魔属崩れと蔑まれた血術使い、倫理的に本気を出せなかったけど、追放されたしもう好き放題にする。戻って来いって言われたところでもう遅い。僕の血は僕のもの。そしてお前の血は全部僕のものだ! 全部寄越せ!!!
第10話 ボスモンスターがいるとか聞いてない件について
第10話 ボスモンスターがいるとか聞いてない件について
駆ける。
何故こんなことをしているのか正直自分でも分からない。それでも何もしなければ後悔する。それだけは確実に分かるから必死に駆ける。
「ブモオオ!!」
「ブモ! ブモ! ブモォ!!」
「ブルブモオオオオオオオオオオオ!!!!!」
「クソッ、うじゃうじゃと! circle-edge!!」
ズパンッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!
紅の
やっぱりこれは僕達が起動させたトラップのせいっぽいなぁ。
「おいヒトラよ! あれがそうじゃないかの!!?」
メアリーが指差す先には地面に力なくへたり込むシスターが一人。そしてオークが重厚な大剣を振り下ろそうとしていた。
クソッ! 間に合うか!?
◆
「オッシュ! オッシュ! オッシュ!」
ガシャンッ
信仰深いシスターに振り下ろされたその肉厚の刃は赤鉄の腕により簡単に受け止められた。
「え……?」
シスターは助けが来るなど微塵も思っていたのか、目を見開き困惑している。
だから僕は不敵な笑みを浮かべてこう言ってやるのだ。
「おっといたいけなシスターさんにそりゃ酷いでしょうよ」
「オッ……! オッ……!?」
オークは受け止められたことも当然だが、大剣がピクリとも動かないことに狼狽を隠せないでいた。
ていうかこのオークやたらと重装備だな。全身を漆黒の鎧でガチガチに固めているし、普通オークの標準装備は棍棒だ。そもそも体躯自体が僕の知るそれと比べても二回りや三回り違う。
「てかうぉ!? ジェネラルオークがいんの!? こんな上層階で出ていいモンスターじゃないでしょ!?」
慌てつつも大剣を力一杯に弾き距離を取る。
冷静になれ。そう自分に言い聞かせる。
ジェネラルオークは迷宮の深層で出現するフロアマスターだ。それがこの上層に出現なんて異常にもほどがある。
七層と聞いてどこか舐めていたが、これは気合いを入れ直す必要があるな。
「メアリーちょっとの間だけ持たせられる!?」
「いきなり無茶ぶりじゃな。ま、ええじゃろ。久しぶりに運動するかの」
「任せた!」
メアリーはジェネラルオークを相手にするというのに鼻唄混じりだ。普通、ベテランの冒険者ですら彼らと対峙すれば涙目になる。それなのに早朝の散歩感すらある。
「出よ出よ出よ。闇よりも暗き深淵にのみ存在する我がけんぞくよ。かの者を覆い尽くし数多の光を奪い尽くすがよいーー
紡ぎ詠うような詠唱の果てに、メアリーの体からいくつもの漆黒翼が飛び出していく。漆黒郡はオークに飛びかかり視界を阻害するように鬱陶しく飛び回っている。
取り敢えず任せて良さそうだ。流石年季の入ったロリババァは伊達じゃないね。
その間にシスターの状態を急いで確認せねば。
「おい、アンタ大丈夫か!」
「あぁ、こんな絶望の淵でも救いはあるのですね……我が主よ感謝致します」
「そんなことより怪我はないの!?」
あぁ、もう! これだからシスターは困る。
こんな状況なのに自分の身よりも神とやらへの感謝を述べるんだから度し難い。
「あっはい! 擦り傷程度で深傷はないと思いま……ぐぅっ」
「あ、こら。脇腹の所、結構深いじゃん」
シスターは苦悶の表情を浮かべている。強がったというよりは必死で気づかなかったのだろう。
「応急措置だけどやらないよりましか。activation」
手のひらを傷の上にかざすと仄かに赤く発光した。僕が持つ唯一の応急措置術だ。
「あっ! な、なんだか痛みが引いていきます!?」
「落ち着いて、あくまで気休めだから。激しく動けばまた傷口が開くよ」
そう、あくまで応急措置。細胞を活性化させて傷口を塞いだ程度にすぎない。
シスターははしゃぐような表情から一変、青ざめて口を閉ざした。
「さてと、応急措置も終わったし。そろそろあっちに加勢しないと」
しかし、相手はジェネラルオーク。一筋縄では行かないだろう。以前に敵対した時は五人がかりでなんとか討伐出来た。その時と比べれば僕の血術も強化されているがいけるだろうか。
「いや、やるしかないんだよな」
ここまで来ることを決断したのは他の誰でもない僕自信だ。であればやる以外の選択肢は存在しない。そうは思いつつ気を抜けば不安が吹き出してしまいそうだが別に構わない。大事なのは目をそらさないことなのだ。
「おいヒトラよ! そろそろサボってないでそろそろ此方に加勢せいっ!!」
「分かってるよ!swamp!」
「オ オ オ オ !!?」
突如洪水のように現れた赤き汚泥。
粘りけのあるそれはオーク達の足元に絡み付き動きを阻害する。
攻撃力皆無の絡め手ではあるが有効的でもある。
更にメアリーが視界を封じてくれているのでオークはほぼ身動きがとれなくなる。
「そのまま締め上げられちまいなbind‼」
オークの足元に絡み付いた血沼が徐々に這い上がり全身を覆う。そしてギチギチに体が縮むほど締め上げられた。
「おっ、いけるかの!?」
「ル オ オ オ オ ! ! ! !」
くっ、駄目か。
オークは全身に絡みつく血沼を猛り狂うように引きちぎった。蜘蛛の巣とかじゃないんだからそんな簡単に抜け出さないで欲しいね。
「おいヒトラ! こ奴なんか様子がおかしいんじゃが!?」
「分かってるよ! くそっ早く倒さないと……!」
不味い。オークの肌が次第に黒ずんでいく。
ジェネラルオークの攻略法が速攻で倒す他ないと言われている理由がこれだ。あまり時間をかけている余裕はない。最大火力だ!
「だったら!thousand bloody cross!!」
階層を埋め尽くさんばかりのゴブリン達すら屠った一○○○もの血十字架。
数多の十字架がたった一つの標的に向けられるその時、それは巨大な顎門と化す。
ズアアアアアアアアアアアーーーーーー!!!!!
赤竜の咆哮。そう思わんばかりの破砕音と共にオークは顎門に呑み込まれた。
「やったかの……?」
「ちょっ、それフラグ!」
攻撃の余波で発生した煙が晴れると、やはりオークはそこに立っていた。全く効いていないわけではない。しかし鎧に亀裂や肌を切り裂く程度で致命傷には至らない、
「ル オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ ! ! ! !」
「クソッ、やっぱりそう簡単に倒れてくれないか……」
「しかもこ奴、何とも面妖な雰囲気を纏っておるぞ……」
今までの中で一番大きい咆哮。激昂しているのかオークは我を忘れたように地団駄を踏み始めた。
そして彼の肌は黒く黒く染まり果てていく。それはまるで全てを飲み尽くし離さない深淵の闇夜。
「ル オ オ オ……」
「絶体絶命という表現はこういう時に使うんじゃろうな……」
メアリーの呟きに心から賛同する。相対するオークは機嫌がいいとは口が裂けても言えず、逃がしてもくれそうにない。
そして格好つけてこんなところに来なければ良かったと深く後悔した。
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