第62話 SoulT《ソルト》

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「目標の討伐の可否を問う」


「……星田、まさか、やるつもりなのか」


 ここで奴を倒さないと、全てが終わる。イヴが完全復活するのも時間の問題だ。ならば、やるしかないだろう。幸いにも、Dream Waterは体に順応している。爆発の恐れは確認できない、確認していないだけか。


「無駄だよ、君たちに僕は倒せない」


 奴の声が聞こえた瞬間、後ろから強烈な拳をお見舞いされた。まさか、瞬間移動したのか。すぐに振り向くとそこにはアダムの姿が。時の石と空間の石を掌握した奴にとっては空間も時間も、おもちゃみたいなものだ。


「星田! アダム討伐の許可をする!」


 ショウの声と同時に、俺は全ての力を解放した。高く飛び跳ね、上から奴の顔面めがけて拳を振り下ろす。しかし奴の左腕によっていとも容易く防がれてしまった。ただ、俺の狙いはそこじゃない、奴を倒すことでもない。推進力を落とさないまま、そのまま奴の両腕を殴り続ける。


「オートモード、起動!」


 ショウの声と共に、瓦礫に埋もれていたパワードスーツに電源が入った。このパワードスーツもDreamシリーズとして開発されている、だから力もかなり強化されている。


 俺は奴の体を蹴り上げ、そこから距離をとった。ここからはパワードスーツの本領発揮タイムだ。


「戦闘コマンド、スチームモードに切り替えろ!」


 ショウがそう発した瞬間、パワードスーツが赤く点滅した。戦闘コマンド、スチームモード……これは確か戦闘強化型に準ずる機能だ。蒸気機関車のように突き進む、邪魔する目標がいてもなお突き進むことを意味して名付けられたはず。人間で言うところの目の部分を赤く光らせながら、パワードスーツはアダムに向かってまっすぐ進み始めた。


「機械は人類最大の発明だ、しかし機械のせいで文化が破壊されてきた。文化の発展こそが人類の取り柄だったのに、もったいない」


 そう言ってアダムは、突進するパワードスーツを片手で受け止めた。


「破壊は逃げ、これが君たちの答えなら否定しない。しかし破壊しなければ終わらないこともある。これは、臣としての意見だ。アダムはただ、破壊を命じられただけの器に過ぎない」


 グチャッ!!


 そして、パワードスーツの腰を両手で持ち、2つに引き裂いた。赤く点滅していた目は真っ黒になっており、もう何の輝きも見えない。


「まだまだァ!」


 ドンッ!!


 パワードスーツが破壊されたその隙に、ショウは天高く舞い上がっていた。そして重力そのままに、更に翼の力を加えながら奴の胴体に蹴りを決めた。すぐさま俺も奴の背後に回り、逃げられないように後ろから押さえつける。


 ゴオオ、ゴオオと強い風が吹き荒れている。ショウの蹴りの衝撃波と、俺の押さえつけるエネルギーが反発し合っているのだろう。


「これが君たちのチームプレイか、弱い」


 その瞬間、奴は紫色の光を放った。


 ドンッ!!


 爆発音と共に、一瞬にして辺りが黒く焼け焦げた。これが、アダムの真の力なのか。ショウも俺も強く吹き飛ばされ、ビルの壁に激しく激突した。たった一撃でここまでの威力があるとは、しばらく立てそうにないくらいには痛い。


「この星に恨みは無い、できるだけ元のまま破壊したかったのだが……黒く染めてしまった」


 言葉通り、地面はヒビ割れ黒焦げている。肺が押しつぶされたのか分からないが、呼吸がしにくい。ショウも同じく腹を押さえている、状況は向こうも同じだろう。そして、パワードスーツの上半身の部分はもう粉々になっている。修復は不可能だ。


「君は別の世界に送るほど脅威ではない、だから殴るくらいがちょうどいい」


 そう言って、アダムはショウの顔面を殴り始めた。ドンッ……ドンッ……と、一撃一撃が強くて深くて重い。


「やめろ……やめ……」


 やがてショウは、堕ちた。奴を強く睨みつけたまま、気を失ったようだ。


「さて、次は君の番だ」


 奴は赤い拳にそっと口づけをしながら、ゆっくりと向かってくる。赤いのは血じゃない、何らかの力で赤く光っている。


「君は優しく、素直だった。情報屋という設定の真田に対しても、好意的に接していた。だから騙された。とても滑稽だったよ、それに計画の一部となってくれて、とても助かったよ」


 そして奴は、俺の胸ぐらを掴み、容易く地面に叩きつけた。そしてすぐさま馬乗りになり、なんべんもなんべんも顔面を殴る。


 ドンッ……ドンッ……ドンッ!!


 反逆しようとも、力が出ない。奴に押さえつけられているからだ、力も体も何もかも。ただ奴に殴られるのを待つのみ。どうなってんだよ、俺の体は。必死の思いで奴の首を掴むも、力が足りず防がれる。


「今も白も、結局は計画の一部に過ぎなかった。他のみんなも。世界滅亡の瞬間に揃っていてほしかったけど、どちらにせよ世界が滅ぶのなら、君らはいてもいなくてもいい存在だ。というより、最初から君らは計画のコマでしかなかった」


 急いで足に力を入れて、奴の拘束から逃れようとするも失敗、すぐに顔を地面に叩きつけられてしまった。奴は高らかに笑いながら、全ての告白を始める。


「SoulTは素晴らしい組織だったよ、皆なにかを失い、皆なにかのために頑張ってきた。しかしそれも、全て僕の傀儡に過ぎなかった。能力者として覚醒しそうな連中を集めるために、復讐の動機を作った。今……江戸崎といったか、君の恋人を殺したのは佐野じゃない、僕だ。爆発事故を起こしたのも、亡の家族を消したのも、雑にトラウマを植え付けたのも、全て僕だ」


 SoulTも、結局はアダムとイヴの計画を遂行するためのひとつのピースに過ぎなかった。江戸崎も白も雑も亡も、そして佐野も、ミチルだって……薬物使用者と呼称されていた人たちのほとんどが、計画の一部となっていた。何もかも、というか、全てが奴の手のひらの上で転がされていた、ということになる。


「私たち、SoulTは……貴様らの計画のために作られた組織ということか?」


 江戸崎は腹を押さえながらも、アダムに問いかける。奴はニヤリと笑いながら、問いに答え始めた。


「力の石に適応できる人物なら誰でもよかった。もし君が力の石に適応できない人なら、君の恋人は死ななくて済んだ。しかし死は救済だ、そういう意味では君の恋人は一足先に天国を見ていることだろう。感謝してほしいものだ、僕らの破壊によって君の恋人も君も報われるのだから」


 その言葉を聞いた江戸崎は、憎しみの表情を浮かべた。拳は震え、息も荒くなっている。そんな彼を、アダムはニヤリと笑いながら観察している。


「スカイは遠い異世界へ、世界を救うはずのヒーローはこの有り様だ。じきに世界は破壊される。どうだ、僕らと共に破滅を見届けないか」


 そうして奴は、俺の腹を強く踏みつけた。


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