ロボットものの魅力とは、ロボットだけに非ず

ひと通り読んで思ったのは、主人公に対する明確な壁がないことです。


ケモノという敵はいますが、人類に敵意を示す理由と目的がない。ただ食らうだけならば文字通り、知能のない獣です。針で操られているケモノが出てきた時は、「このケモノたちを操っているのはどんな存在だろう」と思いましたが……正直言って、肩透かしでした。

主人公、そして主人公の仲間たちにとっての(思想、立場などの)壁になりうる正体ではなかったのですから。

主人公がロボットを手にしてから以降、まっとうに人間として扱われるようになりましたが、その後がなんだか、とんとん拍子に話が進み過ぎているように感じました。人間として、ロボットの乗り手として、そして人間である前の存在として、ぶつからざるを得ないような事態というのに直面していません。仲間も好意的で、ほとんど無条件で想ってくれるヒロインもいて、序盤終了から終盤に入るまでの展開が平淡でした。

組織から横やりを入れてくるような描写はありますが、それはあくまで描写に留まっている程度です。主人公と意見を違えるような、明確な衝突が薄すぎる。すべて主人公の兄が緩衝役となって、「これこれこういうことがあったんだ」と伝えてくれるだけ。

「この物語はどこへ向かっているのだろう?」と疑問に思いながら読んでいました。乗り越えるべき壁が明確に示されていない中、終盤でようやく敵と呼べるようなものが出てきた時は「やっとか……」と思いましたが、それすらも「敵」として物語の中で機能していない。

「何がなんでも倒すべき敵」であるという理由がない。襲ってきたから、対抗しただけ。それではケモノと変わりありません。敵もロボットという必然性がない。主人公にとっての真の脅威、壁となりえない。主人公の心象からしても、乗り越えるべき対象ではないと見受けられました。


総じて、主人公にとって乗り越えるべき壁があまり見受けられないこと、何かしらの形で成長したのかどうかが、自分には気になりました。

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