何者にもなれず、自らは何も生み出せない小人の悲哀

 若くして会社を継いだ経営者の女性が、自分自身の性質や特性について、なにかいろいろと煩悶するお話。
 セクシャルマイノリティにまつわる作品、のようでいて、実質的には(少なくとも物語上で果たす役割としては)そこまで深く絡むわけでもないお話。完全に主人公の主観のみを通じて描かれる、自家中毒的な独白の物語で、特に目を引かれるのはやはり主人公の人物造形です。
 己というものを持たない、何もできない人。この辺、描写が結構露骨というか、例えば社長でありながら働いている姿だけがあからさまにカットされていたりと(なんか個人的なブログを書こうとするけどそれすら失敗するという描写まである!)、もう本当に徹底されています。
 しかしなにより痛烈なのは、それがそのまま読んでいる自分の身に跳ね返ってくるところ。こうはなりたくないと思っても、結局はたから見たら自分もこんなもん、という、その現実の重たさに打ちのめされる思いです。
 何者にもなれず、借り物の尺度でしか自己や他者を規定できない人間の、どうしようもない悲しさがグサグサ刺さる物語でした。