第2話 仕上がったおっぱい

「・・・・・・ね、やっぱりしていかない」

「お前こそ玄人に頼め。俺じゃなくていいんだろう」

「あなただって、私じゃなくていいんでしょ。似た者同士、慰め合いましょうよ」

「慰める、という玉か、お前は」

 くくっと小さく加ヶ里は笑い、男の手を取って自分の襟の合わせ目に引き寄せた。


 往来に面した障子を立てれば部屋の中は薄暗く、けれど春の夕暮れにはまだ遠い。日中の町の喧騒を聞きながら肌を重ねる躊躇いなんて、ほんの少しも感じない。そんなことを考えて、加ヶ里は思わず零れる笑いを堪えた。


 男と肌を合わせることに躊躇いなんて、未通女でもあるまいし。


「名前、なんて呼べばいいかしら」

 任務の時に顔を合わせても、互いの名前は口にしないのが決まり事。相手の逞しい腕に体を引き寄せられながら聞いてみる。

「お前から今さらそんな言葉がでるとは思わなかった」

「原様、なんて、最中に呼ばれたいのかしら」

 あえて禁を破って相手の名を呼ぶと、好きにしろ、そう短く言って原の手は加ヶ里に引き入れられた襟の合わせから、強引に乳房を揉み始めた。


 帯が締まって少し苦しい。でもその分、息が直ぐに荒くなる。


 着物の襟が背中から引かれて、その引く力に合わせて自分で着物の前を開くと帯は自然に崩れて緩む。濃茶に見えて臙脂のよろけ縞、小袖は帯に絡まって、更紗の襦袢が薄暗がりに露わになった。原が着物を剥ぐ手を止めて、襦袢の品に目を細める。


「良い物を付けているじゃないか」

「これがわたしの道具だもの、当然よ」

 遠目には緋色の襦袢に見えて、近づいて目を凝らせば紅で染められた繊細な西洋草木の文様が白の木綿の生地をみっしりと埋めている。この色合いが自分の肌をより艶めかせることを加ヶ里は知っている。すでに開いた襟から零れる白い乳房の盛り上がり。圧し掛かる原の肩を手で押しとどめ、自慢の更紗と自分の白肌、薄紅色のその先端を男の目に充分、賞玩させる。


 今回江戸に来てすぐに買った新しい得物。男の目に与える影響を加ヶ里が検分した頃合いを見計らって、原は加ヶ里の乳房に吸いついた。固くしこる先端を舌で舐められ、指で摘ままれ。裾を割って足の付け根に伸ばされた指は既に裂け目に潜り込んでいる。そんなに久しぶりの感覚というわけではなかったけれど、指の腹で擦られる甘くひりつくような刺激に思わず加ヶ里の口から喘ぎが漏れた。


 原の手管は充分知っている。部屋の中に低く響く濡れた音。この先を思い出しながら肌だけでなく気息も合わせれば、自然と呼吸は乱れて、体も濡れる。それは相手も同じこと。手っ取り早く、手軽に、なにより他の相手なら頭の隅にいつも消えない命の危険を、この相手なら一時忘れて没頭できる。


 肌を合わせることに大した意味なんて、ない。


「翠雨の水紋」https://kakuyomu.jp/works/1177354054934988614/episodes/16816700426992202846

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おっぱいを語る回:自主企画参加コンテンツ 葛西 秋 @gonnozui0123

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