第58話 白雪姫とかき氷
穏やかなBGMが流れる広めな店内。奥側の席を位置取った晴人と由紀那の二人はテーブルを挟んで向き合うような形で布地の固めのソファに座っていた。二人が覗き込むのは無装飾ながらも重厚な手触りに寄せた装丁のメニューブック。ネットやSNSなどに掲載されている写真と出てきた料理のサイズが良い意味で違うコメダなコーヒーの超有名チェーン喫茶店である。
夕方だからか、仕事帰りのサラリーマンや数人で談笑する貴婦人、学校帰りの学生などがちらほらといる。制服姿での入店だったのでもし白雪姫を知っている生徒に目撃されたりしたらと緊張と不安で気が気でなかった晴人だったが、どうやら店内にいるのは他の高校の生徒のようで一安心だ。加えて一番奥側の座席に案内してもらったので、後日高校で噂になるような心配もないだろう。
リスクヘッジは万全、と晴人がメニューブックをぱらぱらと
「はるくんはここに何回か来た時あるの?」
「小さい頃に家族と一緒に何回か、な。ここ数年は来てないから、だいぶ久しぶりだ」
「……そう」
表情が乏しくも、何故か瞳の奥に何か言いたげな感情を灯していた由紀那。ここ最近は一緒にいる機会が多いということもあり自然に言葉を交わす頻度も増えていったのだが、こんな彼女の様子は珍しい。
おや、と不思議に思うも晴人はそれに構わず言葉を続ける。
「由紀那は?」
「実は初めて来たわ」
「へー、そうなのか」
「お店の名前は知っていたわ。メニューに掲載されているお料理の写真と比較して提供される料理のサイズが大きいという噂だったから気にはなっていたのだけれど、お家が洋食屋を経営してるからなんとなく足を運びにくくて」
「なんか意外だな。由紀那一人ならともかく、奈津美さんならニコニコしながら『敵情視察に行くわよー!』とか言って連れて行きそうな気もするけど」
「意外と嫉妬深いのよね、ママ」
確かに飲食店の経営という観点から見れば競合相手。勿論忙しいというのもあるのだろうが、喫茶店を営む奈津美にもプライドがあるゆえ足を運ばなかったのだろう。尚更互いに洋食をメインに提供するともなればそう簡単には迎合しにくい筈だ。
遠い目をしながらそう呟く由紀那になるほど、と晴人は頷く。
由紀那は店員さんが持ってきてくれたお冷やを手に取ると口に含む。頬を緩めながらコクコクと美味しそうに冷たい水を味わっている辺り、由紀那も喉が渇いていたのだろう。冷房が効いているおかげで入店時から心地良い涼しさだったからか、すっかり晴人は喉が渇いていたことを忘れていた。彼女に続いて水を飲むとホッと一息ついた。
「さて、何を注文しようかしら。はるくんはかき氷よね?」
「ああ。かき氷のメニューは、っと…………おお、いちご、ブルーハワイ、宇治抹茶、レモン、トロピカルの計五種類のかき氷があるんだな」
「ソフトクリームと練乳もトッピングで選べる上、サイズも通常サイズとミニサイズがあるのね。小さい子が注文しやすいのは勿論、仕事帰りや部活の後に小腹を満たしたいというお客様へのニーズも叶えやすい。なるほど、流石は有名喫茶チェーン店ね。サービスと配慮が行き届いているわ」
メニュー表を見つめる由紀那は無表情ながらも静かに、熱心に分析を行う。メニューの種類が豊富だし価格もお手頃ときた。まぁチェーン店の専売特許と言えばそれまでだが、お客様視点で見てるだけでも楽しいというのは経営戦略的には成功なのではなかろうか。
思案しながらメニュー表と睨めっこしていた晴人だったが、漸く口を開く。
「うーん、悩ましいけど俺はいちごのかき氷にしようかな。通常サイズの全部のせで」
「チャレンジャーね。ここのメニューは普通の大きさでもサイズが大きいと有名なのに」
「かき氷を注文するのは初めてだけど……まぁ多分大丈夫じゃないか? 精々バレーボールくらいの大きさだと思うぞ」
「そうだと良いのだけれど……」
そんな言葉とともに、心配の色を瞳に浮かべこちらを覗き込んでくる由紀那。相変わらず端正で綺麗な顔だ。若干こそばゆいが、そんな上擦った気持ちを悟られないように晴人は目の前に座る彼女にすぐさま声を掛けた。
「ゆ、由紀那は注文どうするんだ?」
「そうね……私はシロノワールのミニサイズにしようかしら。ここに来たら定番のこのメニューを食べたいと思っていたの」
「そっか。でもミニサイズで良いのか? 普通サイズの方が食べ応えあると思うけど……?」
「家に帰ったら夕食を食べなきゃいけないからこのくらいが丁度良いのよ。それに……」
「ん?」
顔をやや赤くしながらそわそわする由紀那の様子に思わず晴人は首を傾げる。なぜか羞恥らしき感情を覗かせる彼女に疑問を抱いていると、次のように言葉を続けた。
「———もしはるくんが食べ切ることが出来なかったら、食べてあげようと思って」
「そ、そっか。じゃあその時は頼らせて貰おうかな」
「ええ、任せて」
そのやりとりのおかげで晴人は何故由紀那が顔を紅潮させたのか得心がいく。
まぁつまり、だ。このかき氷がほぼ氷とシロップで出来ていると云えど、量が多くて食べきれない可能性がある。由紀那はそれを見越して自分の注文を抑え、もし晴人が全部食べきれなかったら代わりに食べてあげようと考えたのだろう。
それが晴人の食べかけだったとしても。
水面が波打つが如く戸惑いと羞恥、そして無視出来ない小さな喜びの感情が波紋となってじわりと広がっていく。晴人はそんな内面を悟られないように声を紡いだ。
「そ、それじゃあ注文するぞ。由紀那は他は飲み物とかどうする?」
「わ、私はこの長靴の形をしたクリームソーダにするわ。中々ユニークで面白いわね」
「確かに。じゃあ呼び出しボタン押すぞー」
呼び出しボタンを押して小さく赤色に点灯。しばらくすると白地のポロシャツ黒いエプロンをした清潔感のある女性店員がやってきた。晴人は由紀那と自分の注文分、そして飲み物を頼んでいなかったと思い追加でアイスコーヒー(甘味抜き)を注文する。かき氷の通常サイズを女性店員に伝えると「ミニサイズもありますが本当によろしかったですか……?」と笑顔の中に困惑げな感情が見え隠れしていたが、晴人はそのまま肯定。
女性店員が去り際で「チャレンジャーだ……」とぼそっと呟いていたが、そんなに大きいのだろうか?
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お久しぶりです、惚丸テサラです!!
X(旧Twitter)でもご挨拶させていただきましたが、改めて。
明けましておめでとうございます!!
今年もよろしくお願いします!!
前編です!!
これからも執筆頑張るぞい!!
実は人見知りで可愛げのあるクール美少女な【白雪姫】といつの間に焦れ甘高校生活を送ることになった件について。 惚丸テサラ @potesara55
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