21話 OKコロッケ!
屋敷に戻ると、私は早速ノーリアに料理を習い始めた。基本的な事は、料理の本に書いてあるし、コンピューターで検索もできるが、実践に勝るものはない。
皮を剥いたり、切ったり、下ごしらえをするのは、実家や王宮の調理場で経験済みなので、要は食材による火の通しかたと味付けだ。
煮物やスープは簡単な物なら専用ポットに、指定された食材(培養肉の塊やカット野菜等)とインスタントの調味料を計量して入れれば完成するので、超簡単だ。
エラナが作る料理はほとんどがこのタイプだった。彼女は週の何日かは街の商家で仕事をしていて、ロボットに主に任せているとはいえ、屋敷の掃除や洗濯まで請け負っているのだから、料理に時間がかけられないのは致し方ないだろう。
ノーリアには、焼き物や炒めものをする際の、火の通し加減や調味料の使い方や入れるタイミング等を中心に習った。
特にたんぱく質は、肉、魚、玉子等(しかも、見せかけだけのバッタものや、培養の混合物もある)によって、微妙に火力の通し加減が違う。
野菜は、自然物であれ、培養物、冷凍物にしろ、多少火の通し方に失敗しても、焦げさえしなければ、硬めかグジュグジュするかの違いくらいで味付けを適当にすれば何とか食べられそうだ。
「調味料や出汁の素はね、分量の調整と使う順番に慣れればどうにかなるから。入れる順番の基本は、砂糖等の甘いもの、酒類、酢、醤油やソース、塩、スパイス系という感じね。
別に順番を間違っても、こまめに味見していれは、そこそこごまかせるし、分量のバランスのほうが大事。まあ、めげずに頑張って慣れていけば、それなりの味付けはできるようになるはずよ。
そこまでこだわらないなら、最初に全部調味料を混ぜといてもいいのよ。
慣れないうちはインスタントを使って、物足りない味を後で加えるとか、薄めに味付けして、各自の好みで食べる時に調味料を追加してもらうほうが、まだましね」
「ノーリアさんは、どうして料理が得意なんですか?」
「別に得意なわけではないけど……。
うちの家族が恐怖の味音痴だったので、若い頃に食堂に勤めた時、徹底的に鍛えられたという感じかな」
夢の国では、食べるだけでなく、作成する過程を自慢気に、投稿している人も探せばたくさんいる。今までは食べること自体にしか興味が無かったが、これからは、作る過程の方にも参加してみることにした。料理を作るのは、とても面倒くさい過程が多いのだが、おいしい物を食べるためには避けられない道だと割りきるしかない。
その後、ノーリアは予定通りに他領の出張に出掛け、今後しばらくは、拙いながらも昼食の作成はゼーリアの代わりに私が作る事になった。
それでも、アデルやスエラン、ゼーリアまでが、目を輝かせて私の作る食事を食べてくれた。
「これ、初めて食べるけど、すごくおいしいね。何ていう料理なの?」
「チキンと一緒に野菜やご飯を炒めて、ケチャップやソースで味付けして、オムレツみたいに玉子でくるんだ料理かな」
ここでは、ご飯物は普通に炊くか、お粥にするか、材料やスープと一緒に炊き込むのが主流で、炒める調理法は少ない。
他の料理もそうだが、夢の国と違うのは、原始的な直火を使うのが主流か、機械で熱を通すのが主流かの料理法の違いが大きそうだ。
この古い屋敷には、直火で料理できる設備もあったので、私は忌諱されがちな直火を使用する料理のほうを良く作るようになった。片付けなどの手間はかかるが、機械的に熱を通すより、美味しく仕上がると思えるし、夢の国で習得した技術も再現しやすいからだ。
それに神殿と違い、ここでは、勝手に干渉力を使っても何も言われないので調理をする時には、私は火と風の干渉力を用いて、火力のコントロールを行っていて、それは徐々に上達していた。
チキンライスは、クリームソースやチーズをかけてドリア風にもできる。また、調味料を駆使して、ドライカレー風の焼き飯を作ることもできるようになった。むしろ、一番難しいのが単純な炒飯だ。
ふっ、これはもしかすると、私は修行を積めば将来料理人にもなれるかもしれない。どこかの店の一画で、興味のある人には時折ダンス教室を開きながら、時間によってはカフェテリアにして、料理を提供する。そして、たまには山や海、湖で新鮮な素材を狩や漁で採ってくる。完璧ではないか!
その、ハッサンとかいう商人が意地悪でなければ出資とかしてくれないかなー。今のうちに事業計画のプレゼンだけでも準備しておこうかな……
どこまでも、脳天気な私はそんなことを考えていた。
その後アデルは、コンピューターで料理を検索しては、「これを作って! 食べてみたい!」
と、私の所に持って来るようになった。
高度過ぎて作れないものや、材料が手に入らないものも多いので無理なものは断る。変わりに、できる限り期待に応えて似たような物も作ってみる。
アデルは、勉強の時以外にも、私にまとわりついてくる時間が多くなってきた。
結局、私が昼や夕食のご飯を主に作り始めたことについては、エラナは何も言わず、むしろ自分の負担が減って嬉しそうだった。それに、私の料理は家計にも優しいらしい。ゼーリアは、余り家計を気にせず、高価な肉を大量買いしてくることがあったという。まあ、高級お肉は小細工をしなくても、単に焼くだけでも美味しいからね。
そしてエラナは、余裕ができた時間には、美味しい焼き菓子等のスイーツや飲み物を提供してくれるようになって、私のお菓子欲も満たされることになった。
お互いに時間がある時は、私はエラナさんから、お菓子作りも学ぶようになっていった。
料理に興味を持った私には、出来れば再現してみたい料理がいくつかあった。ラーメンはその筆頭だが、スープ、麺、その他の具材のどれもが、かなりの難易度といえた。そもそも、培養肉主流のこの世界で、「豚の骨」を手に入れるのは、かなりの難関だ。
逃亡の身でなければ、探すことにさほど困難はないかもしれないが、変な物を探している事がバレると現在の身では困ることが多い。
そんな私の今の密かな野望は、「コロッケ」なるものを再現する事だった。
できたて、揚げたてこそが一番だが、カリっと歯ごたえのある狐色の外側、ホクホクして柔らかい重厚な中のジャガイモ、じわっと染み出てくるひき肉の肉汁……。ああ、思い出すだけで、よだれが出てきそうだ。
夢の国では、さほど高級扱いはされておらず、町中の通りががりの小さな店で揚げたてをたべることもよくあったのだが
材料や手順はさほど複雑ではなさそうで、物さえ手に入れば再現は難しくない、という所が何といっても良い。
そしてある日の夕食時間、私はとうとう再現した。夢の「コロッケ」を!
制作過程としては、手間は多少かかるがそんなに難しくはない。安価なひき肉と玉ねぎを塩、香辛料で炒めた後、茹でて潰したジャガイモとまぜる。楕円形に整形して、小麦粉と玉子もどき液にくぐらせ、古くなったパンの粉をまぶす。
後は、フライヤーにおまかせして、適度に表面をこんがりあげてもらうだけだ。
フライヤーは、温度管理もしてくれるし、後の油も可能な物は、検査して再処理してくれるので、中々便利なのだ。
揚げたてコロッケは、皆にも大好評だった。他にも材料を変えたりと、色々バリエーションがあったようだし、またチャレンジしようかな。
パライソウを探して ~生け贄にされたアースアイの旅~ 薬原 星 @97468
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