第63話 完全復活
----------
「じきにイヴも完全復活を遂げる。君らSoulTには、幸せになってもらいたいよ。何せ植え付けられた悲劇に苦しみ続けていたのだから」
奴の発する言葉ひとつひとつが悪意に満ちている。その奴は今、神のように振る舞って世界を滅ぼそうとしている。はっきり言って、反吐が出る。破滅のアダムとイヴ、結局は平和的な解決を知らないだけの可哀想な生命体とも言えよう。教わってこなかったのか、平和なやり方を。
「……おっと、もう時間のようだ」
奴は俺を蹴り上げ、手を払ったあと、その場から立ち去ろうとした。追いかけようとしたが、力が足りず立てなかった。と、その時。本部から報告が届いた。
「本部より通達、目標のエネルギー変動を確認!」
突如、空中で静止していたイヴが動き出した。真っ白でトゲトゲとした鎧を着ていたイヴは、体をくねくねとさせながら力を解放している。やがて、少しずつ体を大きくさせていくのが見えた。創造魔法で複製したモンスターらを吸収して、エネルギーを取り込んでいるのか。
「目標の姿が変わっていきます! 推定身長、108m……もはや人ではありません、あれは怪物のような何かです!」
周りの生命を取り込んで巨大化する、品川のカイブツと同じ原理のようだな。柱に掴まりながら立ち上がると、遠くの方で巨大化したイヴを視認することができた。ああ、本部の言ってた通り、イヴは怪物のような何かに化していた。
奴はさっきまで金髪で大人びた女性だった、それが今では化け物のような何かに取り憑かれた、そんな存在に成り果ててしまった。いや、奴らにとってはこれが進化か。推定身長108m。高層ビルが立ち並ぶ都心でも、奴の姿ははっきりと視認できる。
女性マネキンのような無機質で真っ白のボディに、無理やり生やしたかのような白い長髪が頭にくっついている。トゲトゲだった鎧も体と一体化しているのか、トゲトゲだけが体に突き刺さっている。それ以外は、マネキンを巨大化させただけ。そのシンプルさが余計に、奇妙で怖い。
そして下半身は、大量のモンスターがうじゃうじゃとおり足の代わりとなっている。シンプルな上半身とは裏腹に、下半身はモンスターの集合体。足までエネルギーが回らなかったのか、何であれ怖いことには変わりがない。
「イヴ、やっと成功させたんだね」
アダムはそんなイヴの姿を見て、果たされたのか満面の笑みを浮かべている。あれがイヴの最終形態とでも言うのか。夜中なのに真っ白だからか、イヴの体は目立って見える。自然の摂理に反していて、イレギュラー、そんな気がする。
「待て……先には行かせない」
声の主は江戸崎、奴はアダムを止めるために立ち上がり、アダムの前に立ち塞がった。しかし体はボロボロで、何かに掴まっていないと立てないのか、とてもフラフラとしている。
「そんな体で僕を倒そうなんて、無駄だよ」
「……私を、舐めるなよ」
そう言って江戸崎はアダムに掴みかかるも、軽くかわされ、地面に叩きつけられてしまった。
「ボロ雑巾以下だ。何の役にも立ってない」
「……それはどうかな」
江戸崎がそう発した瞬間、俺の真横を何者かが高速で過ぎ去るのが分かった。そしてすぐに、何者かによってアダムは攻撃を受けた。煙のせいで姿は見えない、だが何者かは分かる……白だ。
動きを止めた白は俺の元に駆け寄ってきた。足を完全に破壊したはずだが、何故か動けている。その理由は、パワードスーツを着ているから。正確に言うと、破壊されたパワードスーツの下半身部分を装着している。元はと言えば、パワードスーツは介護用に作られた。それにDream Powderを入れて兵器にしているだけ。
白はパワードスーツを正規の使い方で使用し、足の機能を復活させたのだ。
「与えられたセカンドチャンスを、無駄にはしない!」
「くそ……裏切り者め」
しかし、白の高速移動能力にパワードスーツが追いついていないのか、機械でできた足が少しすり減っている。これでは能力を充分に発揮できない。
「アダム、今ここで滅べ!」
それでも白は諦めずに、アダムに向かって色んな方向から高速で突進する。逃げる暇など与えない、流石のアダムも高速移動には着いていけなかったのか、ただやられるままである。
「貴様を生かしておいたのは失敗だったな」
急に口調を変えた奴は、高速で走る白を片手で捕らえた。奴は首を掴み、それを軽く持ち上げている。
「パワードスーツで足を擬似的に回復させたか、頭のいい奴だ。しかし私はアダム、神の子だ。神を翻弄しようなど、あってはならない」
白は足をじたばたとさせているが、掴まれているため何もできない。
「……おっと、アダムが出てしまったようだ。失礼したね、僕とアダムはひとつの存在だと思っていたけど、また別か」
奴は白の首を強く掴んだ。白はもがき続けるも、能力を上手く発揮できずにただ苦しむばかり。江戸崎も踏ん張って立ち上がり、ゆっくりと奴の方へ向かっているが、よろめいている。
「ハハハ、どうした白。僕を裏切るとは、君も世界の滅亡を望んでいただろう?」
「ぐぐ……いいや、リタを殺したのが貴様なら話は別だ」
「そうか、そうやって君も裏切っていくのか。ならまたこの手で殺すだけだ」
奴は更に強い力で白の首を絞め上げた。もがき苦しんでいた白も少しずつ抵抗しなくなっていった。
「……おっと、殺すつもりはなかったんだけどな。うーん、まだ息してるようだし」
そう言って奴は、白を地面に投げ捨てた。その間も江戸崎はアダムに向かっていた。でもよろめきながら歩いているためか、まだ辿り着いていない。アダムはそんな江戸崎を嘲笑うかのように江戸崎の前に立ち、腹に拳を入れた。
「君もまた度胸のある男だ。クリスマスだったか。君が僕の心を読んで、恋人を殺した犯人を特定した。まあそれは僕だったわけだが。結局、君はSoulTを抜けて、曰く正義の味方となった。残念だ」
「……」
「イヴは完全復活を遂げた。創造魔法で隕石を作り出せば、地球もろとも消滅する。しかし、そんな野暮なことはしない。何故だか分かるか?」
「…………」
「僕らは破滅のアダムとイヴ、神の子であり、君たちの知ってるアダムとイヴとは真逆の存在だ。生命の育みを楽しんできた人類とは相反する存在、破滅を楽しまないでどうする。じきにスカイくんも戻ってくるよ、誰も存在しない地球にね。彼こそ、最後の晩餐にふさわしい」
「………………」
「失礼、アダムの人格が強くなってきているね。僕はアダムと同じだと思ってた。改めて。僕は臣、アダムの器であり、SoulTの唯一のメンバーだ」
----------
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます