第7話 血術使いが少し本気を見せる件について
「ブモオオ!!」
「ブモ! ブモ! ブモォ!!」
「ブルブモオオオオオオオオオオオ!!!!!」
果てしない闇すら飲み込むであろう迷宮の虚。枯れた植物、武骨な岩々が散りばめられた無限に広がる平原。
わりとポピュラーな魔物として世界に慣れ親しんだゴブリンさん達はそこにいた。
冒険者をしていれば誰しも必ずは彼らと遭遇することだろう。
しかし、この数を目の前にした人間は稀有だ。
「一○○○体ぐらいってやり過ぎにも程があるでしょ。このトラップ作った奴は頭おかしいにも程があるね」
ほんとね。物事には限度があるんだよ。子供の妄想じゃないんだから一○○○体とかいう頭のおかしい数はやめて欲しい。
「で、どうするのじゃヒトラ」
メアリーはこの数のゴブリンを見ても怯えることなくケラケラ笑うだけだ。なんだこのロリババァ、他人事だと思いやがりまして。
「君もたまには何かしたらどう?」
「おいおい。お主いたいけなれでぃに重労働をさせるつもりか?」
れでぃも何も自称一五○○歳のババァじゃん。ていうか迷宮入ってどころか昨日から何もしてないじゃん。
「お主何か良からぬことを考えているじゃろ」
「いいえ。滅相もございません」
メアリーはジト目で僕を睨みつけてくる。僕の思考を読まないで欲しいね。
「逃げたいところだけどこの手のトラップは厄介だからなぁ」
「うむ。上への道はおそらくゴブリン達の向こうじゃろうなぁ」
つまりあのゴブリン達を倒さない限り元の道どころか地上にすら戻れないということだ。
迂回してやり過ごしたいところだか、生憎このフロアはゴブリンで埋め尽くされている。
普通であれば絶望的状況だ。諦めてへたりこむ者や自死を選ぶ者も出ることだろう。
しかし、血術使いなら。今の制限のない僕ならやれるはずだ。
たいした確証はない。でも、そういう確信はある。
「ま、やるだけやりますかね。bloody cross!!」
「ギィッ!?」
地面から血の十字架が勢いよく突きだす。そしてゴブリンを数体巻き込んで貫いた。
「ふぅむ。悪くない術じゃがこの数相手には非効率じゃの」
「まだまだこれからだよ。これは準備運動っ!」
いちいち小言がうるさい奴だ。これだからロリババァは困る。
まぁいい。会話を打ち切り意識を目の前に切り替える。集中だ集中しろ。
今のは試運転。先程の術がゴブリンに通じるか試しただけ。
「ブモオオオオオオオオオオオ!!!!!!」
ゴブリン軍は仲間を殺された事に激昂したのか一斉に突撃して来た。
大地は揺れ、木々は押し倒され。地獄にも近いような光景がどんどんと迫り来る。
「見せてみよ。お主の真価」
「うっさいな、言われなくてもしてやるさ。この世の全てを飲み込み、そして穿て。thousand bloody cross!!」
ギギギッ ギギギッ
金属が擦れるような音が一瞬響き、辺りに微妙な雰囲気を漂わせる。
そして、地面を吹き飛ばすように緋色の十字架が突き出た。
一本だけではない。
二、三、一○。
留まることを知らず、次々と増えていく血十字架。増える度にゴブリンの命が潰えていく。その身をゴブリンの血で更に染めあげる。
「まだまだぁ!!」
血十字架の突き出す数は衰えるどころから更に増えていく。
一○○。
二○○。
五○○。
耳を塞ぎたくなるような騒音と共におびただしい数の血十字架が形成される。そして、その度にゴブリンが無慈悲にも貫かれていく。
「おお!! なんたる光景じゃ!! 愉快愉快!! 辺りが緋色に埋め尽くされていくのじゃ!!」
七○○
八○○
九○○。
ついに九九九。
「これでラスト! 一○○○!」
「ギィッ!?」
ついに一○○○本目の誕生と共に、最後のゴブリンが息絶えた。
「ふぅ……やっと終わった。しかし、まぁ我ながらなんつー光景だ」
全てのゴブリンを屠った後、景色は目を疑うほど様変わりしていた。もはや原型すら留めていない。
「おーおー、派手にやったのぅ」
メアリーはこんな光景を目の前にしても、やはり子供のようにはしゃぐだけだ。どんな神経してるのだ、このロリババァ。
岩々に埋め尽くされていた茶色の平原は緋色に。
千の緋色に輝く血十字架。
不毛な平原は緋色に輝く墓地へと様変わりしていた。
「はぁ……流石にちょっと疲れたかな?」
「流石ヒトラじゃな。こいつを倒すのに一分もかかっとらんな」
正確には四○と七秒。
それが一○○○のゴブリンを殲滅するのにかかった時間だった。
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