第65話 大集結
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「モンスター、本部近くから多数出現……えっ、まさか、ゴーレムか!」
ロックの興奮したような声によって、俺は目覚めた。気づいた時には、何故か本部の近くにいた。さっきまでアダムと戦っていたはずなのに、なんでこんなところに。アダムや江戸崎の姿は見えない、代わりに目の前にはショウと瀧口さんが立っていた。
「ようやく起きたか」
「よかった、無事だったんだね」
時計を見ると、さっきの戦闘から5分しか経っていないことが分かった。でも、5分じゃここまで移動できない。いったい、どうなっているんだ。エストがワープ魔法で戻してくれたのか、それにしては……いや、待て。空中には緑色に光るポータルが無数に出現していた。これは、もしや時の石の影響か?
「なんだ、あのポータルは?」
「江戸崎だ。あいつが時の石で、別世界から味方を呼んでくれた」
空に浮かぶポータルからはドラゴンやスケルトンといった、この星では見られない生命の連なりが見られた。もしかして、さっき大声で叫んでいたあの言葉と時の石が呼応して、他の世界から味方を呼んでいるのか。
「江戸崎は、江戸崎はどこにいった?」
そう聞くと、ショウは首を横に振った。
「さっき、俺たちが戦っていた場所で2人の能力者の完全崩壊が見られた。爆発は観測できなかったが、恐らく……時の石の影響だろう」
そうか、江戸崎は時の石を使って死んだのか。さっきまで戦っていた場所の数値を見ると、明らかにエネルギーの放出量が違う。ああ、江戸崎は自身の死をもってまで、世界の存続に力を貸したのか。
その証拠に、ポータルからは次々に援軍が送られてくる。中にはスケルトンやゴブリンといったモンスターまで、しかし瞳に魂がこもっている。彼らはただのモンスターじゃない、味方だ。
江戸崎は最期まで不思議な男だった、世界滅亡を阻止するという目的があったとはいえ、俺たちに協力を申し出た。自分勝手といえば自分勝手、傲慢といえば傲慢、しかしアイツの心には勇ましさが残されていた。いや、アイツのせいで死んでいった者もたくさんいる。だから、アイツのことを心から許すわけにはいかない。
世界が救われた暁には、アイツを刑務所に放り込もうとしていた。死んで逃げるなんて許されない、いや、でも江戸崎は身を滅ぼしてまで世界に応援を求めた。あの世界に宣戦布告した男が、たった今、全世界に助けを求めた。その結果が、これだ。
本部の真下からは大量の軍隊が召喚されていく。ケルベロスが懐いているのを見るに、これはランセル王国の者たちか。彼らもまたイヴ、レッドに洗脳されていた者だ。恨みは相当溜まっているだろうな。
ドンッ!!
突如、真っ赤な体をしたドラゴンがポータルから現れた。そして本部の前に降り立ち、人の言葉でこう言い放った。
「スカイはこの世界にいるか?」
「……スカイを知っているのか」
この人の言葉を話すドラゴンは、スカイの世界で生息していたのか、スカイのことを気にかけている。ロックはそのドラゴンを見て、興奮を抑えられない様子。確か、ロックはドラゴンを崇拝していたんだっけな、スカイから聞いたような気もする。
「ああ、私は時の石の片割れを手にしている。そして今さっき、何者かに呼ばれた。世界を救うために、力を貸してほしい、と」
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「……私が、案内する」
はあ、はあ、はあ。やっと帰ってこれた。
アダムとやらに異世界に飛ばされてから、数十分しか経っていない。それでも俺は奇妙な体験をしてきた。炎しかない世界に飛ばされたかと思いきや、すぐに水しかない世界に飛ばされる。異世界の旅行ツアーみたいな体験だった、もっとも旅行のような癒しは無かったがな。
しかし、奴は俺の好奇心を満たしてくれた。お礼を言いたくなってきたから、是非とも姿を現してくれないか。さっきのお返しだ、この拳と三大神の力で殺してやる。必ず……待て、何だこの空気は。地面の揺れがいつもより激しい。俺がうずくまっているからか、いいや、明らかに増えている。
大気も変だ、何かによって空が覆われている。怪我を負った腹を押さえながら上を向いてみると、そこには大量のモンスターが湧いていた。敵か、と思い武器を構えようにも、剣は無くなっていた。異世界に飛ばされた時にどこかで落としてしまったか。いや、それよりも気づいたことがある。アイツらは敵じゃない、味方だ。
レッド、イヴが創造魔法で作り上げた心のこもってない無意味な肉の塊ではない、正真正銘のモンスターだ。そんなのこの世界にはいないはず、まさか!
振り返ると、そこにはあのドラゴンが、威風堂々とした姿を見せながら屋上に降り立っていた。それだけじゃない、天には緑色に光る無数の渦が出現しており、そこから無数にモンスターや兵士らが召喚されていく。
「……久しぶりだな」
「ああ、会いたかったよ。スカイ」
なるほどな、原理は分からないが何者かが時の石を使い、全世界から援軍を連れて来ているみたいだ。この世界に戻ってくる時、何者かの声が聞こえた。「案内する」とか言ってたな、その男が俺やドラゴンをこの世界に呼んだというわけだ。
「ここが3つ目の地か」
「そうだ、もっと言うと俺の故郷でもある」
「……具体的に説明してもらいたいが、今は時間が無いようだ。状況はどうなっている?」
「破滅のアダムとイヴなるものが、世界を滅亡させるために3つの石を求めている。時の石はアダム、空間の石はイヴに取られた。残る力の石は、見えるだろう、あの赤いタワーの地下に埋まっている。あれを守れば俺たちの勝ちだ」
「なるほどな、”世界の帝王”の二の舞になってはならない。世界の滅亡を阻止するためなら、私たちも手を貸そう」
そしてドラゴンの真横に、新たな緑の渦が生まれた。そこからは見覚えのある男と若い女性が召喚された。
「スカイさん、お久しぶりだべ」
「ルカ、久しぶりだな。ディールさんも」
そう、ルカとディールだ。彼らはドラゴンと共に向こうの世界に残っていた。彼らもまた、世界を救うために駆けつけてくれたんだな。
「世界の滅亡なんて物騒なこと、この俺が止めてやるでえ」
「変に意気込むのはやめてやあ」
ディールはまだしも、ルカも戦うのか。世界の帝王との戦いにルカはいなかった。そのルカの手をよく見ると、痛そうなマメがたくさんできていた。恐らく、俺たちがいない間もずっと訓練してきたんだろうな。モンスターに代わる脅威と戦うために、何なら今日この日のために、ずっと。
少しすると天にできた渦から、カラフルな大量のドラゴンが現れた。これは、あのドラゴンの仲間たちだ。世界の帝王との戦いを共にした、アイツらだ。また手を貸してくれるのか。
「……私たちもいますよ」
下の方から声がしたから振り返って見ると、そこには小さめのスケルトンが偉そうに立っていた。この博識で何でも分かってそうな感じを醸し出すスケルトンと言ったら、ああ、地下室にいたスケルトンか。彼のそばには大きくなった白蛇やゴーレムが。スライムもいる、ポチャンと地面に寝そべっているが。
ああ、みんな来てくれたのか。そしてガイアさんやシアン、ロックも本部に戻っていた。エストやソルトも、この不思議な光景を見ながら目を輝かせている。
「攻撃するな、彼らは俺たちの味方だ」
「もちろん、分かっている」
星田は全てを理解している様子、しかし目には少しだけ涙が溜まっている。もしや、ああ、何となく察せた気がする。俺たちを案内した男は、お前の仲間だったんだろう。時の石を人間が使うなんて、普通じゃ有り得ない。彼は死をもって、世界から援軍を集めたんだろう。
「ありがとう」
俺は星田の肩を叩き、一言だけ感謝の言葉を伝えた。
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