【Side勇者パーティー2】憤る勇者パーティー

Side:勇者ジーク


「ギャハハハハ!!!! あの魔属野郎は今頃無様にもくたばってんだろうなぁ!!!」

「ほんとほんと! 消えてくれて清々するわぁ!! そうよねジーク!!!」


 行きつけの酒場の一角で、大口を開けて下品に嗤うグンテルとリーヴァ。一応俺達は勇者パーティーなんだから、もう少し周りに気を使って欲しいところだが。


「ま、アイツがいる利点は雑務系パシリを押しつけられたことぐらいだな。追い出さなくても奴隷として飼ってやるのもありだったかもな! ギャハハハ!!!」

「ほんとほんと! きゃははは!!」


 気分よくエールが並々注がれたジョッキをどんどん空にしていく二人。まぁヒトラが消えてくれて気分がいいのは同じだし、無理に水を指すこともないか。

 何か軽くつまめるものはないかとテーブルを探しているとアリスと目があった。


「お構いなく」


 彼女は同じテーブルに同席しているにもかかわらず、興味無さそうに棒付きの飴菓子を口に頬張ろうとしていた。それその口に入るのか?



「ってあーそういや忘れてたなぁ……」


 アリスの口の収納能力の高さに感嘆していると、グンテルが何か思いだしたように後頭部をかきむしった。


「急になによ?」

「あぁーいやな。最近武器の調子が少しおかしくてよぉ。だから鍛冶屋に見せようと思ってたんだわぁ」

「本当か? 今までそんなことほとんど無かったのに珍しいな。まぁこれを機に武器を新調したらどうだ?」


 せっかく無能ヒトラが消えたという喜ばしい事が起こったのだ。これを機に奮発して武器を新調してもバチは当たらないだろう。


「おお、そりゃナイスアイディだぜジーク!! 流石我らがリーダー! どこぞのごちゃごちゃ煩い根暗野郎とは違うぜ!!」


 そういえば、ヒトラはやたら金の使い道に口煩かった。普通のパーティーならいざ知れず、俺達は勇者パーティーだ。金ならすぐ稼げるというのに本当に煩い奴だった。今思い返すだけでも胃の底がムカムカするような気分になる。



「となりゃあ祝い酒だ! 俺達の新しい武器に乾杯……って、あ? そういやパウルの奴はどぉしただぁ?」


 グンテルが言うようにパウルの姿が見当たらない。酒場に来たときは確かに一緒にいたはずなんだが。

  

「あのチャラ男いつもいつの間にかいなくなるわよね。きっとナンパしてるのよ! そうに決まってるわ!!」


 リーヴァはフンッと鼻を鳴らした。かなり腹を立てているようだが仕方ないか。よくあることなのだ。パウルの女絡みのトラブルはそれなりに多い。そしてその尻拭いをするのはたいてい俺達だ。


「あんなチャラなんて今はどうでもいいだろぉ? おいジーク! お前も酒飲めよぉ!!」

「おいおい酒の飲むの構わないけど潰れるなよ?」


 まぁ、たまにはこういうのもいいか。

 そのままグンテルに渡されたエールを胃に流し込むことにした。



 ◆


「皆さんおつかれちゃ~ん! 俺っちいなくて寂しかった? 寂しかったに決まってるよねうぇーい!!」


 飲みはじめて程よくアルコールが体を巡った頃、パウルが上機嫌で酒場に突入して来た。頬についたキスマークを見るところ、また女遊びをしていたらしい。


「んなわけないでしょクソチャラ男」

「くたばれクソチャラ男」


 パウロはグンテルとリーヴァに邪険にされたところで気にしない。いつも通りヘラヘラ笑うだけだ。


 しかし、そのヘラヘラ笑うだけのパウロから信じられない言葉が飛び出した。


「そいうやヒトちゃん見かけわ。なんかソロで迷宮に潜るっぽいよ? しかもあの大手クラン火竜の咆哮クリムゾン・ロアにも顔出してるみたいだし、やるねぇ~ヒトちゃん」



 は? ヒトラが生きている?

 しかも大手クランに顔出し?

 あの無能が?



「「「はぁ!?!!?」」」


 思わず腹の底からすっとんきょうな叫びが飛び出た。それはグンテルもリーヴァも同じであんぐり口を開けている。


「クソッあいつら高い金払ったのに全く使い物にならねぇなぁ!!」

「ほんとほんと! ヒトラ如きに何返り討ちにされているのかしらね!!」


 リーヴァは信じらんない! とぼやきエールを思いっきり煽る。

 あまり大声で言って欲しくはないが、俺も同じ気持ちではある。

 ヒトラを秘密裏に処分するためにそれなりに高い金を暗殺者に支払った。これでは無駄骨もいいところだ。


 しかも、大手クランの火竜の咆哮クリムゾン・ロアと関わりがあるなんていい気分にはならない。相変わらず西の勇者との繋がりといいコネだけは強い奴だ。それがまた腹立だしいことこの上ない。


「おいジーク!! このままにしてらんねーぞ!!」

「そうよそうよ!! あんな無能生かしたままにしておけないわ!!」

「あ、あぁ。もちろんだが……」


 そうは言うがそう簡単なものではない。もちろん気持ちは二人と俺も同じだ。しかし、今ヒトラに手を出すという事はあの火竜の咆哮クリムゾン・ロアに喧嘩を売る事になりかねない。それは避けたい。


 八方塞がりと首を傾げているとふと床に転がった新聞記事が目に入った。

 新聞の一面には俺達が勇者パーティーと認定されたことがでかでかと印刷されていた。


 ん? 新聞? 

 そうか新聞紙か! この手があったな!



「おいみんな。良いことを思い付いたんだが」


 俺は仲間達に今しがた思い付いた天啓にも等しいアイディアを語りだした。

 楽しみにしていろよヒトラ。目にもの見せてやるよ。

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