「短編」regret ②

たのし

後編

貴方が両手•両足・首・胸の中・頭の中に持てない錘を持って1人山形に帰って二年が経った。


その間も私達は時々時間を見つけては連絡をとり、たまに電話をしながら重いとても重い錘を軽くしていった。


貴方はおじいちゃんと2人、平凡な生活を送っていたが、周りの目は2人には冷たくひっそりと暮らしている印象だった。


私達は大学入試に向けて勉強を本格的に初め、たまに電話で分からない所を教え合いながら2人の間は何の変哲もない、ただただ普通の高校生活を送っていた。


「まさか、美香に勉強教えてもらう様になるとはな。」


これが貴方の口癖になるくらい私は高校受験の悔しやをバネに頑張った。


「まーね。悔しいのはもうごめんだから。この2年は全力疾走したつもり。立花くんには負けれないから。」


「確かにあの時の美香の凹み方凄かったからな。ずっと下向いてた。」


貴方はそう言ってゲラゲラと笑っていた。


「あれは、下を向いて右の親指と左の親指に会話を聞いていたの。どうだ。右の親指くん。まだ走れそうかって。まだ行けるよ。って左の親指が答えたから私は全力で走ってるの。」


「美香って変な事普通で言うよな。でも、なんとなく響くな。今日僕も聞いてみるよ。」


「立花くんだから言うの。他の人に言ったら頭のネジお留守か。って馬鹿にされるから。」


私達はそんな普通の当たり前の会話を毎回していた。2年間1度も会っていないけれど、一緒に並走するランナーの様に私達は充実な日を過ごした。


「そう言えば立花くん。大学どうするの。」


「地元のB大だよ。そこの国際教養学部に行くつもり。美香は。」


「私はまだ大学は決めていないけれど、将来は教師になりたいって思ってるの。」


「美香なら絶対いい教師になれるよ。」


「絶対なるし。それで何で国際教養学部なの。」


「将来は海外の子供達に勉強を教えたいんだ。そのためのステップだよ。僕は当たり前の事が見えないで他の人が持っていて自分に無いものばかり数えて来た。でもそれは違くて。なんだかんだ考えてたら、海外で教育受けれない子供に勉強を教えたいって思ったんだ。」


「いいじゃん。でもなんだかんだって何よ。」


「うーん。うまく言えないけれど母さんに誇る為かな。母さんは僕1人を守ってくれた。母さんから貰った命。だから僕は1人で1000人を守りたいんだ。」


貴方はしっかりとした口調で答えた。でも、初めて会った時の変な大人じみた寂しい感じではなく私は貴方に希望を感じることができた。


「アンタならなれるよ。応援する。」


「ありがとう。」


私は白が好きだ。

綿飴みたいな雲。

トクトク注がれた牛乳。

まるまる太った白の毛糸玉。

ビー玉から溢れる光。


そして立花くん。

貴方は初め会った時は光が強すぎて近寄り難い感じだった。でも、今は少しその光を弱めて私の好きな色になっていた。


✴︎


私達は大学生になった。

貴方はB大へ行き、私は山形にあるC大に入った。


貴方はおじいちゃんと一緒に住む、実家から通い、私はアパートを借り大学生活とアルバイトに打ち込んだ。


私達は3年ぶりに会った時は普通だった。

良くも悪くも昨日会ったみたいな。

でも私達の間にはドキドキする緊張とかはなく、ワクワクする方が大きかった。


「美香。久しぶり。何か田舎臭さ抜けたね。大人になった感じがする。」


「立花くんも背が大きくなったね。昔はそんな背変わらなかったんじゃない。」


「いやいや。美香より頭一つ分はでかかったし。」


「今は首くらいかな。」


私は一歩貴方に近づきシャツのボタンがはっきり分かる距離まで近づいた。


「うわっ。女臭い。」


そう言って貴方は一歩後ろへ顔を赤くして下がった。


「ひどっ。」


それから、私達はお洒落なカフェとかお洒落なレストランではなく、チェーン展開しているファミレスに入った。


「何だかんだで、2人でご飯食べるの初めてどね。おっとなー。」


私は横に置いてあるカトラリーボックスの中身からフォークを取り出して手渡した。


「僕そう言えば、ファミレスとか母さん以外の人と入るの初めてかも。」


サラダをフォークで突っつきながら貴方は言った。


「なら私が2番目で良かったじゃん。」


「うん。美香が2番目で良かったかも。」


それから、溜まった3年分の話を沢山した。

貴方が私に背を向けシャツの袖で瞼を拭いて立ち去ったあの時からの出来事を話した。


貴方の後ろにはいつも人殺しの息子と言うレッテルが貼られ、高校でも1人で過ごしていたみたいだ。修学旅行などは行かず家でおじいちゃんと2人で過ごしたみたいだ。


「ねー。寂しく無かったの。」


「んー。その感情は小学校の卒業式と一緒に消えたんだ。友達がどんどん離れて行くのがイヤでね。それからは作らないようにしたかな。心が勝手にセーブするみたいな。」


「私とは話したじゃん。」


「美香は何だろうよく分かんない。でも、ありがとうとは思ってるよ。」


貴方はそう言って頼んで置いたショートケーキを私にくれた。


「美香はこのケーキのいちごだね。無くても食べれるけど、味気ない。いちごが無いとショートケーキって名前もつかない。そんな感じ。」



「ふーん。」


貴方の白いケーキの上のいちごになれてたことに嬉しく思った。私はいちごの周りのケーキを食べなら貴方に聞いた。


「この後、お願いがあるんだけど。」


「何。」


「立花くんのお母さんのお墓参りに行きたい。これ私決めていたんだけど、駄目かな。」


貴方は少し考えた後。


「いいよ。なら時間も無いから行こう。」


私達はファミレスを出て電車に乗り、立花くんの実家がある駅で降りた。

近くの小さな花屋に入り母の日が近いこともあり、カーネーションを選んで店の人にラッピングを頼んだ。しかし、店主は舌打ちし、雑にラッピングされカーネーションは茎が折れ、垂れ下がっていた。棚に投げ置かれ店主は他のお客さんによそ行きの声で「いらっしゃいませ。」っと接客に向かった。


これが立花くんとお爺ちゃんが置かれている現状だ。私は全てを察した。


「おい。おっさん。やり直せ。ラッピングできないんなら花屋辞めろ。」


私はよそ行きの声で接客する花屋の店主の所に行き言った。


「お客さん。私達が今ラッピングを頼んだらこんな感じにされました。買うのやめた方がいいですよ。」


私は付け加えてお客さんにそう言うと、「あっ。こんな時間。また来ますね。」そう言って何も買わず帰って行った。


「美香いいって。こうしたら綺麗になるから。」


貴方はリボンを結び直して言った。


「もう。こんな小さい花屋来るの辞めたら。」


私は店主に聞こえる声で言いながら2人で花屋を後にした。


お墓につき、ハサミで垂れ下がった茎を切ってまた綺麗にラッピングしてお墓に飾った。


そして、手を合わせた。「ご挨拶遅くなり申し訳ないです。私は、中間 美香と言います。立花くんとは中学から一緒にいます。お母さんの話も聞きました。立花くんとお母さんの過去は私は話は聞いています。幸せな事。辛い事沢山聞きました。立花くんは誰よりも優しいです。そんな立花くんを1人にしたお母さんは許せないです。でも、沢山くんを産んでくれてありがとうございます。私に何ができるか分からないですが、立花くんを支えてあげれたらと思います。私も立花くんに沢山貰いました。また時々来ます。」


私は胸の中でそう立花くんのお母さんに言うとそっと目を開けた。


「美香。長くね。寝たのかと思ったよ。」


「立花くんの悪口お母さんに言ってたの。」


「母さん今日枕元に立つかも。」


貴方はそう言って、お墓に一度頭を下げた。


「美香。さっきはありがとうね。花屋の時。」


「あれは、あのおっさんが悪いじゃん。当たり前の事よ。」


「そうかもしれないけど、スッキリした。ありがとう。」


「何かあったら言っといで。殴り込んであげるから。」


貴方はそれを聞いてケラケラ笑った。

貴方はあの時とは違い目も笑うようになった。

年相応の笑い方。貴方はその笑い方がいいよ。


私の帰りの電車が来るまで、その笑顔はずっと続いた。


✴︎


それから、貴方はバイトの時間を増やした。

私も更に忙しくなった学業とバイトで各々忙しい日々を送った。たまに時間が合えば会ったりするが、貴方は疲労を隠しているのがバレバレなくらい、溜まった重さがのし掛かっていた。


そんな生活を卒業まで続けた。

私は国家試験をクリアし、就職先の学校も見つけた。そんなある日、貴方は私に電話で「今から会える?やっと達成したんだ。初めに美香に報告したいから、今から会える?」


初めて聞く子供の様な声だった。私はメイクもせず会いに行った。


ファミレスに入り、ニコニコした彼はバッグから通帳を出して私に見せてくれた。


「バイトで貯めたんだ。これで学校が作れる。」


彼は少し黄ばんだ通帳をまた大事にバッグに閉まって続けた。


「このお金で教育を受けてない子供に学校を作るんだ。いろいろ調べたりして学校作れる国も探したんだよ。」


貴方はスマホを取り出し世界地図を見せてここっと指を指した。アフリカの西の国である。


「なら大学卒業したらどうするの。」


「この国に行くよ。予防接種とか済ませないと。」


「立花くんがしたかった事だもんね。私はなら応援するよ。1000人の子供に勉強教えたいんだもんね。」


「ありがとう。絶対いい先生になるよ。」


貴方の嬉しい話なのに私は何だか寂しい気持ちになった。また離れてしまうのか。できる事なら止めたい。でも、貴方のしたい事だから私は応援したい。我儘な自分が出るのが少し嫌だった。だから、私は背中を押すことを決めた。


「頑張って。私に出来る事あるなら相談してね。」


「ありがとう。」


卒業まで残り2ヶ月を切っていた。

その日の寒さは妙に答え、私は数年ぶりの風邪をひいた。


✴︎


貴方が学校を作るために旅だって一年半が過ぎ、私もクラスを持たせて貰える様になった。


時々、国際電話で電話をする時、時差のせいで貴方はいつも眠そうだった。でも、あの頃と変わらない、いつも通りの雑談。


「見てくれた。写真。学校の。」


「見た見た。立派じゃない。私達の歳で学校建てた人いないんじゃないかな。誇らしいわ。時々、私もクラスで立花くんの話してるのよ。」


「僕もしてるよ。美香の話。怖い先生がいるって。」


「私が怖くなるのは、変なことをした人だけにだよ。」


私達はこんなつまらない会話を飽きもせず、高校生の時からしていたのだ。


「やっと僕はスタートに立てたな。じいちゃんの事は心配だけど、じーちゃんと美香と母さんが背中を押してくれたから出来たんだ。3人には感謝感謝だよ。たまに凹むけど、そんな時は左足と右足の親指と相談してるよ。」


「うん。うん。良かった。立花くんが楽しそうで私も嬉しいよ。」


「そう言えば、美香。今度帰ったらお願いがあるんだ。」


「なーにかな。頑張ったから少しの無理は聞くとしよう。」


「帰ったら言うよ。それまでドキドキしといて。」


「んー。分かった。」


貴方の声は昔とは凄く変わった。

少年に戻った。

子供になった。

笑い方も全て。

録音しとけば良かった。

声は忘れてしまう。どんな音階でどんなイントネーションか。


✴︎


私は朝、バタバタと出勤する準備をしていた。

テレビから知ってる名前が聞こえてきた。上の空で聞いている声だったが反射的に釘付けになった。


貴方の名前だった。

学校で授業をしている時、何者が入って来て子供達を守るために庇い犯人に刺されたらしい。


30秒くらいのニュースだったが、私を突き落とすには十分だった。


メイクは下地で止まり、一瞬ぼーっとしていた。我に帰りメイクを済ませた。


ぼーっとしながら学校へ向かい、授業を行っていた。その時、貴方の顔がちらついた。


私は生徒がいる中、涙と冷や汗が出てきて、体調を崩して倒れた。


気づいた時は保健室に寝ていた。

私はすぐ携帯で貴方に電話をした。

いつもなら5コール以内には出るのに出ない。

折り返しもない。


何かしなければならないができない状況に焦りを感じた。


その日から数日鳴らない携帯を握りしめて貴方からの連絡を待った。


あの時止めていたら。

あの時止めていたら。

あの時止めていたら。


頭を呪いのように駆け巡った。


こっちで経験積んでから行けば。とか、もう少しいろんな国回ってから場所決めればとか、説得したら貴方は死なずに済んだかもしれない。


きっと私のせいだ。


もう、会えないじゃん。


鳴らない携帯は時間の経過と共に貴方の死を実感させた。


そして、後悔も膨らんだ。


貴方の私へのお願いって何?これじゃ何も分からないじゃない。


その時、携帯がなった。知らない国際電話。

警察からだった。やはり貴方は死んだらしい。


もしかしたらの可能性も消えた瞬間だった。

貴方の携帯には2人しか名前がなく、私と貴方のお爺ちゃん。


遺体確認のため、空輸された後、確認して欲しいとの事だった。貴方のお爺ちゃんは年齢的に厳しいそうで私が確認する事となった。


当日、学校に事情を説明し、休みを貰い警察署に出向いた。

白いシーツに寝かされた貴方は少し小麦色に焼けていたが、私の知ってる貴方だった。


「間違いありません。優しい立花くんです。」


私は警察官にそう伝えた。


「良く頑張ったね。偉いぞ。」


私は貴方の硬くて冷たい手を握り温もりを探した。


頭を触れ顔を触れ沢山褒めた。


葬儀業者の人が来て彼を山形へ連れて行く準備を始めた。

慰留品を警察から貰い、その中の貴方の携帯から貴方のお爺ちゃんを探し、初めて話すお爺ちゃんに貴方である事を伝えた。


慰留品の中には沢山の写真と「いつか美香に渡すやつ。」と書かれた封筒が入っていた。


私はその封筒を開けた。読んだ後私は貴方と同じ気持ちであった事ともう遅い事。感謝で一目憚らず泣いた。封筒の中には2つ指輪が入っていた。


私と貴方を乗せた車は貴方とお爺ちゃんが過ごした土地についた。


「立花くん。胸はっていいんだよ。肩身が狭いとか思うな。もし何か言ってくるやついたら私が殴りつけるから。立花くんは立派な事をした。誰にでも出来ることじゃない事をした。私の誇りだ。」


私は貴方のお爺ちゃんがいる老人ホームへ向かえに行き、葬儀場へと向かった。


私と貴方のお爺ちゃんと貴方のお葬式。

初めて会う貴方のお爺ちゃんは私の事を良く知ってくれていた。


「孫が世話になった。娘のせいで孫には苦労をかけた。美香さんがいなかったらあの子はどんな人生を送った事か。」


「立花くんは優しい人です。人の痛みが分かる強い人です。」


私とお爺ちゃんは小さなお葬式をし、火葬し、私でも持てる箱に収まった立花くんをお母さんが眠るお墓に入れた。


「立花くん。これ。ありがとう。私も同じ気持ちだよ。」


私は指輪を一つ薬指につけ、一つをネックレスにして首にかけた。


「お義母さん。立花くんを半分だけ一緒に連れて帰ります。また会いに来ます。」


✴︎


美香へ。


美香ってなんて言うか、言葉で言えないんだけど、友達とか親友とかライバルとか好きな人とか家族とかそんな言葉じゃ表せなくて。


美香がいるから大丈夫だって今まで生きてこれた。


もし、僕が1000人の子供達に勉強を教えて立派に皆笑顔にできたら結婚してほしい。


その時、美香にいい人がいなかったらで良いんだけど。


✴︎


私は今、アフリカの西にある、貴方の過ごした学校にいます。

私は貴方の夢を引き継いでいます。


もし、貴方に出会わなかったら、六本木で女社長とかなれないかなって夢も目的も何もない人生を送っていたと思います。


次の子達が卒業したら1000人を送り出せそうです。皆元気でヤンチャですが可愛いです。貴方はこの景色を見てたんだ。


今の私をお母さんと見てますか。


これが私の貴方気持ちに対しの答えです。


後悔はもうしていません。



おしまい。

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「短編」regret ② たのし @tanos1

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