悪い夢の話

海野しぃる

第1話 あなたに何が見えたか教えてください

 聞いてくれ。今朝こんな夢を見たんだ。


     *


「よく来たね」


 中肉中背の眼鏡をかけた男性が笑みを浮かべる。


「あらあら、いらっしゃい」


 その配偶者とおぼしき女性が嬉しそうにこちらを見る。


「お客さんだ!」


 子供の弾む声。


「……あっ」


 不味い、と思った。

 普通の家だ。普通のリビングだ。入ったらそこに仲の良さそうな家族が居て。

 それなのに、僕は『駄目だ、不味い』と思って逃げた。驚く一家の声を背に、家の外へ出て、それから道路を走って走って行き止まりについたと思ったら目が覚めた。


     *


 訳がわからない。そう思ってもう少し詳しく書いてみることにした。書いたほうがディテールを思い出しやすいんだ。夢を見ているだけだとぼんやりした像に過ぎないけど、文章にすればほら、少しはハッキリするから。

 もう少し付き合って欲しい。


     *


 じっとりとした湿った空気。古い木製の廊下は、歩く度にキィキィと鳴って神経を逆撫でした。ここではさんざん怖いものを見た。だからこそ終わらせなくてはいけない。


「よく来たね」


 中肉中背の眼鏡をかけた男性が笑みを浮かべる。心から歓迎している様子だった。だから怖かった。


「あらあら、いらっしゃい」


 その配偶者とおぼしき女性が嬉しそうにこちらを見る。機嫌が良い。


「お客さんだ!」


 子供の弾む声。姿が上手く見えない。


     *


 じっとりとした湿った空気の廊下を歩く。木製の廊下は歩く度にキィキィと鳴って神経を逆撫でした。ここではさんざん怖いものを見た。だからこそ終わらせなくてはいけない。今度は大丈夫。きっと助けてくれるから。


「よく来たね」


 中肉中背の眼鏡をかけた男性が笑みを浮かべる。心から歓迎している様子だった。だから怖かった。僕は確かに守られている筈だし、彼らをここから追い払う手段だってあるのに。


「あらあら、いらっしゃい」


 その配偶者とおぼしき女性が嬉しそうにこちらを見る。機嫌が良い。僕は彼らをここから追い出そうとしているのに。


「お客さんだ!」


 子供の弾む声。姿が上手く見えない。近寄ってくる音だけが迫ってくる。


     *


 じっとりとした湿った空気の廊下を歩く。木製の廊下は歩く度にキィキィと鳴って神経を逆撫でした。ここではさんざん怖いものを見た。だからこそ終わらせなくてはいけない。今度は大丈夫。きっと神様が助けてくれるから。


「よく来たね」


 中肉中背の眼鏡をかけた男性が笑みを浮かべる。心から歓迎している様子だった。だから怖かった。僕は確かに守られている筈だし、彼らをここから追い払う手段だってあるのに。もしかして、何か打つ手があるのか。


「あらあら、いらっしゃい」


 その配偶者とおぼしき女性が嬉しそうにこちらを見る。機嫌が良い。僕は彼らをここから追い出そうとしているのに。そう、ここは幽霊屋敷だ。


「お客さんだ!」


 子供の弾む声。姿が上手く見えない。近寄ってくる音だけが迫ってくる。危険を確信した。これは不味い。走り出す。


     *


 じっとりとした湿った空気の廊下を歩く。木製の廊下は歩く度にキィキィと鳴って神経を逆撫でした。ここではさんざん怖いものを見た。だからこそ終わらせなくてはいけない。今度は大丈夫。きっと神様が助けてくれるから。一回目とは違う。


「よく来たね」


 中肉中背の眼鏡をかけた男性が笑みを浮かべる。心から歓迎している様子だった。だから怖かった。僕は確かに守られている筈だし、彼らをここから追い払う手段だってあるのに。もしかして、何か打つ手があるのか。あるんだ。


「あらあら、いらっしゃい」


 その配偶者とおぼしき女性が嬉しそうにこちらを見る。機嫌が良い。僕は彼らをここから追い出そうとしているのに。そう、ここは幽霊屋敷だ。僕はここを調べていた。


「お客さんだ!」


 子供の弾む声。姿が上手く見えない。近寄ってくる音だけが迫ってくる。危険を確信した。走り出す。これは僕を助けた神様を恐れていない。


     *


 じっとりとした湿った空気の廊下を歩く。木製の廊下は歩く度にキィキィと鳴って神経を逆撫でした。子供の頃から怖い夢を見る時はいつも館の中で始まった。ここでもさんざん怖いものを見た。だからこそ終わらせなくてはいけない。今度は大丈夫。きっと神様が助けてくれるから。一回目とは違う。違う。一回目どころじゃない。もっとだ。


「よく来たね」


 中肉中背の眼鏡をかけた男性が笑みを浮かべる。心から歓迎している様子だった。だから怖かった。僕は確かに守られている筈だし、彼らをここから追い払う手段だってあるのに。もしかして、何か打つ手があるのか。あるんだ。これが夢の中で、いつも見る怖い夢の舞台がここで、もしもここに居る彼らが――。


「あらあら、いらっしゃい」


 その配偶者とおぼしき女性が嬉しそうにこちらを見る。機嫌が良い。僕は彼らをここから追い出そうとしているのに。そう、ここは幽霊屋敷だ。僕はここを調べていた。いつもそうだ。得体のしれない屋敷のままにしておけなかったから。知らないままにしておけばよかったんだ。


「お客さんだ!」


 子供の弾む声。姿が上手く見えない。近寄ってくる音だけが迫ってくる。危険を確信した。走り出す。これは僕を助けた神様を恐れていない。子供の頃と一緒だ。あの時は蛇女だった。大病をして倒れた時、あの時は黒衣の老婆だった。今は楽しそうな一家が僕を追いかける。


     *


 思い出した。

 思い出したけど、これは参った。夢なんて書き残すべきじゃなかった。

 夢は終わっていない。


 ここで質問だ。君は――僕が夢の話をしている間、何が見えた?

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