第67話 世界を守るヒーローたち

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「クリム。まさか、復活したのね」


 遠くの方から、イヴの声が聞こえた。エストの方を見ると、突如聞こえたレッドの声に怯えている。そしてその隣にはガタイのいい男が、さっきまでいなかったよな。もしかして、ポータルから召喚されたのか。いや、もしくは……彼がクリムなのか。


 そういえば少し前にエストから聞いたな。クリム、トート、リーゼ、彼らはレッドによって作られた架空の人物。しかしレッドの計画に疑問を持ち、裏切ろうとしたがバレてしまい失敗。計画の遂行と共に1人ずつ消されていったらしい。


「ああ、俺たちはお前に作られた人形じゃねぇ。少なくとも、今のお前は孤独だ」


「ふふ、何も分かってないようね。私にはアダムがいる。だから、孤独なんかじゃないわ」


 クリムとイヴ……いや、ここではレッドと呼称しておこう。クリムとレッドは対話を続けている、距離があろうとも関係ない。


「お前は昔言ってたよな、エストの力で世界を滅亡させると。そのためには手段を選ばないとも。しかしな、エストはお前とは違う。こうやって、創造魔法で俺たちのことをまた作り出してくれた。創造は、滅亡の対極にあるだろう」


 そうか、クリムたちはエストの創造魔法によって復活したのか。創造魔法は何でも作り出せる、しかし普通の人は創造魔法を使うことすらできない。それでも、エストはやってみせたんだな。


「そうね、貴方たちはエストくんの仲間役だった。親友を失い、故郷も失った彼を支えるためだけのキャラクターに過ぎなかった。でも、間違えちゃったみたい。貴方たちは優秀すぎる、だから裏切った」


「だから、ミライを作ったんだろう。自我を持たない傀儡を作るために、罪のない少女を誘拐した」


「ええ、ミライは優秀だった。裏切ることもなければ、ただ命令に従うだけ、素晴らしかったよ。さて、久々に会えたことだし、伝えたかったことを伝えるね」


 超巨大なマネキンと化したレッドは、妙に落ち着いている。そりゃそうか、奴は人間の姿を捨てたんだ。クリムはエストを庇いながら、ゆっくりと前に出る。


「教えろ、全てを」


「急かさなくたって話すよ、エストくんとも約束したからね。『次会う時に、全てを説明するよ』って。どこから話そうかな、まず、私は破滅のアダムとイヴのイヴ。破滅の神・ゴッデルリックの意志のままに、ただ生命の破滅を願う神の子、貴方たちと大して変わらないよ」


 破滅のアダムとイヴ、そして破滅の神・ゴッデルリック。前者はまだしも……何だよ、ゴッデルリックって。聞いたことない、それは何かの神話に登場する神なのか。しかしひとつだけ分かることがある。俺たちの知ってるアダムとイヴが生命の連なりを願う神の子なら、奴らは生命の破滅を願う。俺たちの対極に位置する存在ということだ。


「貴方たちは生命を連ねていった。しかし、私たちは違う。ずっと同じ生命体として生き長らえてきた、体は滅びても意志はそのままに。私とアダムは、3つの世界で暮らしていたの。もちろん、世界を破滅へと導くためにね。何千年前か忘れたけど、かなり前の私が時の石を見つけた。石に触れた時、あるメッセージが脳内に伝わってきたの。『3つの石を集め、世界を作り変える』と。この時知ったわ、時の石を通じて未来が見えていることに」


 奴らは真逆の存在、俺たちのように生命が増えることはない。ずっと2人で、体は違っても意志はそのままに生き長らえてきた。そして3つの石を集めれば、世界を作り変えることができるようだ。これで奴らは世界を滅ぼすつもりなのか。


「そして最近、まあ最近といっても皆にとっては数百年に値するか。時の石を通じて『Sランクと鑑定された少年・エストが世界を滅ぼす』という未来が見えた。その時の情景も見えた。これは予言じゃない、必ず起こりうる未来。だから私はエストという少年を探して、世界を破滅させるための計画を遂行した。ランク鑑定を行ってる世界なんて限られているしね」


 エストという少年はどの世界にもいるかもしれないが、そもそもランク鑑定の制度を扱っている国や世界は数少ない。この国もそうだし、スカイのいた世界にも鑑定制度は無かった。奴は国と世界を絞って、確実にエストを狙ったのだ。そしてエストに世界を破滅させる力を渡した、と。


「彼は必ず世界を滅亡させる、その気が無くてもね。私たち、破滅のアダムとイヴは、世界を滅亡させる少年と共に世界を必ず破壊する。全ては、破滅の神・ゴッデルリックとエストの意志のままに」


 エストが世界を滅ぼす、そんなことがあっていいはずがない。彼は世界を救うために戦ってきた、きっとこれからもそうだ。レッドに反論するかのように、エストも声を上げる。


「……僕は、世界を守ります。そして、レッドさんを倒します」


「そんなこと言ってられるのも今だけよ。ねえ、アダム。貴方は特殊よね、中の人を乗っ取らずに自我を形成している。よっぽど恨みがあるのかしらね」


「ああ。彼の名は篠原、力の石が源の戦士を恨んでいるそうだ。この方が都合がいい」


 イヴは元いた人格を消して世界を渡り歩いていたのに対し、アダムは元いた篠原の人格を残したままアダムとして生きている。篠原の、世界への恨みをそのまま力に活かしているということか。競技場で臣に言われたこととマッチしている。


「イヴは完全に復活した。さて、往くとしよう」


 アダムの声とともに、数万ものモンスターが拳を構え始めた。始まるんだな、最後の戦いが。奴らの動きに合わせるかのように、こちら側も武器を構える。銃を構える者もいれば、槍を構える者もいる。スカイは人語を話す赤いドラゴンにまたがり、背中に差していた剣を取り出した。


 エストはクリムと呼ばれる男たちと共に、各々武器を構える。ソルトは屋上に駆け上がってきたケロベロスの上に乗り、ナイフを構える。空を舞っているドラゴンらは今にも突撃しそうなくらい、雄叫びを発している。そして、日暮や国連など世界各地から派遣された戦闘機軍団は、ドラゴンを避けながらも隊列を組んでいる。


 下には何百、いや何千もの軍隊が武器を持ち、襲来に備えて構えている。今から始まる戦いは、最後の戦いだ。勝てば世界が救われ、負ければ世界が滅びる。勝ち負けも単純だ、どちらか全滅した方の負け。力の石が奪われなければ、なんでもいい。


「星田、やるぞ」


「ああ、行こう」


 俺とショウは戦いに向けて準備をする。ナイフを取り出し、銃を装填、そして剣を持つ。準備といっても10秒もかからない。ただ気持ちを落ち着かせるだけの時間。深呼吸を1回だけした後、俺とショウは本部の前線に立つ。




「これより、スサノオ作戦の最終段階に移行する」




 俺はゆっくりと剣を構えて、静かに声を発する。




「……往くぞ、世界を守るヒーローたちよ」




 ウオオオオオオオオオオオ!!!


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破滅のアダムとイヴ 〜魔法使いと記憶喪失とヒーローと〜 新進真【特撮大好き】 @shinshinmakoto

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