不思議

元気は、マスターの薦めで、八幡神社でお参りをしていた。


「わ!やめて!」という若い女の声がした。境内の奥に、その声を辿っていくと、あの二人だった。


悪乗りしたように、大柄な男が芸妓を肩に乗せて、はしゃいだ声を出している。


「なんだよ、夕子、怖いのか?」と華やかな声で笑った。


 男が夕子と呼んだ芸妓を肩からするっと降ろすと、芸妓は男の腕に掴まった。大柄な男は芸妓の脇に腕を挟むと、くるくるとその場で回りだした。


 夕子は遠心力で投げ出されそうになり、ひしっと男の肩をつかみ、ぶんぶんと振り回されていた。


 いい年をした大人二人がふざけている姿は、意外にも微笑ましくみえた。


 境内の灯りの下に二人が入った時、二人の顔がはっきり見えた。

元気は驚いて、目を瞠った。大柄な男は、元気そっくりだったのだ。髪を一つに結いあげているがまさに元気と同じ栗色の髪だった。


 びっくりして、見入っていると、二人は、上気した顔で抱き合い唇を重ねた。元気は思わず手で目を覆った。目を開けた瞬間、二人の姿が、また、闇夜にすっと溶け込んでしまった。元気は、走っていったが、そこにはやはり誰もいなかった。


 元気の心臓は、今にも口から飛び出してくるかと思うほどに、どくんどくんと跳ね上がり、その音が自分の耳に届いてきた。


 あれは、俺?俺なのか?そっくりだった。心臓の鼓動が漸く収まった。家にたどりつくのがやっとだった。

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煌めく瞳に くしき 妙 @kisaragimai

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