第33話 親友と強引さ

 ビンタされた男は立ちすくみ、口をパクパクとさせている。色んな感情がごちゃ混ぜになって、言葉が上手く絞り出せないのだろう。


「反省するまで顔を見せないでください!」

「あ、ちょっ……」


 ぷいっと顔を背け、帰ろうと歩き出す小春こはる。男はそんな彼女の腕を掴むと、強引に引き止めた。

 反射的な行動だったせいで力が入りすぎたらしい。彼女は痛みに一瞬表情を歪めると、「は、離してください!」と抵抗する。

 それでも離れようとしない男を見て、さすがに出番だと察したのだろう。智也ともやは「あの野郎……」と飛び出――――――――――――。


「その手を離しなよ!」

「傷つけたら許さんで!」

「……」コクコク


 ―――――――そうとして思わず足を止めた。

 だって、体育館の扉、反対側の柱の影、不自然に置かれたダンボールの中から夏穂なつほ橙火とうか冬優ふゆゆの3人が姿を現したから。

 彼女たちにももちろん作戦のことは伝えてある。しかし、「男二人に任せて帰るかな」なんてことを言っていたのだ。

 それがまさか、自分たちよりも先にここに来て待機していたとは思いもしなかった。


「おわっ?! ちょ、別に傷つけたりなんて……」

「傷つけたじゃん!」

「言葉も刃にやるんやで」

「……」コクコク


 彼女らによって一瞬の間に取り押さえられた男は、「謝りたかっただけだ!」と抵抗するが、小春本人から「あ、謝られても許しません!」と拒絶されてしまう。

 それから、恐怖から開放された安心感と、みんながいたという驚きで彼女の中の何かが吹っ切れたらしい。

 小春はこちらへと走り出すと、隠れていた智也を引っ張り出し、男に見せつけるようにキスをした。

 そして、驚いている彼を上目遣いで見つめつつ、みんながずっと待ち侘びていた言葉をようやく口にするのであった。


「智くん、私と付き合ってください!」


 必要だった最後の一歩を、気弱な女の子が自ら踏み出したのだ。これを断るなんて男ではない。

 答えはYES。それ以外にないと誰もが確信するような絶対的な告白だった。しかし。


「と、智くん?」

「――――――――」

「智くん?!」

「――――――――」

「……き、気絶してる」


 喜びのあまり立ったまま気を失った彼が出した答えは、沈黙でしか無かったわけだ。

 もちろん、婆さん好みの答えでは無いので正解にはならないが、心配する小春とは対照的に、暁斗あきとたちが微笑ましそうな目で眺めていたことは言うまでもない。


「智也、おめでとう」

「智也もついに彼女持ちかぁ」

「置いていかれた気分になるね」

「……」コクコク


 この告白をきっかけに男が小春のことを諦め、後日改めて智也から告白をし、正式に2人が恋人となったこともまた、言うまでもないことである。

 ==================================


 それから一週間後。


「いや、智也たちのイチャイチャも板に付いてきたね」

「べ、別にイチャイチャはしてねぇだろ」

「してるよ。むしろ、智也の方がデレデレしてる」

「なっ……し、仕方ねぇだろ。好きなんだから」

「嬉しさのあまり気絶するくらいね」

「お前、次それ言ったら殴るって言ったよな?!」

「あー、幸せパンチだ。怖い怖い」

「バカにしやがって……」


 クラスメイトや暁斗からからかわれて怒る素振りは見せるものの、なんだかんだ満更でもなさそうな表情を見せる智也なのであった。


「大切にしなよ、あんないい子はなかなかいないんだから」

「言われなくてもそうする。それに、傷つけたら橙火たちに殺されるからな」

「その前に僕が殺す」

「何でだよ」

「親友の不貞行為は僕が責任を取らせてあげないと」

「怖ぇよ」

「ふふ、冗談。死ぬ気で守りなって意味だから」

「……ああ、当たり前だ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

いつも抱きしめて寝ていたぬいぐるみが、不定期に美少女化するようになった 〜相変わらず抱き枕にさせてもらってます〜 プル・メープル @PURUMEPURU

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ