第三十三話:怪事件

 パンジー達の事を押し付けたドミニクとカリーナ。

 彼らは煙草を咥えながら、冒険者ギルドを訪れていた。


「あっ、ドミニクさん」

「ようクラウド。仕事には慣れたか?」


 受付に座っている金髪の青年に、気安く話しかけるドミニク。

 こうして受付係に良い印象を与えておくのも、冒険者のテクニックなのだ。


「あはは、なんとかって所です。ドミニクさんは今日は依頼受付ですか?」

「ちげーよ。ババアからの呼び出しだ」

「ドミニク。一応目上なんだからギルド長って言いなさい」

「へいへい。ギルド長からの呼び出しですよーだ」


 ドミニクは不貞腐れながら訂正する。

 彼がギルド長に呼び出されるのは、これが初めてではない。故に、周りも特に湧き上がってがたりはしていなかった。

 むしろ面倒事を引き受けるであろう男達に、同情の視線を送っていた。


「ギルド長なら今執務室にいる筈です」

「そうか。そうでなきゃ困るんだけどな」

「じゃ、さっさと会いに行きますか」

「クラウドもたまには息抜きしろよ〜。制服とか手袋とか着けっぱなしじゃ肩凝るだろ」

「あはは、善処はします」


 軽口を叩きながら、ドミニクはカリーナを連れてギルドの二階へと登っていった。


 ギルド二階にある一際金のかかってそうな扉。

 今日の目的地であるギルド長の執務室だ。

 ドミニクはやや乱雑に扉をノックし、執務室に入る。


「おーいババア、来たぞー」

「あぁ、やっと来たかい。紅茶が冷めるかと思ったよ」

「悪ぃな。野暮用があったんだ」

「アンタ達はいつもそうだね」


 執務室の来客用テーブルとソファ。

 そこに座って、紅茶を用意しているのは老齢の女性。

 彼女が冒険者ギルドのギルド長である。


「まぁ座りな。紅茶でも飲みながらゆっくり話そうじゃないか」

「じゃあお言葉に甘えさせていただきますね」

「……おいババア、これハーブティーだろ」

「私の趣味さ」

「俺苦手なんだけどな」

「子供かアンタは」


 唇を突き出して紅茶を拒否するドミニクに、カリーナが背中を叩く。

 ひとまず二人はソファに座り、ギルド長の話を聞く事にした。


「で? 急に呼び出して今回はどんな要件だ」


 軽く睨みつけるドミニクに怯む事なく、ギルド長は紅茶を楽しむ。


「そう睨みつけなさんな。まずは紅茶でも飲んでリラックスしな」

「だからハーブティーは苦手だっつってんだろ」

「ギルド長、コイツの事はとりあえず放っておいていいと思います」

「あらそうかい? じゃあ、本題に入らせてもらおうかい」


 ギルド長がティーカップをテーブルに置くと、一気に部屋の空気が変わった。


「アンタ達、最近この街で起きてる連続変死事件を知ってるかい?」

「連続変死事件だぁ?」

「さぁ、存じ上げないです」

「まぁ、そうなるだろうね。自警団には情報統制をしてるからね」


 そう言うとギルド長は、何枚かの紙束をテーブルに出した。


「二カ月くらい前からだ。女の冒険者ばかりが突然奇妙な死に方をして発見される事件が相次いでいるんだよ」

「おいおい、殺人事件なら自警団の仕事だろ。俺らに聞かせてどうするんだ」

「妙な死に方って言ったろ。明らかに只事じゃない死に方をしてるんだよ」


 ドミニクはテーブルに出された紙を一枚手に取り、軽く中身に目を通す。


「発見は三日前。死んだのは二十一歳の女冒険者。かーっ勿体ねー。死ぬ前にお近づきになりたかったぜ」

「ドミニク! アホな事を言うな」

「へいへい」


 カリーナに注意されて、黙読に移るドミニク。

 紙は事件の詳細なレポートであったが、ある項目を見た瞬間ドミニクの顔つきが険しくなった。


「死因は凍死? こんな街中でか」

「それも胴体だけが凍った状態で見つかったんだよ」

「へーそうかい。どこかの魔法使いが犯人ってオチじゃないのか?」

「そう思うなら、次のレポートを読んでみるといいさ」


 ギルド長に言われて、ドミニクは次のレポートを手に取る。


「なんだこれ? 死因が焼死?」

「しかも頭部だけって書いてるわね」

「カリーナ、そっちのレポートはどうだ」

「こっちのは……岩で串刺し!?」

「こっちにゃ、腹部を食われたような跡があったって」


 あまりにもバラバラ過ぎる死因達。

 確かにこれは只事ではないと、ドミニク達も認識し始めた。


「おいババア、これは高ランクの――」

「高ランクの魔法使いの仕業……最初はアタシ達もそう思ったさね」

「と、言うと?」

「魔力残滓が欠片も検出されなかった。これを言えばアンタ達ならわかるだろ?」


 顔が強張るドミニクに、青ざめるカリーナ。

 通常、魔法を使った場合、どれだけ高名な魔法使いであっても魔力の残滓が出てしまう。

 魔力残滓は個人を特定する材料にもなりうる故、それを消す魔法薬も存在する。

 しかしそれなら魔法薬の存在をギルド長が言う筈だ。

 ここまで言及が無いということは、そういう事なのだろう。


「魔法使いの可能性が低いって事か」

「そういう事さ。自警団の連中は認めようとしてないけどね」

「でも魔法使いじゃないとすれば、一体誰が犯人なの?」


 カリーナはそこまで言った瞬間、ある可能性に気がついた。


「もしかして、アルカナホルダー?」

「その可能性があるってだけさ」

「成る程な、それで俺達を呼び出したわけか」

「そういう事さね」


 これで色々腑に落ちたドミニク。

 その瞬間を逃さんと、ギルド長はある紙を一枚取り出した。


「というわけで、アンタ達に緊急依頼だ。このアインスシティで起きてる怪事件。その解決を頼みたい」

「……あのさぁババア。俺ら自警団とか探偵じゃなくて、冒険者パーティーよ?」

「そんな事は百も承知さね。だけどこういう怪奇現象はアンタら得意だろ?」

「いや、確かにアルカナに関しては少しは得意かもしれないけどよ」

「ならアンタ達が適任じゃないか。報酬はちゃんと出すよ」


 ギルド長は依頼書に報酬を書き込む。

 提示された金額は二百万ゴールド。Sランククエストでも中々見ない金額である。


「もちろんアンタ達が動く事は自警団に伝えるさ」

「ドミニク……どうするの?」

「……仕方ねぇな」


 しばし考えた後、ドミニクは依頼書を受け取った。


「多少荒っぽくなっても文句言うなよ」

「そんな展開想定の内さね」

「はぁ、これは忙しくなるわね」


 ギルド長の依頼を受けたドミニクとカリーナは詳細を聞いた後、執務室を後にした。


「面倒な仕事受けちゃったわね」

「そうだな」

「どうすんの? 犠牲者が増えないように、短期で片付けてくれって言われたけど」

「さっさと犯人見つければ良いだけだろ」

「探偵でも無いくせによく言うわ」

「まぁ、なんとかなるだろ」


 煙草をふかしながら、ドミニクはギルド長から受け取ったレポートの紙束に目を落とす。


「焼死に凍死に串刺し……てんでバラバラの死因か」


 何の繋がりも無さそうな死因から、ドミニクは犯人の能力を推理しようとする。

 しかし全く答えが浮かばない。


「アルカナホルダー……それは間違い無さそうなんだけどな」


 アルカナホルダーでもなければ不可能な犯行の数々。

 ドミニクはまだ見ぬ敵に、覚悟を決めるのだった。

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問題:異世界転生したのはいいけど、俺の「力」はなんですか? 〜最弱無能として追放された少年が、Sランクパーティーに所属するようです〜 鴨山兄助 @kudo2121

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