貴方が死ぬ前に僕の気持ちを伝えたい

ハーモニカ吹きの詩人

馴れ初め

日曜日のある晴れた日

さんさんと太陽が照りつけており、夏休みまであと1ヶ月と迫ったところで大学のレポートが終わらず単位を貰えるかの瀬戸際にいるのがこの私、板垣優斗である。


私は大学2年生でアルバイトで学費を稼ぎ親からの仕送りで生活して大学に通っているごく普通の青年だ。


難しい言葉や礼儀正しい振る舞いをして社会人としての意識を固めようと奮起しているが、動作はぎこちなくていつも変な目で見られる。そんな平凡な学生である。


「ああ!大学に提出するためのレポートがあるのに終わらない!!このあとバイトもあるのに!!」


今日はかなり切迫した状況で

月曜の朝10時までに提出しないと単位が貰えないという大変な状況なのである。

忙しかったり、変に緊張していると途端に落ち着きがなくなってしまう。これじゃ、ただの青二才だと思われても仕方ない....。しっかりせねばと自分を鼓舞して、私は一旦レポートを中断してバイト先のカフェに向かった。


「遅せぇぞー優斗。うちは個人店だから多少の遅刻は見逃してやるが社会人になったら10分前集合が当たり前だぞ。」


抜けたような声で優斗に話しかけているのはバイト先のカフェの店長。白髪で茶色に焼けた肌をしており筋肉質な体をしている。男っぽいカクカクした顔の割には笑った時の表情がクシャッとしてて愛嬌がある。

なんでも、このカフェを開く前はエリート企業ですごい業績を上げていたのだかなんだか。私はこの店長の事を心の中でイケおじと呼んでいる。


「店長すいません。遅れました。遅れた分はしっかり残業して働きます。閉店後の戸締りも自分がやらせていただきます。」


私はいつにもなく真面目な口調で大人っぽく言葉を発した。


「それはそれで良いんだが、おまえ、またか。その変な口調はどうにかならねぇのか?別にそんな生真面目にならなくてもよ、それ聞いてると逆にこっちがやりずれぇよ。」


イケおじが遅れたことについて、特段怒っていないとはわかっていても人と接す時にたまにこんな口調で話してしまう。


自分の人に良く見られたい欲が知的な大人に見られたいという欲として顕在化してしまうのだ。だから、変な目で見られてしまうことも時たまある。

だが、そうこう言っても人の口癖は直すのが難しいから、知的な大人に見られるようなそれ相応の実力をつけなければと、自分に言い聞かせ出勤時間を分厚いファイルノートに書き込む。


このカフェは街の少し外れにある小さな個人店で席も15席しかない、小規模なものであって外観も綺麗とは言えず所々に染みやヒビが入っている築50年は経っているであろう木造建築の建物だ。

オマケに看板も出ていないし古い木材のドアに店名を書いた小さい板を吊るしてあるだけだ。なんでも、イケおじがエリート会社員の生活に疲れて脱会社員を図って始めたものらしい。

見方を変えれば風情があるから好きな人は好きになるかもなというのが私の個人的な感想だ。


「優斗。今日は日曜なのになんでこんなに客の入りが少ねぇんだ??普通なら日曜は大抵の人が休日でみんな外に出かけるから客が来てもおかしくねぇんだが...」


イケおじは決まった答えを返してほしそうな口調で私に質問する。


「店長....それはこんな町外れにあるカフェで人通りも少なくて建物はボロいし、ろくに看板も立ててないところに人なんて来ないからですよ....普通に考えたら集客に向かない立地や条件だって事は分かるでしょう...」


イケおじは、その答え待ってましたと言わんばかりに口角があがり大きく口を開く。


「ガハハハハ!!頭冴えてるなぁ!!よく分かってるじゃねぇか!やっぱりお前を雇って正解だった!だがな?オレは、この環境が好きなんだ!なんでもな.....」


また始まった....よく分からないイケおじ哲学とウンチク話が....

はぁ。いつも思う。誰がどう見てもイケおじでモテるのに、笑い方とか口調が残念になる時がある....。喋らなければ絶対モテるのに...。はぁ。


そんなこんなで、着替えを済ませて皿洗いをしたり店内の清掃をしていたら一人の女性が入ってきて席に座り込んだ。女性にしては身長が結構高く170cmはあるんじゃないかと推測できる。うちの大学にはまず居ない。滅多に人が来ないのに珍しいなと思いながら注文を聞きに行った。


「このハーブティー...と...ケーキのセットを下さい...」


何だか、弱々しい声でボソボソと喋っておりすごく具合が悪そうだった。


「分かりました。今すぐお作りします。ですが、何か体調が優れないように見えるのですが大丈夫ですか?良かったらうち、2階にソファ席があるのでそちらの方にご案内も出来ますが。」


そう言うと女性はこくりと頷き、私はソファ席に案内した。


ハーブティーセットを提供したあと影から様子見をしていた。


なんだか、フォークを扱う手も弱々しく、覇気がない。今にも倒れてしまうのではないかと心配して内心ヒヤヒヤしていた。


それに、頭に帽子???というか円柱状の変な布を被っている。ニット帽を円柱の形にしたような....。深く被っていて顔がよく見えないし、夏が近いというのに厚着な格好をしており体型もよく分からない。汗をかいて脱水症にならないかなと心配だった。


心配になりながらも業務に戻らなきゃと思い1階に向かおうと階段を1段跨いだ瞬間、パリーン!という音が人気のないカフェの中で響いた。


すぐに駆け寄る。


「大丈夫ですか??やっぱり、体調が悪いなら少し横になるか楽になる姿勢をした方が....」


「いえ...そんな事よりカップを割ってしまったので弁償します....」


「いいですよそんな。掃除しておきますのでちょっと休んでください。」


そう言うと彼女は体に纏っていた厚着を脱ぎはじめ、円柱型のニット帽も浅く被った。


私は軽装になった彼女の姿を見て心拍数が上がった。


なんせ、ものすごくスタイルが良い。胸も大きくて腰も締まっており脚も太ももの間が空いておりスラッとした美脚だった。モデルみたいな体型だなと思いちょっとエッチな妄想までしてしまった。


オマケに顔も美人だ....面長な顔で鼻筋はピンと張っているが小さく細く纏まっている。目も大きい。ミスコンなんかに出たら間違いなく優勝するレベルで見た目が良い。


こんな女性がなぜ町外れにあるへんぴなカフェに来ているのか謎であった。もっと大都会の華やかな所に居ても何ら不思議はなさそうなのに。夏なのにかなりの厚着であるし。


それでも、いつかこんな女性と付き合ってみたいなぁと思いながら掃除が一段落して水を持ってこようと下の階に行こうとした時、彼女の方から声をかけられた。

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貴方が死ぬ前に僕の気持ちを伝えたい ハーモニカ吹きの詩人 @mirumirurunrun

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