第61話 アダムの裏切り
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ガゴン!!!
奴の顔面めがけて振り下ろしたダンベルは、惜しくも外れてしまった。というよりかは、外しておいた。覚悟を決めていた奴は、真横に転がっているダンベルを見て、血を流しながらも立ち上がろうとしていた。しかし足を怪我しているが故に、何もできずに震えている。
「……どうして俺を殺さなかったんだ?」
「セカンドチャンス、やり直すチャンスを与えようと思ってな。これは俺の願いとかじゃない、アイツの願いだ」
パワードスーツのオートモードを解除し、俺は動けなくなった白を両手で持ち上げて運ぶ。出入口の向こうには、アイツがいる。白へのセカンドチャンスを望んだアイツが。
「さすが星田くん、白を生け捕りにするとはね」
そう、江戸崎だ。SoulTの生き残りでもあり、世界の救出を求める者。同時に白は元仲間、少しばかりは助けてやりたいと思ったんだろう。怪物と化した雑や渋谷を血の海にした亡とは一線を画す存在、なのかもしれないな。とは言っても、俺からしたら白も同じく大虐殺者だ、何なら江戸崎も。これは変わらない事実、その上でやり直すチャンスを与えたかったのだろう、本当の気持ちは今にしか分からない。
「セカンドチャンスを与える……という解釈も間違ってはいないが、殺さないでおいたのには理由がある。戦力の補填だ、それは君も分かるだろう?」
白は柱にもたれかかったまま今の話を聞いている。鼻血を出しているのもあって、仮面はもう外している。顔も正体もバレたし、何よりSoulTという組織がもう無いから仮面を着ける意味もなくなったんだろう。それで、戦力の補填とはどういうことなんだ?
「疑問に思うのも無理はない。あえて説明するが、我々は現在、壊滅状態にある。日暮や国連の援護こそあれど、最終防衛ラインはとっくのとうに破られている。イヴが動きを見せないから何とかなっているだけで、奴が行動に移せば世界はすぐに消滅する」
「それは……俺にとっては好都合だな。お前さんらがピンチだろうと俺には知ったこっちゃない。俺の目的は世界の滅亡だからな」
「本当にそうかな? 私は君の心が読める、むしろ以前よりも読みやすくなっている。破壊は何も生み出さないぞ、セカンドチャンスも何もない」
江戸崎は白をチームに入れたい、ということか。言ってることは正しい、最終防衛ラインが破られたのもイヴが動かないのも全て事実だ。だからといって、さっきまで戦っていた相手を味方にしたいなんて無理だ、不可能だ。俺の体にガラスの破片を突き刺してきた奴だぞ。それに奴は改心なんてしていない、まだ世界の滅亡を望んでいる。
「……私に考えがある、この最悪な世界から自由を解放するための、たったひとつのやり方が」
「……それは世界の滅亡しかない、世界の滅亡こそが全ての魂を平等に自由にしてくれる」
「……いいや、それは逃げているだけだ。0と1は違う、セカンドチャンスすら無い世界はもはや地獄でもなんでもない。天国でもない、話し合いから逃げるな、白」
白と江戸崎で議論を進める中、ドラゴンと戦っていたショウが戻ってきた。
「どうした、白を早く殺らないのか」
「……まだその時じゃないみたいだ。江戸崎が白にセカンドチャンスを与えている」
「……江戸崎もまだ信頼できないぞ。何にせよ白は戦闘不能、これにてSoulTは壊滅。あとはアダムとイヴだけだ、惜しくもその2体がかなり手強いがな」
ショウは腕に着けているモニターを使って本部と連絡を取っている。白は足をギタギタに折られたため、戦闘不能となった。残るはアダムとイヴ、この事件の元凶だ。全ての元凶、ここで倒さないとエストやスカイの世界まで滅んでしまう。
世界を滅ぼす力を手にしたら、奴らは必ず他の世界も滅ぼしに行くだろう。3つの世界で収まるわけがない……そもそも他にも世界があるって、一昔前の自分だったら信じないだろうな。そういえば、スカイはどこに
ドンッ!!!
鼓膜が破れそうなほどの爆音と衝撃波が、背後で突如発生した。振り向くと、そこにはボロボロになったスカイと、笑みを浮かべたアダムの姿が。口や鼻の穴から血を垂れ流しているスカイは、どこか苦しそうに呼吸をしている。
「スカイ!」
「多分聞こえないよ。僕が壊しておいたからね」
砂埃にまみれたスカイは、アダムによって地面に放り投げられた。駆け寄ろうとするも、透明な壁に挟まれていて動けない。これはどうなっているんだ、まさか結界か?
「三大神の力を手にしたと聞いてたが、正直物足りなかったな。足元にも及ばない、でもまあ厄介な存在ではある、それは認めよう。同種族を殺して別世界に転移し、向こうでも記憶をなくして親と呼べる存在を殺している。どこに行っても、彼は殺戮者だ。出会い方が違えば、彼とも仲良くなれたのかもね」
奴はそれだけ発し、スカイをブラックホールのような黒い渦で包み込んだ。スカイの姿が見えなくなると同時に、結界らしき壁は無くなった。
「スカイをどこにやった?」
「遠い異世界さ、彼の力は厄介で手に負えない。だから君らが関与できない世界に送り込んだ。この世界を滅ぼしたあと、ゆっくり彼と戦うことにするさ」
そうだ、奴は時の石を手にしている。つまり時空を超えることも可能、それでスカイを別の世界に送り込んだということか。
「彼を失ったいま、君たちに切り札はない。大人しく世界の滅亡を共に見届けよう、新たな生命の誕生までもう少しだ」
「新たな生命……とは?」
ここで口を開いたのは江戸崎。ゆっくりと立ち上がりアダムを睨んでいる。
「世界の滅亡が君たち、破滅のアダムとイヴの最終目標だろう。故に新たな生命など生まれないはずだ。詳しく説明してもらえるかな、アダムくん」
「世界を滅ぼすのはアダムとイヴではない、それでは世界が多すぎる。だからこそ、新たな生命、いわばアダムとイヴの子を作っている。全ての世界を破壊し、最後に生き残る、最後の神だ」
「なるほどな、今は産休という訳か」
「……世界が滅ぶのも時間の問題だ。スカイの力は”子”の誕生を邪魔する存在となるだろう。だから別世界に送ったという訳だ」
アダムとイヴの子供を作る、それが奴らの最終的な目標か。神話に沿っていくとすると、それはカインとアベル。もしや奴らが箱根で活動を休止していたのも、子作りが関係している可能性が高い。となると、イヴが動いてないことと繋がってきた。
「ずっと気になっていたことがあるんだが、君は今、どっちなんだ? アダムなのか臣なのか、もしくは篠原なのか」
「……アダム、臣、どちらでもありどちらでもないと言える。父親の形見のDream Powder、もとい力の石の片割れを摂取し、アダムと接触してからそこからは同個体として生きてきた」
「……計画をべらべらと喋りすぎだ」
「……元々君とは仲間だったからね。僕の中の臣の部分がまだ強く残っているんだろう。それに、この計画はもう阻止できない。スカイを取り戻す方法なんてないのだから」
時の石は奴の首にぶらさがっている、だからといって取り上げることはできない。奴はあのスカイと互角に、いやそれ以上のパワーでねじ伏せた。三大神の力を持つスカイに勝ったのだ。ここに能力者は3人いる、1人は戦闘不能だがそれでも戦えるには戦える。だからって、無茶だ。
でも、ここでやるしかない。
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