第14 火竜の咆哮が来る件について
「ね、ねぇ。僕ちょっとお腹が痛くなってきた気がしたなぁーなんて」
僕らが聖女マルタに連れられて来た場所はなんと
大変言いづらい事なのが私的な諸事情によりこのクランとは浅からぬ因縁があったりする。簡単に言えばいささか気まずい関係というやつなのだ。
「えっと大丈夫ですか?」
マルタは心配そうに僕の顔を覗き込む。
彼女の善意を利用するのはほんの少し心苦しいがここはこのまま撤退することにーー
「何をぶつぶつ言っておるのじゃ。妾は腹ペコなのじゃ! ととっと入るがよい!」
「おわっ!?」
撤退しようとしたその時、メアリーに思いっきり蹴飛ばされた。
そして、全くもって入るつもり無かった扉をぶち破り、酒場にダイナミックエントリーするはめになるのだった。
◆
「いてて、くっそ僕のお尻割れてないよね?」
痛みがまだ残る尻をおそるおそるさする。触って気づいた。元々お尻は割れてましたね。それはともかくメアリーは後でぶっとばす。
「あぁん? とんだ命知らずの馬鹿野郎が来たと思えば、かの有名なヒトラ・ブラド様じゃないですか」
地面にうずくまり未だに尻をさすっている僕に影がかかった。
恐る恐る見上げるとそこには見覚えのある
「げっ、キール」
「おいおいご挨拶だなヒトラちゃんよぉ。いい度胸だなおい」
キールは僕の反応を見てか、額に一本の青筋を浮かばせた。相変わらず物凄い威圧感だ。
「キールさんこんにちは!」
「おぅ! マルタちゃんか。迷宮に置き去りにされたと聞いたときはヒヤッとしたが無事でなによりだぜ」
物凄い威圧感なのにマルタは怖じ気づく素振りすら見せない。むしろいい笑顔を浮かべているまである。
マルタと軽い挨拶を終えたキールは再び僕に視線を戻した。
「おめぇには聞きてぇことが山程あんだよ。勇者パーティーを首になったて本当かぁ?」
「くそ、耳ざといな。いちいち突っ掛かって来ないでよ糞ダルい」
「おいおいマジかよ。その反応を見るにマジみてぇだなぁ」
僕の反応を見て噂の真偽が分かったキールは獰猛な笑みを浮かべた。
くそっ。だから嫌だったんだ。このクランの連中に僕が勇者パーティーを首になったと知られれば何を言われるかたまったものではない。
蔑まれ嘲笑されるに決まっている。
「クククッこいつぁ傑作だぁ! あのヒトラ・ブラドが勇者パーティーを抜けただぁ!? おいおいテメーら聞いたよなぁ!!!」
辺りの喧騒が一瞬止んだ。
あぁ、この沈黙が痛い。お腹の底がキュッとしまるような感覚だ。
しかし、この酒場にいる人間の反応は予想と真逆のものだった。
「「「「イヤッタアーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」」」」
「はい?」
「ガハハハ!! やっとあの糞みてぇなところを抜けたか! 遅ぇんだよこのタコ助!!」
「ヒトちゃんヒトちゃん! ってことはうちに来るってことだよねっだよねっ!?」
「おーい、ヒト坊暇ならちょっくらクエスト手伝ってくれねぇか?」
「ヒトラ君ヒトラ君。ちょっと魔術の訓練がしたいんだが実験台になってくれないかい?」
キールの鍛えに鍛え上げられた上腕二頭筋が僕の首に絡み付いた。ちょ、痛いし威圧感半端ない。しかも他連中も次々に肘で小突いてくるんだけど!?
「ちょ、まっ、ふべぇ!?」
「はわわわ!? ヒトラさんが揉みくちゃにされています!」
「おーおー。ここはいつ来ても賑やかじゃなぁ」
「ちょっ、お前ら少しは助けーーぐぇっ」
そして騒々しいにもほどがある歓声は突然ピタリと止み、僕は地面へと放り投げられた。
何故とは思ったが、その理由はすぐに分かった。
「こらこらお前達。ヒトラが揉みくちゃになっているじゃないか」
「スカーレットさん……」
奥のほうから彼女が出て来たからだ。
見覚えがというより、一度見たら忘れることが出来ないような真紅の長髪。それは視界の端にいようがお構いなしに存在感を刻みつけて来るのだ。
彼女こそこの
そして僕の育ての親でもあったりする。
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