第13話 人の不幸は禁断の果実

 親切な冒険者Aのジョンこと、俺、神様の真は、女性の愚痴込みのアルノ国の事情にドン引きしているが、傍らにいる天野君とギンちゃんの興奮は最高潮だ。

 彼女に見えない、聞こえないをいいことに大興奮してそれで?を繰り返している。

 いくら冒険者と名乗っていても見ず知らずの他人にここまでぶっちゃけるのは、鬱憤が溜まっていたのかなと可哀想になるが、思ってたのと違う展開にどうしようかと悩む。

 ギンちゃんがコレは侍女が見たってやつじゃんっと野次馬系のサスペンス昼ドラだと妙な分類をしているが気になる。

 恋愛系のゴタゴタは専門外だし、下手に首を突っ込むと変な場所で大爆発しそうで、対処がわからん。唯一わかってるのは、このヤバイ聖霊たちにこれ以上深入りさせたらダメってことだけだ。

 国が滅ぶかもしれないからな…それはマズイ…

 それにしても、この事件ってそんなに単純に決めつけていいのだろうか?

 

 「それが本当だとしたら、貴女は俺に話すべきではなかったと思いますよ?情報は時に金に勝ります。交渉や戦で有利になりますからね。側妃という立場でその口の軽さは国にとっても命とりです」

 彼女の側妃という立場が本当なら、望んで得た立場でなかったとしても、なってしまったからには相応しい対応を求められるものだ。彼女は王太子妃の嫉妬が原因だと言ったが、あくまでもそれは彼女の私見で思い込みかもしれないのに、見ず知らずの他人に王太子妃と側妃が不仲だと悟らせるのはデメリットでしかない。俺が彼女の国の国民なら知りたくないし、そんな奴らが、自分たちの納めた年貢で優雅に暮らしていると思えば腹ただしくなる。

 「そんな!私は命をねらわれたんですよ?私は被害者です!犯人を庇うんですか?」

 「証拠はないですよね?ないのに王太子妃の犯行だと側妃の立場で決めつけ人に話すのは危険だと言ってるんです。貴女は、他より重んじられ、優遇されているはずです。ドレスや食事、侍女や護衛が付けられてましたよね?側妃なら当たり前だというなら、それに見合う行動も求められるんです」

 「だから、子を産んだわ!世継の男子をね!」

 「本当にそれだけでいいのなら貴女の役目は終わりました。子が生まれれば育てるのは乳母でしょう?立場に相応しい言動ができない、理解しないというなら今後の諍いの種になりかねないと、国として判断されたのかもしれませんよ?」

 彼女は俺の言葉に怒りで真っ赤になって言い返してきたが、続けられた言葉が頭に届いたのか、怒りを鎮めるように深く呼吸をすると、睨みつけ憮然とした表情をしながらもそれ以上は反論しなかった。

 「マスター!王太子妃が黒幕だよ!間違いないってギンちゃんの感がそう言ってる!彼女に復讐させないと!」

 右肩に乗った九官鳥が主張するが、ひと睨みしてちょっと黙らせる。

 「王太子妃に貴女だって嫉妬していたのでしょ?だから犯行の黒幕だって決めつけた。王太子と国民からたとえ世継が産めなくても求められている賢女に貴女が唯一勝ったと思えたのが、世継を産んだこと。でも勝ち負けじゃないですよね?もう少し冷静になりましょう?貴女を側妃に選んだのは王太子妃自身なのでしょ?それは、貴女ならその立場に相応しい存在になれると判断されたからなのでは?」

 「…その判断が間違ってたと思ったから消そうとしたのかもしれないじゃない。だって私…そんなの考えた事なかったもの…当たり前に享受してまだ足りないって心の中で文句言ってたから態度にもでてたかも」

 たいした地位も金も無い貴族の娘には、ご立派な教育なんてしてくれないのよと、俯きがちに呟いていたが、自分の何が悪かったのかを理解し振り返ることができるのだから心配は要らないだろう。戻ったら自分から足りないものを貪欲に学ぼうと行動するだろうし、きっと王太子と王太子妃を支える立派な妃となろうと努力するはずだ。

 「変われるかしら?まだ間に合うと思う?」

 「勿論ですよ!学び始める事に遅すぎるなんてことはありませんって!」

 「…ありがとう。頑張ってみるわ!いずれ国を背負う息子にとって恥ずかしくない母親でありたいもの」

 笑顔で宣言するのを俺は満足して聞いていたが、ギンちゃんと天野君は不満気でブーイングだ。

 「オイ!やられたら1000倍返しだろ?!このまま引き下がるなんて嘘だろ?!」

 「ダメだよそれはダメ!これじゃあ全然視聴者は満足してくれないって!名探偵のめの字も出てきてないじゃないかっ」

 「ただ、気をつけて下さいね。貴女が殺されかけたのは事実でしょ?国の中枢なんて腹に一物を持ってる奴ばっかりだ。貴女が死んで、もし王太子妃が黒幕として罪に問われたら得する人物だっているいるはずです。王太子妃や貴女の立場に成り代わりたい人とか王太子妃の実家の権力を削ぎたい人とか、内部がごたついている間に戰を仕掛けようとする外国とか、犯人候補は結構いると思うんですよ?」

 二匹の聖霊と彼女は、ハッとした表情で俺を凝視し一斉に喋りだす。

 「私ったら!そうよね!今、息子の最大の後見人は王太子妃だわ!私の実家なんて全く当てにならないのに、王太子妃が失脚なんてしたら息子も簡単に厄介払いされてしまうわ」

 「あぁぁ!盲点!事件はそんなに単純じゃぁ無いってことかいっ政敵が仕掛けた罠にこのギンちゃん様も引っかかっちまったって事かい!くぅ…犯人は何てズルがしっこいんだ」

 「主!すげえな女の嫉妬を利用した犯罪を企てたってことか?ヤベェじゃん」

 まぁまぁと落ち着かせるように両手を上下させると、ピタッと喋るのをやめて俺を見る。

 「ですから!気を抜いてはいけませんよ!城に戻ったら暗殺されかけたこと、奇跡が起こって命が助かったことをしっかりアピールしてちゃんと事件の調査をしてもらって下さい。そして、生まれ変わったつもりで学び、教えを乞うて見て下さい。きっと味方になったくれる人が現れますよ?味方を一人でも多く作って自分と息子さんを守って下さいね」

 「ええ、王太子妃様にも素直に頼ってみるわ。私のちっぽけなプライドのせいで無駄にしてしまったものが多すぎたって気がついたわ。敵ばかりに感じていたけど、私自身が壁を作っていたのね」

 「たとえ事件が解決しなくても、貴女が幸せに暮らす事が犯人への最大の復讐になるでしょうし、一度表沙汰になれば犯人も次は躊躇するかも知れませんから時間は稼げます。その隙にご自分の地盤をしっかりと固めて下さいね」

 

 「やる事いっぱいね!」

 俺は、元気よく前を向いて進み出す彼女の背を追いながら、それぞれ事件の黒幕は一体誰で目的はなんなのか?と話あっているギンちゃんと天野君のトンチンカンな推理を聞いていた。

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臨時の神さま異世界珍道中 好き勝手にやらせていただきます @asami-ko

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