第2話 紫陽花


六月上旬。梅雨も近付きじめじめとした暑さが続く。



「また別れたの!?」


「しょうがないじゃん、あいつデートの日一日中無言だったんだもん」


女の子二人のお客様がカウンター近くの席で話していた。

ちょうどその席のドリンクが出来上がり運びに行く。




「お待たせいたしました。レモンスカッシュとアイスティーでございます」


木でできたコースターをテーブルに並べその上にドリンクを置く。

派手目な子は巻いた髪を指にくるくると巻き付け、ショートカットの子はため息を付いていた。


私がその場を離れるとドリンクを口にする二人。



「おいしい! めぐりも飲んでみな」


そう言って派手目な子の前にレモンスカッシュを置くショートカットの子。


「は? 別にいいのに」


と言いながらめぐりと呼ばれた子はストローをじっと眺める。


「レモンスカッシュと悩んでたじゃん、飲みなよ」


「でも」


「いいから! 私ももらうし」


ショートカットの子はアイスティーに手を伸ばし、躊躇いなく一口飲む。


「あっ。わかったよ」


少し頬を赤く染めながらストローにゆっくり口をつける。


「おいし」




「それで? めぐりはもうその人のこと好きじゃないの?」


最初の話に戻され、少しめぐりちゃんが焦っている。


甘酸っぱい。


「もう好きじゃないってば」


「もっとちゃんと好きになれる人と付き合えばいいのに」


顔を真っ赤にして黙り込んで長い髪をいじる。


「うるさいな」


俯いて小声で呟くのだった。



しばらくして二人が席を立とうしていたので急ぐ私。


あの花にしよう。

ショップスペースのほうに行き、素早く花を手に取り包装してカフェスペースに戻り、二人のお会計を行う。




「お客様、本日はご来店ありがとうございました。本日お花のプレゼントのキャンペーンがございまして、お二人が抽選で当たりましたので、ぜひこちらをお待ちいただければ」


「ありがとうございます」


帰宅する二人の手に持たせたのは、青い紫陽花。




. . . . .


紫陽花の花言葉は色が移り変わることから“移り気”と言われている。


めぐりにぴったりの花を店員さんが選んだわけか……。

私ならめぐりを簡単に手放したりしないのに。




. . . . .


家に着き紫陽花を花瓶に生けようと、巻かれた紙を外すと一枚のカードが出てきた。



青い紫陽花の花言葉は

“辛抱強い愛情”


辛抱なんてしてないよ……。

こんなに諦めようと必死なのに。


いくら男の人と付き合っても彼女への愛は消えない。

いつか消えるのかな。





青い紫陽花“辛抱強い愛情”

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