ヒーローをやっていた俺がかごめかごめで異世界へ転送されたわけだが?
天宮ほーが
第1話
ヒーローをやっていたのだが、かごめかごめで異世界へ転送された。
お前は何を言っているんだ。
普通の感覚の人間ならそう思うタイトルと書き出しだろう。俺もそう思う。大丈夫あなたは正常だ。だから俺も正常だ。
異常なのはこの状況と、
俺のファンだった。
「なんかおもろいことしたいなー」
そんな何気ないことネット上での呟きが、異世界へのプレリュードになるなんて誰が思ったであろうか。いやほんまに何気ない一言じゃない?普通のことよコレ。仕事終わって帰ってきて、の中で退屈を極めてしまった現代人のささやかな呟きじゃない?退屈という平和な日常の中で、「ほんまっすねー」くらいのやつで終わってまう話題じゃない?
なのに。
「じゃあ、レッドさんを囲む会やりましょうよ」
あるファンがそう言った。
なるほどファンミーティングというやつか。
ファンミとかやったことないけど大丈夫かな、と言うと「大丈夫レッドさんと過ごせるなら呼吸してるだけでプライスレスですから」と返信が来た。
愛が死ぬほど重い。
相手はオタクやから「何を言うとんねん」で返せるのだが、一応この方一般女性であるわけで、だいぶヤバい類になるのではないだろうかと心配になる。
しかし、基本的に人間に興味がないしガチ恋勢ではないです大丈夫です心配ご無用無問題!とのことなので、人的被害はなさそうで安心した。
俺は人間なんですけどもそれは。
で、集まって何しようか?と聞くと
「季節が合えばお花見とかできたんですけど·····いっそ童心に返って鬼ごっことかままごとを全力でやるとかどうですか」
異常な答えが返ってきた。それなりにいい歳の成人が集まって全力で鬼ごっこはヤバすぎないだろうか。ままごとに至っては常軌を逸しすぎている。
「相撲とるとか」
「無理」
なんでですかぁヒーローポイント貯めましょうよーと言われたが、俺のヒーローポイントは童心に返って走り回ったり相撲に勝ったりすることで貯まるのではない。
ここで、俺というヒーローについて説明したい。遅くなって申し訳ない。
出水ヨウスケと申します。お名刺頂戴します。学生さんは学生証ご提示ください。別に学割とかはないです。
会社員などをしながら、じゃなくて会社員に扮してヒーロー活動をしています。
最高にかっこいいマスクを着けることにより、あとプレミアムバ〇ダイの何かしらを着ることにより、魂☆レッド!!に変身することができるのだ。シャキーン。
しかし残念ながら光らないし鳴らないし巨大化もできませんご了承ください。
あと細かいことで申し訳ないが、エクスクラメーションマークは全角で打ってください。書いてる奴は先ほど間違えました。
あ、しまった「説明しよう!」から入ればよかった。
まあとにかく俺はヒーローに変身する。
しかし、悪の組織ブラックマスク(どこかの光戦隊とは関係ない)との死闘の中ヒーローの力を失ってしまい、本来の力を出すことができなくなってしまった。
その力を取り戻すためには、先程出てきたヒーローポイントを貯めなければならない。
そのヒーローポイントを得るために必要なもの、それが、
歌だ。
ただの鼻歌やカラオケで歌うのとはわけが違う。
俺の主戦場は、ライブハウスやイベント会場。
大勢の人の前で歌い、俺の歌を聴いてくれた人たちの笑顔から力をもらうのだ。レッドさんの歌好きです、そうか応援ありがとうのやりとりに乗せられた気持ちというか、そういうやつがなんかこう、エイヤッとなってヒーローポイントになるのだ。
力を取り戻し、そして再び闘うため、そこらへんの何かしらを守るため、魂☆レッド!!は今日も歌うのだった。
はいここでそれっぽいBGMくださーい。音響さんおらんけど。あと勢いでうっかり本名を名乗ってしまったが中の人などいないのだ。おいそこ設定とか言うな。
説明が長くなったがそういうわけで、歌う場がなければヒーローポイントが貯められないのである。
歌う場がなければ作ればいいじゃない、と申される?
会場借りるにも先立つものが要るのよ。俺一人地声で真っ暗なステージで歌うわけにいかんのよ。シュールすぎて何かの宗教行事みたいになるやん。怖。
というわけで(どういうわけか全くわからない)、何かの宗教行事になるかもしれない恐れを抱きつつ、まぁ何かしら面白いことがしたいというのは俺だけではなかったようでファンとの利害が一致し、「囲む会」という名のファンミーティングを開催することになった。
場所は某所の大きな公園。たまにイベントなどが開催される、そういった規模の公園である。
集まりやすいし、すみっこの方で何か怪しい宗教行事が行われていたとしても、よそ様に発見される恐れが低いという判断により決定した。もはや宗教行事ありきの話になっている。たき火や松明が禁止されている場所でよかった。何の話かわからんけど。
数名のファンと駅前で待ち合わせをし、お菓子やら飲みものを手に公園へ移動する。ちなみにというか当然というか、魂☆レッド!!のファンミーティングなわけなので、俺は当たり前に変身している。いつも応援してくれているファンに失礼があってはならない。これはヒーローの第一級礼装である。
それはさておき。
ジョギングやスポーツ、犬の散歩などを様々に楽しみ、陽の気を放つ人々を眩しげに目に映しながら、我々はよさげな位置を探し陣取ることに成功した。いい感じのすみっこ具合で全員が落ち着いた顔をする。
「この広い公園で、いやすみっこで戦うヒーローですね」
俺の持ち歌の伏線をこんなところで回収したくはなかったが、なんかそういう笑いをちょいちょい挟んでくるファンのせい、いやおかげで回収したっぽくなった。どうもありがとう。
ちなみに持ち歌が収録されたCDやグッズが絶賛販売中でありまするので、ぜひ「魂☆レッド!!」で検索してよかったら買ってください。ええ、ぜひ。
あと、ヒーロー仲間とやってる、youtubeのゲーム実況チャンネルもあるんでこの機会にチャンネル登録だけでもいかがですか。ポテト感覚でいかがですか。ええ、ぜひに。
「ここの部分歌うときいつも律儀にすみっこに行くレッドさん最高ですよね」
「それは褒め言葉なんかな?」
褒めてますよーと返される。他の数名も頷いている。どうも真面目な話らしい。粛々と受け止めることにする。
「で、何しようか?」
「僕、ボール持ってきましたけどボウリングでもします?」
「ピンは?」
「レッドさんで」
「ごめん何を言っているのかわからない」
そしてそれが面白いのかどうかも全くわからない。
レッドさんがピンになって倒れてくれたら世界中が笑顔になりますよ!と力説されたが俺は全く笑顔にならない気がした。いやみんなが笑ってくれるんやったらいいんやけどね?俺だけめっちゃ疲れへん?それ。
「じゃあUNOやりましょう」
屋外で。
わざわざ。
UNOを。
「人生ゲームの方がよかったですか?」
違うそうじゃない。
なに?俺のファンはトンチキしかいないのか?
いやファンに文句を言うのは本意ではない。ないけど。ないけども、さあ。あまりにアレじゃない?
いっそ逆に面白い気がしてきたので、とりあえずUNOを全力でやることにした。
全員なんかテンションがおかしくなっていたので、カードを出す時にヒーローの決め技みたいに声を出すルールが設定され、よりやばさが増した。
いい歳の大人が「くらえ必殺、ドローフォー!!」「ぐああ!やられた!」「しっかりしろ、傷は浅いぞ!」「お、俺はもうだめだ・・・故郷の妻と子どもに、愛していると伝えてくれ・・・」「ジョージ!おい死ぬな、返事をしろ!ジョーーーーーージ!!」とか叫んでおなか抱えて爆笑している姿は、さぞ奇怪に映っただろう。っていうかジョージって誰。
でもこれが案外面白かった。大人になってからこんなしょうもないことでおなか抱えて笑うことってそうないかもしれない。いけるぞ、屋外全力ヒーローUNO(今命名した)。
「いやー笑いましたねUNO」
「UNOってこんな楽しいゲームだったんですね」
「いや絶対違うと思う」
「さて、場もあったまってきたところで…次はアレいっときますか」
そう言ったのは、開催を提案したあのファン(一般オタク女性)だった。
嫌な予感しかしなかった。
「あれってなに?」
一応聞いた。
「本日のメインイベント、”レッドさんを囲むかごめかごめ”ですよ!」
当たり前じゃないですか、みたいな顔で言われた。
まじでやるつもりだったのかと空恐ろしくなる。オタクこわい。
俺の戸惑いをよそに、彼女は謎のレジャーシートを広げた。
いや違う、レジャーシートではない。これは。
「それっぽい感じ出したかったんで、魔法陣書いてきたんですよ!」
「何を言っているの君は?」
うわーすげぇ!と歓声があがる。何故あがるの歓声が。
「めちゃくちゃ怖い囲み会やんけ!異世界にでも送り込む気か」
いっそ笑いにするしかないのでそうツッコむと、「レッドさんノリノリじゃないですかー」「行っちゃいましょ、異世界!」などと歓迎されてしまった。まじか。まじで言ってんのか君たちは。
あれよあれよという間に魔法陣に座らせられ、ぐるりと囲まれる。悔しいことに、かごめかごめするのにおあつらえ向きの人数が集まっているのだった。いや、これはもう、やばい儀式やん。
三角座りの俺の周りを、ファンがぐるぐる回り始める。
宗教行事やん。
かーごめかーごーめ、
かーごのなーかのとーりーは、
いーつーいーつーでーやーる
よーあーけーのーばーんに、
つーるとかーめがすーべったー
うしろのしょうめん、だーあれー
そう歌が終わった時、
ぐにゃりと地面が歪んだように感じた。
「なに?地震?」
驚いて顔を上げる。ルール違反だが心配になったのだ。有事の際は俺がみんなを守らなければならないから。
びゅう、と強い風と共に目に飛び込んできたのは、もちろんというかなんというか公園のすみっこの景色。
しかし何かがおかしかった。
みんなの姿がどこにもない。
それどころか、人の気配がない。
ジョギングにも最適な整備されていた土の道が、芝のような草に覆われて緑色に変わっている。座り心地はそれなりによさそうであるが、かごめかごめを歌っている間に生えるわけがない。
見渡せば街灯は錆びつき折れ曲がり、ベンチやトイレなどの周りにも草がもうもうと生え、噴水は涸れ瓦礫のようになっている。
そこらへんの大きめの石は苔に覆われていて、ワンチャン日本庭園に見えなくもないかと思ったがそんなことはなかった。ただただ長い間、人の手が加えられていない様子、ザ☆ほったらかしもーじゃもじゃなだけだった。
周りにあったはずの高速道路やビル、店なども姿を消し、木々の向こうに見える景色は、まさに青空がそのまま延長して下りてきているかのようにぼんやりとしていて、敷地の外に何があるのかが見えなかった。
まるで世界にこの公園だけが存在するかのようだった。そんな馬鹿な。
どういうことなのか全くわからない。
一緒に居たはずのみんなが居ない。
景色が同じようで全然違う。
まるで自分だけがものすごい長いタイムスリップでもしたかのような。いやそんなあほな。
変わらないのは俺の体とマスクとプレミアムバン〇イ、あと尻に敷かされたお手製の魔法陣だけ。
草木が生い茂る公園(仮)のすみっこ(たぶんすみっこ)に、魔法陣の上に三角座りをしている妙齢のヒーローがひとりだけ。
「え、これはどういうこと・・・?」
立ち上がることすら忘れて、俺は茫然とした。
その時。
「うしろのしょうめん、だーあれー?」
「ぎゃーーーーーーーー!!!!!!」
突然背後から声がして、心臓が爆発四散して穴という穴から出るくらいびっくりした。体は勝手に前転でもするかのように飛んだ。草まみれでよかった。アクションの受け身にワンチャン見えないだろうか。うん、絶対見えない。
「え、何、誰?!」
大混乱の中必死にそれだけを言えた俺に、その人物は大層朗らかに答えた。
「待っていたぞヒーローよ、ようこそ異世界へ!」
「いや質問の答えになってへん!!!」
そんなわけで。
いやほんまにどんなわけか全くわからないが。
ヒーローの俺が、かくの如くかごめかごめで異世界へ転送されたわけなんだが。
いやどの如くよ。
続くのこれ。嘘でしょ?
嘘みたいだけど続きます。たぶん。知らんけど。
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