お金の代わりにデブる世界

ちびまるフォイ

劇的な体重変化

体重変化が起きると私の口座に5kgの重みが振り込まれた。


「5kgかぁ……まあこんなものだよね」


せめて自分へのご褒美へと定食屋に入った。


「いらっしゃい、いつものでいいですか?」


「はい。お願いします」


「それじゃ前払いで重み500gね」


「え゛。昨日までは450gじゃなかったですか?」


「どこも不況なんだよ。悪いね」


なけなしも5kgもあっという間にすり減っていく。

このままではまずい。


「なんとか体重を増減しないと!」


体重は増えても減っても、その差分が還元される。

めちゃめちゃ太ってもいいし、めちゃめちゃ痩せてもいい。


手元に「重み」がないので食べ物を手に入れることはできない。

となれば痩せる方向にガン振りするのがいいだろう。


私は毎日ランニングを繰り返し、徹底的な食事制限を行った。


「やった! マイナス10kg!」


体重変化が起きると口座に重みが振り込まれた。

10kgも手に入ればなんでも好きなことができそう。


「ここで使っちゃダメ。今のうちに体重変化できるようにしなくちゃ」


重みが無くては食べ物が買えない。

今はやっと重みを手に入れたからには太れるように準備するのが賢い選択。


私は太りやすい食べ物を買い込んで家にストックした。

痩せるにしても上限があるし、太るにしても上限がある。


ちょうどいい痩せ具合を太り具合を往復することでコンスタントに重みが稼げる。


「ようし今度は太るぞ~~!」


痩せるときは苦労したが太るぶんには楽をすればいいだけだった。

あっという間にリバウンドし体重はプラス10kgを手に入れた。


「私ってなんて賢いの!? これでどんどん重みが稼げる!」


まだ家には太るための食べ物もストックがある。

この調子で続けていけば永久に重みが稼げて悠々自適な暮らしができる。


この永久機関を見つけてしまった自分へのご褒美としてホストクラブへと出向いた。


「君かわいいね。もっと痩せている君も見てみたいな」


「このあと痩せるつもりです!!」


お気に入りのホスト・星夜といい感じになったこともあり、

私は再びダイエットへと邁進した。


体重を減らしたあと、暴飲暴食を重ねて体を太らせる。

太ったらまたダイエットして、痩せたら太るを繰り返す。


体重変化によって得た重みはすべて星夜のために捧げた。


「いつもありがとう。俺がNO1になったら君を必ず迎えにいくから」


「うん、待ってる!」


「ところで今月も厳しいんだけど……」


「私にまかせて! もっと体重変化させて重みを用意するから!」


私の人生に彩りを与えてくれた星夜のためにならと、

暴飲暴食と急激なダイエットの周回マラソンを続けていった。


それなのに、体は暴飲暴食とダイエットに慣れ始めてしまったのか

徐々に体重変化はしづらくなって太りにくく痩せにくい体になっていった。


「なんで!? なんで太って、痩せてくれないのよ!! 星夜が待ってるのに!」


必死に食べ物をなかば飲み込むようにしてかっくらう。

喉を通った瞬間、反射的に吐いてしまった。


「げほげほっ……! そ、そんな……食べ物が喉を通らない……」


急激に食べたかと思ったら、今度は急激に食事を制限する。

無茶苦茶な食生活によって体は食事を受け付けなくなっていった。


「どうしよう……これじゃ太れない……星夜に相手にされなくなる……」


なんとかして太って痩せる必要がある。

ふと目に入ったのは水道の蛇口だった。


「食べ物が入らないなら……!!」


蛇口に口を突っ込むと胃に水をどんどんためていく。

体は水風船のように膨らみ、目には涙がにじむ。


大きく体重を変化したのを確認してから、飲み込んでいた水のすべてを吐き出した。


「はぁっ……はぁっ……これでプラス10kgして、マイナス10kg……。20kgも重みを手に入れられた……!」


手に入れた20kgはもちろん星夜のために使った。

星夜の誕生日には私の重みで盛大なパーティが催された。


「ありがとう。俺が愛しているのは君だけだ」


「星夜……!」


「次は店の10周年パーティだから負けたくない。次もあてにしていいかな」


「もちろんっ。私、星夜のためなら頑張れる!」


ホストクラブから一歩出たら私は水を飲み続けるバケモノになる。

水を大量に飲んでは出して、飲んでは出してを繰り返して体重を乱高下させる。


何回もループしたときだった。

ついに意識が途絶えて病院に運ばれてしまった。


医者からはあきれた口調でさとされた。


「あなたの体はもうズタズタです。これ以上無茶な体重の上げ下げは控えてください」


「そんなことしたら星夜に会えなくなる! 早く水を飲まなくちゃ!」


「これ以上続けたらあなた自身が死んでしまいますよ!!」


「そんな……私が重みを送れなくなったら、星夜はどうなるの……?」


医者からのドクターストップで私は重みを得る方法を失ってしまった。

一度でも星夜との約束を破ってしまったら、私は嫌われてしまうかもしれない。


どうすれば水も飲めないこの状況で体重変化させられるか。


「そうだ。ここは病院。体重変化を促す薬のひとつやふたつがあるはず!」


草木も眠るような深夜にそっと起き出して病院を探し回った。

薬の貯蔵庫に忍び込むと、治療用の太らせ薬を見つけた。


「これで一気に太ることができる」


私は薬をあるだけたくさん飲み込んだ。

しばらくすると体はみるみる太り膨張していった。


「あ、ああ……お、収まらない……!!」


どんどん膨らむ肉は貯蔵庫の壁をぶち破ってもまだ膨張を続ける。

病院のガラスを突き抜け天井を破り、体はますます膨らんでいく。


「うああ! バケモノだーー!」


突如、街に現れた怪物に通行人は逃げ惑った。

必死に弁解しようにも喉の肉が太りすぎて声が出せない。


必死に絞り出した声は唸り声のような叫びだった。


「怪物め! 覚悟しろ!!」

「これ以上街に進ませるな!」

「バラバラにしてやる!!」


まもなく街に現れたバケモノは人々の力により駆除された。


駆除されてもなお太り続けるその体は

これ以上太ることがないようにバラバラに細かくされた。


細切れになった肉片はせいぜい500gほどしか残らなかったという。




体重の変化は連動しているホストの口座へと振り込まれた。


「え!? プラス1億kgとマイナス1億2800kg!?」


桁違いの重みに星夜はホストキャラを忘れ、地で驚いていた。


「なぁに? どうしたの星夜」


「バグかもしれないけど、ものすごい額の重みが振り込まれててさ」


「誰から?」


「俺の財布だよ」


「もーう、星夜ってホント最低な男ね。そこがいいんだけど♪」

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