第2話 馬鹿め、1話目は残像(序章)だ
序章を読まずに本編を読む人間がいないことを祈りつつ始めることにする。
そんなこんなで、
どんなこんなか自分でも全然わからんけど、
改めましてこんにちは、かごめかごめで異世界へ転送されました、魂☆レッド!!と申します。
早くこの異世界に馴染めるように頑張っていきたいと思いますので、気軽に「レッド」って呼んでください。
はい、転送生に拍手ー。レッドはまだ異世界に来たばかりだから、みんな色々教えてやってほしい。
よし、レッドの席はそうだな·····ここに詳しいアイツの隣にしようか。
「はいどうもーいらっしゃいませー!」
「いや誰やねん居酒屋か転送生てなんやねん転校生みたいに言うな学校か、それとも居酒屋か!!!!!」
疑問も何もかもをぶち込んで煮込んだような自分含めのノリツッコミは疲れる。ゼィゼィ。それなりのピチピチの妙齢なのよ俺は。
「はい改めてうしろのしょうめん、だーあれ!!異世界へようこそヒーローよ!!!」
「いやもうだから·····誰·····」
かごめかごめのうしろのしょうめんに居たのは、ベタな白いローブを着た謎の人だった。フードで顔が見えないので、ローブを着てる謎の人ということ以外何も分からない。
声色的に女性だろうか。
そう思った途端、ンッンッ!と謎の人が咳払いをして、低い声へ調整を始めた。
俺はサトラレにでもなったのか?死ぬほど嫌だ。変なこと考えられへんくなる。もちろんヒーローは変なことなど考えないが。
ンナーー、という発声練習の後、謎の人はもう一度同じ内容を繰り返した。都合三回目である。
「よく来たなヒーローよ、ウェルカムトゥザクレイジータイム」
このイカれた時代へようこそってか。
やはり俺はサトラレになったのか、謎の人は楽しそうに君はタフボーイタフボーイタフボーイタフボーイと続けて歌った。
やめろ、JASR〇Cが来る。
「ていうか、このノリがめっちゃデジャヴやねんけど」
「ほほう、さすがはヒーロー。察しが良い」
謎の人がフードを取る。
まさかというかやはりというかよもやというかですよねーというか、
そこにはファンミという名のかごめかごめ会を提案した、あのイカれた·····じゃない、ちょっと突飛なところが玉に瑕のファン(一般オタク女性)が立っていた。
それっぽいローブを着て、いつの間にかそれっぽい杖などを持って。いやさっき持ってなかったやん、どこから出した?
「なんか手持ち無沙汰やったんで·····」
「まって、俺さっきから思考読まれてんの?怖!」
「ふっふっふ、妙なことを考えることもできまい。ま、ヒーローは妙なこと考えたりトイレに行ったりしませんけどね!」
「いやトイレは行くわさすがに」
まぁ思考読むのは嘘なんですけど、とローブ姿の一般オタク女性はけらけらと笑った。
「楽しそうなところ大変申し訳ないねんけど」
「みなまで言うな!あなたの聞きたいことはすべて分かっている。ここはどこか、何故ここにいるのか、わたしが誰なのか、そしてトイレの場所はどこなのか」
「何故かトイレ引っ張るやん」
そしてトイレの場所ならさっき崩れかけアンド蔦まみれのやつを見たから知っている。
水が流れるかどうか、トイレットペーパーがあるかは甚だ疑問やけども。
「ここは所謂、平行世界というやつです」
低い声を早々にやめた(ちょっと雰囲気出したかっただけで、早々に飽きたらしい)ローブの一般オタク女性は勿体ぶるのすら飽きたらしく少しずつこの状況について説明を始めた。
俺はかごめかごめの状態のまま、一度びっくりして後ろへすっ転びはしたが、芝生のようにもさもさと草の生えた地面に三角座りしたまま彼女を見上げている形だ。尻にお手製の魔法陣を敷いて。
「へへへ、三角座りの推しを見くだ·····見下ろす景色もいいですね」
「今見下すって言いかけへんかった?」
「さておき、ここは所謂平行世界です。大事なことなので二回言いました」
「へーこーせかいなぁ」
説明されてもピンとこない。
めっちゃリアルな夢でも見ている感覚なのだ。
当たり前やん、かごめかごめで異世界に転送されるとか、常軌を逸しすぎてる。俺はラノベの主人公ではなく一介の会社員·····じゃなくてヒーローなのであるからして。
「我々がレッドさんのファンミを行っていた大〇城公園の別バージョンと思っていただければ」
「固有名詞やめろ」
「もちろん別バージョンなので、こちらにはこちらで流れている固有の時間、形成されている世界の有り様というものがあります。同じ場所でも景色がまるで違うのはそういうことですね」
「へー」
よくわからない。
過去や未来に来たとかなら、ワンチャンわかる気がする。いやわからん。俺は案外リアリストなのである。
「そうや、他のみんなは?」
「わたしだけです」
「えっ」
「もうレッドさんたら、妙齢成人男性とはいえ、女子と二人っきりのシチュエーションにそんなときめかんといてくださいよー」
「ときめいてない·····普通にみんながおらんことにびっくりしてる·····」
「さすがレッドさん!己の身に起きたことよりも人々のことを案じるその慈愛!尊きヒーローの魂!最高!宇宙!」
宇宙っていう褒め言葉はなに?それは褒め言葉なの?
「先程説明したように、ここは別バージョンとはいえ形成されている世界の有り様が違います。なのでこちらで存在している人間は向こうとノットイクォールなのですよ」
「なんのこっちゃわからんから平たく説明して」
「わたし以外おらんってことですわ」
「せやろな」
ドントシンク、ジャストフィールってことね。もうええわ。
結局説明を聞いても何も分からないので、俺は考えるのをやめた。これでさっきの宇宙は伏線回収できたやろ。伏線回収の意味間違ってるかもしらんけど。
「んで、俺はなんでここに来させられたん?」
「異世界ものと言えば相場決まってません?」
「質問を質問で返すな」
我ながらファン相手とは思えぬ言葉遣いになってしまっている。状況の異常さと、ツッコミが追いつかないせいだ。
·····ん?ファン?
「まって、ここが城公園の別のバージョンとしたら君はあの子の別バージョンってこと?それとも本人?」
「お、さすがわたし?あの子?の推しですね、目の付け所が違うぜ」
褒められている気がしないしややこしい。
「実は、わたしはレッドさんが居た世界のわたしと意思を共有しているのです」
「なんのこっちゃわからん」
「ざっくり言うと、向こうのわたしとLINEできるってことです」
彼女はそう言ってスマホを出した。
出したというか、本来それっぽい魔法石とかがついてるはずの杖にくっついているのが、まさかのスマホだった。
俺がぽかんとしていると彼女はAndroid派です、と全くもってどうでもいい説明をした。
まって、LINEは比喩ではなくて物理なの?ざっくりというかそのままじゃない?
「これ見てください」
スマホの画面に、「ぼく」という名前のLINEグループが表示されている。
参加メンバーは「ぼく」、つまり彼女だけ。
メモ代わりに使っているらしく、トーク履歴には買い物のリストやToDoリストが書いてあった。
そして、俺についての記述。
もっと多くの人にレッドさんを知ってほしい。
全人類レッドさんをすこれ。
レッドさんの歌は世界を救うから、世界は最高の笑顔をレッドさんに見せろ。
世界よ、お前はまだレッドさんを見つけられないのか。お前の目は節穴か。
今世界に蔓延している未知のウイルスどもめ、今にわたしのヒーローが貴様らを殲滅するからな·····ライブ中止にしたことを泣いて悔やむ前に死滅するがいい。
文面が若干アレだが、応援してくれている気持ちというかクソデカ感情は伝わってくる。
ありがとう、と素直に思う。じわりと涙が出てくる。感謝と恐怖で。ちなみに俺にウイルス除去機能はないの。ごめんな。
「とまあこんな感じでメモや独り言の代わりに使っていた“ ぼく ”、つまりそちらの世界のわたしがこれを使っているうちに、レッドさんへの熱い想いがなんかこう、エイエイッってなって、この世界のわたしと繋がることが出来るようになったのです。テッテレー♪」
涙返せ。
わけわからん、という顔の俺を放ったらかしにして、彼女はもう一人の彼女·····たぶん俺が知っている方の彼女にLINEを送った。
「転送完了、オールオッケー」
いや、なにひとつおっけーしてない。
そして驚くことに、まさかと思うけど、この話はまだ続くんである。
嘘やろ?
ヒーローをやっていた俺がかごめかごめで異世界へ転送されたわけだが? 天宮ほーが @redfalcon
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