第64話 時の石

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「もう終わりにしましょう。愚かな人類よ」


《創造魔法》


 イヴが何かを発した瞬間、奴の周りに大量のモンスターが召喚された。距離があっても視認できるくらいに大量だ、それらがイヴの足元に集まっている。


「そうだね、イヴ」


 そう言って立ち去ろうとしたアダムの前に、また江戸崎が立ちはだかる。どう見てもボロボロで、息苦しそうだ。くそ、このままだと死ぬぞ。江戸崎を助けに行こうにも、足が動かない。回復能力が使えなくなっている、スタミナ切れか?


「君もしつこいね」


「……私の名は江戸崎信哉、この名は内閣総理大臣暗殺未遂事件の犯人として語り継がれていた。しかし、今日からは違う」


「はあ?」


「今日からは……今日からは、地球の平和を守る”ヒーロー”だ」


 江戸崎がそう発すると同時に、アダムの背後から白が現れた。そしてすぐに奴に向かって何発もの蹴りを入れる。高速移動能力が復活したのか、それとも死ぬ気で戦っているのか。何発も何発も、ありとあらゆる方向から攻撃を仕掛ける。


 ドゴッ!! グギッ!!


 例え自分の拳が傷つこうともお構いなしに、白は緩めずにアダムを攻撃し続ける。相手が神の子だろうと関係ない、ただリタを殺した犯人への怒りを原動力にして戦っている。江戸崎はニヤリと笑いながら、四方八方から攻撃され続けるアダムへと近づいていった。


「キョウ、今だ!」


 白の合図と共に、江戸崎がアダムの腹に拳を入れた。そして、何かを引っ張り出した。






「まさか……これが狙いか」


 江戸崎の右手には、緑色に輝く時の石が。






「言ったはずだ。私を舐めるなよ」


 ブチッ!!


 江戸崎はアダムの首にぶら下がっていた時の石を取り戻したのだ。エストの求めていた、イヴに裏切られて異世界に送られたきっかけの、3つの石のひとつである時の石が、江戸崎によって奪還された。


「やったな、キョウ」


 白はアダムを蹴り上げ、江戸崎のそばに戻っていった。


「時の石を奪ったところで、君たちは無力だ」


「まさか、世界の基盤となる3つの石の1つだろう」


「だからだ。君たちのような無力な人間が時の石を使えば、石の力に耐え切れず死んでしまう」


 時の石はエストをスカイのいる世界に送り込み、またスカイたちを俺たちのいる地球に送り込んだ石だ。時空を操ることができる、と聞いている。アダムがスカイを異世界に送り込んだのも、この石の力のおかげだ。


 しかし、時の石を使うにはそれなりの力が必要だ。スカイは三大神の力を秘めていたし、アダムとイヴは神の子。時の石を使えば耐えられずに死んでしまう、これは本当の話だろうな。


 現状、奴から時の石を奪うことができた。守るべきものが増えたが、その分俺らが有利になった。狙いを分散できるし、何よりスカイを元に戻せる手立てが見つかった。どうにかして、時の石を使うことができれば。


「星田くんに礼を言う」


 突然、江戸崎は俺に感謝を述べた。そうだ、江戸崎と白は俺から距離を取り始めている。それに急に感謝を述べている、何をするつもりだ。


「SoulTとして世界に宣戦布告した私を、世界を守る目的とはいえども受け入れてくれた。ありがとう。おかげでここまで生きてこられた、カンナの真相も突き止めることができた」


 江戸崎の感謝は止まらない、ついには恋人の死の真相についても感謝し始めた。別に受け入れるつもりはなかった、SoulTの奴らを倒すという目的が一致しただけで、というか何をしているんだ、いったい。少しすると江戸崎と白は手を繋ぎ、時の石を天に掲げた。


「素直じゃないな、星田くんは。それでもいい、最後に挨拶がしたかっただけだ」


 最後の挨拶、まさか……何をするつもりだ。


「星田くんなら分かるだろう、私の能力」


 ああ知ってる。テレパシー能力、相手を洗脳する能力。どれも直接危害を加える能力じゃない。だからこそ、何をするつもりだ。


「時の石は一般人が使えば死ぬんだろう?」


「ああ、その通りだ」


「残念ながら、私たちは一般人ではない。臣に認められた能力者だ。それも、ふたり」


 江戸崎は時の石を強く握り締める。すると時の石も呼応するかのように、緑色に強く光り始めた。まさか、時の石を使うつもりなのか。やめろ、神の力も持っていないのに、無茶をするな。


「星田くん、心配する必要はない。地球の平和は守られる、決して無駄死にではない……それに、君の理解者はたくさんいる。能力者じゃなくても、だ」


「やめろ、神の許可なく石を使うな」


 時の石がいちばん強い光を放った時、江戸崎が大きな声を発した。




「世界の民に告ぐ。世界は今、破滅のアダムとイヴなる者に追い詰められている。力の石なる物を奪われれば世界が滅亡する! 滅亡を防ぐために我々は戦っているが、力を貸してほしい。率直に言う、世界を救いたければ、世界を救いたいと心から願え! 私が、案内する」




 緑色に輝く時の石は、江戸崎の言葉に呼応するかのように、更に強く光り輝いた。そして俺たちは、その光に包まれたのか、辺りが見えなくなっていった。


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「ハハハ、時の石を使おうとしたって無駄だ」


「……それはどうかな?」


「……まさか、一か八かで」


「そのまさかだ……さて、どの名前で呼ばれたいか?」


「臣で頼む、少なくとも君は」


「はっ、どうやらこの体も限界みたいだ。白も人では無くなってきている。さてと、臣。ここまで来ても、なお世界滅亡の夢を目指すか。本来の目的は世界の滅亡ではなく、復讐だろう」


「……ああ、しかし今の僕はアダムと同一化している。あの夜、父親の葬儀の日から、僕はアダムと同一個体だ、誰が何を言おうと、僕はアダムの夢を叶えるだけ」


「そうか、時間が迫ってきている。君がそう望むのなら、私はそれを止めるだけ……少なくとも、星田くんは君を止めてくるだろう」


「……争いたくはなかった、誰とも。それでも仕方ないんだ、僕はアダムの器に過ぎない。初めてDream Powderを摂取した日から、僕はアダムと分かり合えた唯一の存在として生き長らえている。世界を滅ぼしたいと心から願っているのも、もしかしたら僕ではなく、僕の中のアダムが願っているだけかもしれない」


「……それなら、今のうちに止めるべきではないか」


「もう止まらない、アダムの器であるのなら、アダムに従うまで、いいや、アダムとして生きるのみ。全ての世界を滅ぼし、アダムとイヴの子供を産み落とす。そうだ、君たちの神話ではカインがアベルを殺したんだろう。僕らは違う、カインとアベルの共同体が---」


 ここで、2人の男の体が完全に崩壊した。緑色の光を放ちながら、結晶くらいの大きさにまでバラバラになり、やがて消滅していった。


「……居なくなっちゃった。SoulTの生き残りは僕だけか、寂しいな。まあいいさ、すぐに会える」


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