第3話 桔梗


私は学校の噂で耳にしたリリーヴァリーというカフェに来ている。


カウンター席に座り目当ての店員さんが近くに来たので目配せをする。



「ご注文お決まりでしょうか」


「花をください!!」


そう、私は今日この店員さんに花をもらいにきたのだ。

なんでも、このカフェ内で悩み事を打ち明けると運が良ければ、自分の心境にあった花言葉の花をポニーテールの店員さんが選んでくれるらしい。


遊園地で自分の魔法の杖を選んでもらえるような、そんな特別感があり気になって来たのだ。




「お花をお求めでしたら、隣がショップスペースになりますので、お帰りの際にゆっくり見て行ってくださいね」


「ちがう! お姉さんが選んでくれるって聞いて」


「あれはお客様全員にできるものではないので、あまり広めないでくださいね」




小さな手の人差し指だけ立てて自分の口元にあて苦笑いする店員さん。

なにか悩み事があるんですか? とすぐに察知される。




「来年、高校を卒業するんですけど、やりたいこと諦めて彼氏と同じ大学に入るか、やりたいこと貫いて遠距離になるか悩んでて。遠距離になったら彼氏の周りにもっといい女の子が現れるんじゃないかって不安で。」



「選択するのは辛いですよね……。少々お待ちください」


そう言ってショップスペースに行く店員さん。

すぐに小走りで包み紙に包まれた花を持ってきた。



「このお花は桔梗です。昔キキョウさんという旦那さんをずっと待っていた方がいて、ようやく帰ってくる旦那さんのために宴の準備をしていたそうです。それを見た旦那さんは奥さんが浮気をしていると勘違いをしてしまい、キキョウさんは身の潔白を証明するために自害したそうです」



「旦那さんもそれを知って後を追ってしまいました。その話が元になってつけられた花言葉は“変わらぬ愛”です。疑っていては二人とも不幸になってしまいます。お二人でもっと話し合って信じてみてはいかがでしょうか」



渡された桔梗を見ると風船のような形の蕾がついていた。


「これから先のことを考えたら四年は短いです。決めるのは貴女ですが、やりたいことを精一杯やるのも彼との思い出をもっと増やすのも、どちらの選択も前向きな選択なら素敵だと思いますよ」




ーーーー


帰り道、風船が風に飛ばされているのを見かけた。


桔梗は英名ではバルーンフラワーというらしい。

蕾が風船のように膨らんでいる様子から名付けられと店員さんに教えられた。



私も風船みたいに飛んでいこうかな。

風船と違って私は必ず持ち主の元へ戻るけど。



選んでもらった特別な魔法の花。

今日から私の好きな花は桔梗になった。




桔梗 “変わらぬ愛”

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リリーヴァリー 〜Flower shop &cafe〜 結麻 @yuma_390

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