わった時、僕の目からはポタポタと雫が落ちてきていた。


「……もう、ソフィアったら」


 いつか来ると分かっていた別れの時。避けられないことだと知っていた。それでもやっぱり、寂しいな……

 だけど、僕はもう大丈夫。一人でやっていけてるよ。ソフィアは安心して眠ってていい。まあ、たまには空から、僕の旅の様子を見てくれていてもいいけどね。

 君のことは、絶対に忘れない。君は僕の、僕だけの、特別なメイドだから。


 僕は日記を閉じ、胸に抱いた。


「ありがとう、ソフィア」





       番外編『ソフィアの日記』END

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世界を巡るヴァンパイア 秋月未希 @aki_kiki

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