第1話 紫色の藤
「それでさぁ、最初は亜依から好かれてる感じはあったんだけど最近はなんか俺が一方的に好きって感じでさぁ」
小さな紫色の花が浮かんだアイスティーをストローから啜りながら友人の中村に愚痴をこぼす。
「お前は彼女に気持ちちゃんと伝えてのかよ」
中村は色とりどりの花が飾られたケーキをフォークで切りながら俺に言う。
「いや、でもさぁなにかと亜依が欲しいものとかあげてるし言わなくてもわかるだろ。それよりなんでこんな女子が好きそうなカフェに男二人で来なきゃいけないんだよ」
俺はアイスティーに入っていた紫色の花を食べながら、ここに連れてこられた理由を問う。
「まぁまぁ。俺がここ好きなんだからいいだろ。それより亜依ちゃんの誕生日はどうだったんだ?」
先月末の亜依の誕生日ーー。
「誕生日おめでとう亜依。これ、亜依が前欲しがってた服に似てると思って。それに合わせるネックレスも」
「ありがとう! あけていい?」
放課後の教室、二人きりで祝う誕生日。
ロマンチックな場所じゃないけど早く亜依の喜ぶ顔が見たかったから。
頷くと包装袋をあけてワンピースを取り出し自分の前に合わせる亜依。
「……かわいい! ありがとう」
「次のデートの日にでも着て」
喜ぶ亜依を抱きしめて誕生日は当日は終わったが、週末のデートにもそれ以降も亜依がそのワンピースとネックレスを身につけることはなかった。
それとなく理由を聞いてみると、合わせてみたら少し派手だったかな。と答えていたが俺は亜依の趣味に合わせたのになぁーー。
ーーーー
「やっぱりさぁ亜依、俺のこと好きじゃないかな? 最近そういうことよくあるし。どう思う?中村」
誕生日のことを話し終わり中村に意見を求める。
「お客様、本日はご来店ありがとうございます。悩んでいらっしゃるお客様へお花を差し上げております。申し訳ございません。お話少し聞こえてしまって」
と小柄なポニーテールの女性の店員が紙に包まれた薄紫色の花を持ってきた。
「こちらは藤です。失礼を承知で言わせていただきますが、あなたは少し自分の愛に酔いすぎのように思えます。もう少しあなた自身、尽くしすぎるのをやめてお相手の方をよく見てはいかがでしょう」
いきなり現れた店員さんにお説教のようなことを言われ少し腹が立ってしまう。
「尽くすことのなにがいけないんだよ」
「お客様は少し過剰かなと。お誕生日以外でも贈り物をしているようですし、贈り物をして満足している節が見られます。お相手の方が欲しいと言っていたのは本当にその柄、色だったのでしょうか」
「まったく同じではないけど……」
「記憶に自信がないのでしたら、身につけるものはご一緒に見に行くという手段もございます」
「……。」
「贈り物をした分だけ自分にも返してくれないと愛を感じられないなら、お相手側に合わせるといいと思いますよ」
「はい……」
「紫色の藤の花言葉は、“君の愛に酔う”。 恋をするのなら自分の愛でなく“相手の愛”に酔ってくださいね」
それから、と付け足す店員さん。
「藤は長く保たないので花瓶にお猪口一杯分の日本酒を入れると保ちが良くなりますよ」
. . . . .
「あれからあいつ反省して、亜依ちゃんへの贈り物を減らして、買うときは一緒に行ってるみたいっす。そしたら亜依ちゃんも身につけてくれるようになってあいつも満足してまぁ、喧嘩はしてないけど仲直りみたいな」
「そっか、よかった。彼には言い過ぎちゃったかなって私も反省してたからいい報告聞けて安心したよ中村くん」
花の匂いに囲まれたカフェで安心して一息つく小森先輩。
「でも中村くん今日シフト入ってないよ」
間違えて来たの?なんて聞いてくる。
「先輩に会いに!」
「もー! またおばさんをからかって!」
ふんわりとポニーテールを翻し、むくれた小森先輩はカウンターのほうに帰っていった。
紫色の藤 “君の愛に酔う”
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