異能力の使い手でありながら、周囲と比べて圧倒的に劣る実力しか持っていない男子高校生『佐藤零斗』。学園内での評価も『レベル0』と判断されるほどなのに、何故かエリート揃いの『主人公クラス』に振り分けられてしまい――。
68話まで読了しました。
『学園異能ファンタジー』と聞いて思い浮かぶような要素がキッチリ揃っており、軽快な文章とテンポ良く進む展開のおかげで、ライトノベルとしても非常に読みやすい作品でした。
使い道がなさそうな能力を持ち、学校内での評価や順位は最下層なのに、実は隠された使い道やチカラを持っていて――と、ベタな設定で安心感すらあります。
しかし内向的に見えて、たまに切れ味のあるツッコミや一言を返す主人公の零斗を筆頭に、ツンデレ気質なヒロインの紅音、学園に在籍する他の生徒達にもそれぞれの『色』がありました。そんな生徒達だけでは簡単に太刀打ちできない、学園外に存在する『敵』の存在なども、実に王道です。
そしてバトルだけでなく、異能力を活かしたスポーツ行事や、勉強などの学校要素もふんだんに盛り込まれ、爽やかな『青春っぽさ』を感じます。同時に、作者さん自身も登場人物達と一緒になって、伸び伸びと楽しんで書いているのだろうなという印象も受けました。
しかし『長所と短所は表裏一体』と言うように、王道やベタや安心感があるというのは、逆の言い方をすればテンプレだったり個性に乏しいということです。
異世界転生なろう系ファンタジーよりも古い歴史を持つ『学園異能バトルもの』に本作はジャンル分けされますが、過去の名作や数多の他作品と比べ、突出して個性的だったりオリジナリティ溢れる要素が希薄だったのは、非常に惜しかったです。
『おすすめレビュー』とは「他の作品を差し置いてでも、この作品を読んでくれ!」と熱意を込めて書くものだと思いますが……申し訳ないことに今の私の実力では、そういったレビューを書くのは難しいです。
そして何よりも主人公零斗の『異能力』に関して、ストーリーが10万文字を超えても詳細や核心には触れておらず、そのため主人公らしいカッコイイ活躍や印象的なシーンが出てこないのも、作品の個性や面白さを削いでいる印象でした。
主人公の鮮烈な見せ場、仲間達との異能力を活かした連携、襲いかかる敵組織の恐ろしさや脅威――それらの要素を今以上にハッキリ描写していれば、奇をてらわないベタな内容だとしても、充分に読者達へ『面白さ』を提示できたと思います。
『作者が自由に楽しく書こうと、誰も文句を付けることはできない』……というのがWeb小説の魅力や醍醐味の一つではあります。しかし多くのユーザーに作品を読んでもらい、楽しさを共有したり評価を得たいのであれば、読者目線に立った改良や工夫を続けていくのが重要だと思いました。
とはいえ『学園編』を終えた『新章』では(これも作品の方向性として、学園モノですら無くなりそうだけど良いの……?とは感じますが)、なかなかにインパクトのある展開が待ち受けています。
『正義と悪』、『主人公と主人公以外』という深いテーマが見えてきて、作者さんの本当に伝えたいことや書きたいものが出てきそうでワクワクします。ここからが本番といった感じで、他作品にはない強烈な個性や魅力を、存分に発揮してほしいと思います。