第66話 感動の再会
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「世界を救いたければ、世界を救いたいと心から願え!」
気づいた時には、僕は本部の屋上に立っていた。さっきまで戦場にいたはずなのに、ワープ魔法も使ってないはずなのに。でも言葉では言い表せないようなゾワゾワが、耳の奥に残っている。何というか、時の石で別の世界に飛ばされた時のような感覚がしている。レッドさんが、何かしたのかも。
不安になりながらも上を向いてみると、突然。天に緑色に光る渦が大量のモンスターを召喚していった。レッドさんの創造魔法かと思い剣を構えようとしたが、手が動かなかった。怖いんじゃない、というよりかはモンスターが敵に見えなかった。僕たちに憎しみの感情を抱いていない、そんな気がした。
「これは、どうなっているんだ」
そばにいたソルトは、辺りを見渡しながら驚いている。やがてたくさんの渦が、空に生成されていく。そしてそこからは、モンスターや兵士が次々に召喚されていった。これは間違いない、時の石を使った時にできる渦だ。でも、これをやっているのはレッドさんじゃない。僕らの味方だ。
「モンスター、本部近くから多数出現……えっ、まさか、ゴーレムか!」
ロックさんは飛び跳ねながら、ゴーレムに抱きついた。冷静沈着なロックさんがこんなにもはしゃいでいるってことは、というかゴーレムって、もしかしてあのゴーレムなのかも。
ゴーレムは僕を見て、軽く手を振ってきた。やっぱり、彼はスカイさんの世界にいたゴーレムだ。ロックさんがこんなに喜んでいるのも分かる、だって久しぶりの再会なのだから。となると、あの緑色に光る渦は、別の世界から召喚していることになる。宙を舞っているドラゴンも、スカイさんの世界にいた気がする。
「下を見ろ、援軍が来たぞ!」
ソルトと共に屋上から覗くと、そこには大量の兵士が召喚されていくのが見えた。あの旗は、間違いない。ランセル王国の平和を讃える旗だ、王の城に飾ってあるのを思い出した。あの怪物が懐いているのを見るに、本当にそうなんだろう。
ソルトも僕も、それを見て少し安堵した。誰かが時の石を使って、全世界から援軍を呼び集めた。その結果、スカイさんの世界からはモンスターが、僕らの世界からは大量の兵士が召喚された。世界を救いたいと願ったから呼ばれた、つまり、みんな世界を救いたいってことだ、当たり前のことだけど。
でもまだ、何かが物足りないと感じてしまった。こんなに大量の兵士がレッドさんたちを倒すために集まったというのに。多分、あの兵士はランセル王国だけじゃない、他の国の兵士も集まってきている。ランセル王国と戦争状態にある国だっているはず、あまり詳しくないけど。それくらい、世界全体が団結しているんだ。それなのに、物足りない。
「エスト、アレを試してみないか?」
ソルトは僕にある提案をしてきた。アレってなんだ。彼は僕の腰に差していたナイフを取り、それを僕の目の前で掲げた。
「これは誰から貰ったんだ?」
「……クリムさん」
そうだ、このナイフはクリムさんから貰ったもの。国王を襲う作戦の前日くらいに、万が一のためと貰った。短めで切れ味はバツグンそうだけど、まだちゃんとは使ってない。何故なら、これはクリムさんの形見だから。
クリムさんはレッドさんに創造魔法で作られた架空の存在、僕を騙す計画が終わったからという理由で消されてしまった。リーゼさんもトートさんも、レッドさんに作られた。でも彼らはレッドさんを裏切ろうとした、レッドさんに作られた存在なのに、世界滅亡は許せなかったのか、主を裏切ろうして最終的に殺された。
「だったら……創造魔法で3人を作ればいいだろ」
ソルトの提案はとても大胆で、無謀なものだった。無茶だ、僕にそんなことはできない。レッドさんは強大な魔力を持っているから、3人の架空の人物を生み出すという無茶ができた。誘拐した少女をミライという架空の兵士に被せたのも、レッドさんだから。
「やってみなきゃ分からないだろう。それに、お前はSランクだ。ただの魔法使いじゃない」
「……それによ、お前らは最高なんだよ」
背後から声がしたため振り向くと、そこには山岡さんと目黒さんが立っていた。彼らは僕にSの本当の意味を教えてくれた存在だ。この世界ではAランクの上にSランクというものがあるらしい、だからSは最高だと言われた。
「それに、独りじゃなければ最高を超えて最強ですよ。僕の知り合いがそう言ってました」
彼らはずっと僕のことを励ましてくれる。独りじゃなければ最強、その言葉に僕は強く心を打たれた。そして同時に、ある可能性にも気づいた。
「独りじゃなくて、2人でやってみよう。爆発魔法と同じように」
ついさっき、獣のように暴れ狂う雑という化け物を倒した。それも爆発魔法という、レッドさんから教えられてない魔法で。体力を激しく消耗する爆発魔法を、さっきは僕とソルトで使った。大切な仲間を守るイメージで、そして普通なら1人で使う魔法を2人で使ってみると、何故だか上手くいった。
「ああ、分かった。エスト、俺とお前ならできる」
僕の手に重ねて、ソルトもナイフに触れる。そしてそれを天に掲げて、強く願う。魔法は強く願えば願うほど、効果がある。だから僕は彼らを創造するために、彼らのことを強く深く求める。
頼りっぱなしになるんじゃない、あの頃みたいに誰かに強く依存するわけでも、弱音を吐くわけでもない。僕はSランクの勇者、エストだ。今ここで、世界を救い出す。父さんにも母さんにも、この姿を見せたかった。そのくらいには、無力じゃない。
僕は、いや僕らは……最高で、最強だ。
「今だ!」
《創造魔法》
「久しぶりだな、エスト」
「元気にしてた?」
「……やっと会えて……とても……嬉しいです」
掛け声と共に、僕たちの背後に白く光る渦が3つ出現した。そしてそこからは、あの時の3人が現れた。リーゼさんに、トートさんに、クリムさんも。
みんな、僕たちの創造魔法で帰ってきた。元はと言えば創造魔法で作られた存在、だから死んだわけじゃなかった。これは僕たちの手で彼らを作り直しただけ。3人とも元気そうで、とても勇ましい目をしている。
「ソルトと言ったか、お前も中々に凄かったぞ」
「……恐縮です」
「改まるな。昨日の敵は今日の友、共に世界を救おう……エスト、立派になったな」
クリムさんの言葉を聞いた瞬間、バッと涙が溢れた。それを見たクリムさんは何も言わずに、背中をさすってきた。トートさんとリーゼさんはそれを見て、微かに微笑んでいる。
「さてと、俺の大剣はあるか?」
「あんたがクリムさんか、一目見たかったぜ」
そこにはガイアさんが、クリムさんの大剣を持ちながらニヤリと笑っていた。身長も体格も同じくらい、いや少しだけクリムさんの方が高いか。大剣は僕には重くて扱えなかった、だから体格が近いガイアさんに預けていたんだっけ。
「おお、エストの保護者か?」
「そこまではいかないな。俺はガイア、この大剣の持ち主はさぞ凄いんだろうと楽しみにしていただけだ」
2人は持ち前の筋肉を比べ合って、喜んでいる。そういえば初めてスカイさんの世界に行った時、僕はガイアさんをクリムさんと間違えたはず。その時はクリムさんを失ってすぐだったから混乱していたのもあるけど、今思えばちょっと恥ずかしいな。
「……エスト……復活させてくれて……ありがとう……おかげで……レッドを……確実に殺……いてっ」
「今は感動の再会を喜ぼうよ! レッドなんて知らない、今はどうでもいい。チームの再結成だよ!」
トートさんはたどたどしく話すリーゼさんを容赦なく叩いた。チームの再結成、こんなに嬉しいことはない。あの時は王から石を奪還するために戦っていた、でも今は違う、力の石を護り続ける。そしてレッドさんを、世界の滅亡を阻止するために戦う。
「もちろん、君もチームの一員だよ!」
「えっ、俺も?」
「うん! 君とエストの創造魔法のおかげで復活できたんだから! そうね、チーム名とか決めちゃおうか! ランセル王国だし、石を巡った戦いだし!」
トートさんはあの時と変わらず、ハキハキワクワクとしている。そして、チームの一員と告げられたソルトはとても驚いている。そりゃそうか、当時はソルトからしたら敵だったし、僕らからしてもソルトは敵だった。でも今は立場が変わった。レッドさんが敵、それ以外は全員味方。だからソルトも、チームの一員だ。
「……チーム名か。じゃあ、こういうのはどうだ?」
クリムさんは大剣を軽く持ち上げ、遠くの方にいる化け物と化したレッドさんに剣を突きつけ、こう言った。
「3つの石を狙う守ると、立場が変わっている。つまりグルグル回っている。ということで……”ザ・ローリング・ストーンズ”だな」
それを聞いた山岡さんは、小声でツッコんだ。
「それ、もうあるよ」
色々とあって、チーム名は”ドゥームズ”になった、とてもいい名前だと思う。
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