最終話 陸海協調

1945年9月2日


 連合艦隊司令長官の山本五十六大将、海軍大臣の嶋田繁太郎大将、軍令部総長の永野修身大将、軍令部次長の井上成美中将の4人は海軍省の一室で会談を開始していた。


「良かったな、米国との講和が成って。本当に良かった」


 山本が感慨深そうに開口一番発言した。


 日本切っての知米派としられ、尚且つ、連合艦隊司令長官として3年半にも渡る長い期間米軍と戦い抜いた山本にはこの時点で日米講和が結ばれたことは奇跡であると感じていたのだ。


 1945年6月5日、6日にかけて勃発した大本営呼称「台湾沖海戦」は戦術、戦略の両面で日本軍に勝利に終わった。


 マリアナ沖海戦時を遙かに上回るような大戦力で台湾に来寇した米海軍機動部隊・水上砲戦部隊に対して、台湾に展開していた陸海軍の基地航空隊と第1機動艦隊が全力で迎え撃ち、多数の米艦を撃沈破して撃退したのだ。


 当初、米海軍は台湾の攻略に失敗したものの、残念ながら日本と米国との間に講和に機運は全くといってもいいほど高まらなかった。(台湾沖海戦の勝利を受けた外務省がソ連経由、中立国のスイス経由などの外交ルートを用いて米国に対して講和に働きかけを盛んに行っていたものの全て無視されていた)


 しかし、日本から遠く離れた欧州戦線の動きが状況を劇的に変えた。


 1944年のノルマンディー上陸以来、米英軍とソ連軍によって挟撃され、戦線を次々に打ち破られドイツ第3帝国は敗北の危機に瀕していた。


 しかし、ドイツ第3帝国はここにきて科学力の随を結集させて究極の兵器である原子爆弾の開発に成功したのだ。


 1945年7月8日午前0時に1発ずつの核爆弾が米軍とソ連軍の頭上に投下され、尋常ならざる被害をもたらした。


 パリ近郊で炸裂した核爆弾は連合国将兵9万人を一瞬にして消し飛ばし、15万人以上が負傷した。(一部の兵士が原因不明の症状を患わっているという報告も挙げられている)


 東ヨーロッパのソ連軍が集結していた場所で炸裂した1発は更に悲惨であり、詳しい情報は入ってきてはいないものの、40万人以上が戦死またはそれに近い状態になってしまったらしい。


 連合国の戦力が激減したのと同じタイミングで、これまで防戦一方の苦しい戦いを西部・東部・南部戦線で強いられていたドイツ軍は怒濤の巻き返しを図った。


 パリはドイツ軍の猛攻によって再奪回され、ソ連軍もポーランド領内からたたき出された。(イタリア戦線も同様)


 そのような状況を鑑みて米英などの連合国は急遽日本との休戦に入ったのだ。


 休戦と同時に両国政府は講和会議を開催し、去る1945年8月15日に「東京条約」が締結された。


「お前は我が国が講和を結べた主な原因は何だと考えている?」


 山本は永野に聞いた。


 永野は少しの間沈黙した後、口元に笑みを浮かべながら話始めた。


「山本、貴様が言いたいのはか。ズバリ井上の提案の事だな?」


 永野が隣に座っていた井上を一瞥し、山本がその通りと言わんばかりに大きく頷いた。この様子を見ていると山本は井上がこの戦争のMVPであると考えているのかもしれなかった。


「あのとき井上君から提案された『陸海協調』構想。最初は絵に描いた餅に類別されるものだと私は考えていたが、最終的には上手くいったな。陸海の相互支援がなければ、マリアナ諸島の死守も台湾沖海戦での勝利も覚束なかっただろうな・・・」


 ずっと黙っていた嶋田が発言した。嶋田も海軍大臣として陸軍大臣の東条英機と何度も会談を持っており、陸海協調を「絵に描いた餅」と言いつつも実現に尽力した人物であった。


 嶋田の話を引き継ぐように井上が最後に口を開いた。


「確かに陸海協調の提唱者はこの私ですが、実際に最前線で体を張り、命を賭けて戦ってくれたのは兵達です。これまで何かといがみ合い、軋轢があった中での相互協力は困難を極めたでしょうが、現場の者達はよくやってくれました」


「不幸にも戦死してしまった者達の思いに報いるためにも本官達にはこれからの戦後世界を力強く生き抜いていく義務があります」


――――と。


                           異史・太平洋戦争 終


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 この作品を読んでくださっている読者の皆様へ


 この作品を読んでくれてありがとうございます。


 全142話の「異史・太平洋戦争」も読者の皆様のおかげで無事最終話を迎えることができました。この作品は私、霊凰のデビュー作であり、拙い文章も散見されたとは思いますが、何とか完結にこぎ着ける事が出来て非常に嬉しい気分です。


 もし、この作品が面白いと感じたり、「架空戦記が好き!」「この時代の小説に興味がある!」「軍艦が好き!」と感じた読者の方は作品のフォローと★をお願いします。


 重ね重ねになりますが、私の作品を読んでくれてありがとうございました。


 ちなみに次回作のタイトルは「大海の荒武者」です。新作連載開始次第お知らせいたしますので、乞うご期待ください。


                     2021年11月15日 霊凰より

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追記(2021年11月16日)


私、霊凰の第2作である「大海の荒武者1 『倭寇』作戦始動」が今日連載を開始しました。架空戦記に興味がある読者の方はぜひお読みください。


昨日、読者の皆様の多大なる応援のおかげでこの1作目を完結させることができました。感謝申し上げます。


第2作も変わらぬご愛顧を賜りますようお願い申し上げます。


霊凰より


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(追記)

2022年4月1日より伝説の八八艦隊を主役とする「八八艦隊奮戦記 ~大艦巨砲の彼方~」の連載が開始しました。


「八八艦隊奮戦記 ~大艦巨砲の彼方~」

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2022年4月3日 霊凰より










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異史・太平洋戦争  霊凰 @reioudaisyougun

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