第11話 血術使いが更に覚醒する件について



 黒戦鬼バーサーカー

 ジェネラルオークはそうとも呼ばれている。激昂するも肌が夜のように黒一色になり、手がつけられないほど大暴れして破壊の化身となるからだ。

 この種は通常は下位のオークやゴブリン達を指示する立場にある。しかし、怒りが臨界点を越えたその時一変する。戦場を怒り狂い駆け巡る凶戦士バーサーカーになるのだ。

 


「ル オ オ オ ! ! ! !」


 激昂したオークは壁を床を天井を縦横無尽に駆け巡る。あれだけの質量を持つ魔物が高速に迫るのは恐怖でしかない。


「ヒトラ!? 危ないのじゃっ!?」

「えっ……ぐぅぅぅぅ!?」


 オークの突進をもろに喰らった。

 やばい。まずい。ろくに息が出来ない。なんとかパクパクと口を動かすが、肺に空気が上手く入らない。

「大丈夫かのヒトラ!!?」

「な、なんとか……」


 それでも息も絶え絶えだが無理矢理返事をする。くそ、なんて突進力だ。とっさに血術でシールドを張ったのにこのダメージ。流石深層の魔物と言ったところだろうか。


 メアリーと目線が合う。やはり彼女の瞳には焦りが滲み出ていた。そしてはそれは恐らく僕も同じ。

 それを感じ取ったのかメアリーは逡巡する仕草をした後、一歩前に踏み出た。


「妾が時間を稼ぐ! お主はその内に何か考えるがよい!!」

「んな無茶な!?」

「ヒトラよ!! ーー!!」



 メアリーは僕を見てぎこちなく笑うとオークに向かい駆け出した。きっと彼女も怖いのだ。それでもやるしかないと前に進む、そんな笑みだ。

 そしてその瞳は一分の影もないほど僕を信じきっていた。

 裏切られた直後の僕からしたら眩しいぐらいの真っ直ぐさだ。

 僕が尻尾を巻いて逃げたらどうするんですかね、まったく。


 まぁ、でも。でもここまで信頼されたなら答えて上げたい。いや少し違うか。信頼を裏切る自分になりたくなんかない。


「でも……どうすればっ」


 しかし、どうしたものか。八方塞がりなのもまた事実。時間だけが刻一刻と流れていく。


「うぅ……武器さえあれば。武器さえあればまだ戦えるのにっ!」


 焦る僕を見てか、シスターは悔しそうに壊れた大斧を握りしめる。気持ちはありがたいが、その怪我じゃどの道無理だと思うけど。


 ん?

 ふと、グシャグシャに破壊された斧が目に入った。特に刃の部分の損傷が酷く歪みひしゃげている。更に壊れるまで必死に酷使したのか魔物の血がこれでもないかというほどこびりついていた。


 血液がこびりついている? 何の血だ?

 待てよ。このシスター直前まで戦っていた魔物って確か……、

「ねぇシスターさん。この武器に付着した血ってもしかして……?」


「えっと私が倒した魔物です。二体の内一体はなんとか倒せたのですが、そこで武器が……」


 通常、魔物は倒されば魔核を残し消え去る。当然血液やらも消え去るが、今ここの部屋には相当な量の血がばらまかれたままだ。



「じゃあここ辺りに撒き散らされている血ってまさか?」

「えっと私が倒したジェネラルオークのものです」



 ビンゴだ。たかだか一介のシスターがどういう風にジェネラルオークを倒したかは謎だ。

 しかし、この絶望的状況に光明がさしたような感覚が訪れた。

 ここ数日自分以外の血を吸収していてなんとなく感じていた事がある。


 


 人間のものもそうだが魔物も同じだ。ゴブリンとコボルトでは説明しづらいが血中魔素の濃さが違うのだ。

 そして血中魔素が濃ければ濃いほど強靭な血液となる。

 だから、ジェネラルオークの血液を使えばおそらく……。


「シスターさん、あんたお手柄だよ!」

「えっ? えっ?」


 シスターは困惑しているが説明する暇もない。

 急いで血術を発動させる。


「Absorb!!」


 辺りに撒き散らされた血液が淀みなく僕に収束して行く。

 そして解る。今までの血とは格が違う。本能でそう理解した。 

 重く強く、そして熱い。これならやれる。


「えっと……」

「シスターさん下がってて」


 困惑するシスターを押し退け、一歩前に踏み出る。

 形成するは緋色に輝くかいな。 その血は鬼が宿りし深淵なる緋色の血液。


「Crimson gear‼」


 右腕を多い尽くすように形成されたのは緋色の籠手。不格好に大きいだけの悪魔の腕デモンズアームとは違い洗練されたデザイン、体の大きさに見合った大きさ。何より密度が桁外れに高い。


「ルォッ!?」


 メアリーと交戦していたオークが突如震えた。


「あぁ流石だ。こいつのやばさを本能的に感じてるみたいだね」

「はぁ……はぁ……遅いんじゃよ! このバカヤロー!!」


 憎まれ口を叩きつつも、ボロボロになるまで時間を稼いでくれたメアリー。その姿を見ると自然と苦笑が漏れてしまう。


「ごめんよ待たせて。もう大丈夫だから」


 迷わず歩みを進める。

 もはや恐れるものなど何もない。


「来いよ。お前の血も全部!! この僕が全て奪ってやるよっ!!!」

「ル……ル オ オ オ オ !!!!!」 


 怒りのままに振り下ろされた大剣が頬を深めに切り裂いた。今更そんなこと気にしない。そのままがら空きになった土手っ腹に拳を突き刺す。


「ラアアアアアアアアアア!!!!!!!」


 そしてそのまま力のまま叫び拳を天へと突き上げる。足が軋む。それでもお構いなしに上へ、天へ拳を振り抜いた。



 ドパンッッッッッッ!!!!!!!



 一際大きい破裂音が迷宮の中を何度も反響した。

 緋色に輝くかいな黒戦鬼バーサーカーの腹どころか胴体すらもろとも吹き飛ばした。見惚れるほど綺麗な風穴が出来ており、上半身と下半身は皮一枚でしか繋がっていない。



 ともかく黒戦鬼は緋腕の一撃により息絶えた。

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