第59話 疑わしい者

 エストキラは、断る口実がないため、仕方なくハムザの元へ向かった。


 「あなたが噂を流したというのは、本当ですか?」

 「いえ。ちょっと聞いた話を知り合いに話しただけです……」

 「ほう。あなたの知り合いは各宿屋にいるのですか?」

 「え?」


 ”まさか色んな場所でシィさん触れ回ったの? それじゃ僕は必要なかったんじゃない?”


 真相に気が付いたエストキラだが、そうですとも違うとも答えられなかった。そうですと答えれば、なぜそんな事をしたのかと聞かれるだろう。違うと答えても冒険者達が聞いたと証明するだろう。


 「手をお出しなさい」


 ”手? なんで?”


 疑問に思うも言う通りに手を出した。すると何か丸い物を当てられる。


 「それ、何?」


 驚いてエストキラは、手を引っ込めた。


 「別に害はありませんよ。人に変装するのが得意な者がいましてね、あなたに化けているのではないかと思いまして。これは、スキルをキャンセルさせる魔道具です」

 「………」


 エストキラでもその人物がシィだとわかった。そして、触れ回ったのは彼だと気が付いている。


 「そういうわけで、失礼を承知であなたも確認してよろしいですかな?」


 ハムザがマーシャルに問うと、お好きな様にと手を出した。

 魔道具を使ってもマーシャルはそのままだ。変わらない。

 

 「で、あなたは何と触れ回ったのですか?」


 自分が本物のマーシャルだと確信させ、彼はエストキラに問う。


 「冒険者ギルドを――」

 「もう下がって結構」


 エストキラが答えようとすると、凄みを聞かせてハムザが遮った。


 「おや、私に聞かれたくない内容ですかな?」

 「いいえ。噂を流したのが彼ではなく彼に変装した者だからです」

 「違います! 僕です!」


 まさかエストキラが否定するとは思っていなかったハムザが彼に振り向き睨みつける。


 「自分の言葉に責任を持てるのですか?」

 「それは……でも、話した事実はあります」

 「では聞こう」


 マーシャルの言葉にエストキラは頷いた。


 「冒険者ギルドと繋がっているは国ではなく……神殿ですと」

 「証拠もなくそのような事を触れ回ったのですか」

 「証拠はお金の流れを見ればわかる。今回は、それも調べるつもりだ。その為に直接私がきたのだからな」

 「………」


 ハムザとマーシャルのにらみ合いが始まると、冒険者達がどっちが本当なのだと騒ぎ始めた。

 スーッと街の騎士団長がハムザに近づく。


 「ハムザ様、ここは一旦引きましょう。馬車をご用意しております。あのお方もお忍びで来ております。そちらへ参りましょう」

 「そうだな」


 ぼそっと耳打ちするとハムザは頷いた。


 「お前たちは、マーシャル様を引き続き護衛をするように」

 「っは」

 「待て、逃げるのか!」


 冒険者がそう叫ぶ声が聞こえるが、振り返りすらせずに馬車へとハムザは向かう。


 「ふっ。逃げたか」


 その姿を横目にマーシャルはつぶやいた。

 ガシ。

 どうしたらいいんだと呆然としているエストキラの腕を騎士が掴んだ。


 「君も一緒に来るんだ」

 「え? なぜ?」

 「もちろん、詳細を聞く為だ。馬に乗れ」

 「馬!? 乗った事なんてないけど。うわ。ちょっと……」

 「キラ!?」


 騎士団に引っ張られていくエストキラを見て、リナが慌てるもどうする事もできない。


 「ぎゃー落ちる」


 無理やり馬に乗せられ、必死に馬にしがみつくエストキラ。


 『やれやれ、あの者達は……。心配いらん。馬から落ちさえしなければな』


 リナに聞こえないが、アルはそう言った。


 「冒険者の皆さん、これから私が直接不正を暴きます。そして、他国と同じシステムに戻します。宜しいですか?」


 冒険者達は、マーシャルの言葉に歓声を上げた。


 「お待ちしておりました。マーシャル様」


 ベネッタが、マーシャルを案内する。

 こうして、冒険者ギルドにメスが入れられる事になった。




 ”落ちる~”


 「そういえば君が馬に乗れるわけがない事を忘れていたよ。いやそれより、何を聞かれても何も答えない様に」

 「え……」


 エストキラは、馬につかまりながら手綱を引く騎士団を見た。


 ”もしかしてシィさん?”


 「これどういう事? 僕に言えって言っておいて自分で触れ回るなんて……」

 「俺の声が聞こえなかったか? しゃべるな。時間がなかったから一気に流しただけだ。それにあの場に残すと余計な事を言いそうだったからな」

 「………」


 ”僕の身を案じたわけじゃなかったのか。まあそうだよね。というか、なぜに神殿の者を助けたんだ。これは作戦ではなく、偶発的な出来事なの?”


 助け船を出した騎士団。シィが紛れ込んではいるが、神殿の肩を持ったのだ。不安しかないエストキラだが、逃げるどころか必死に馬にしがみつくしかなかった。

 

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おまけスキルはマスタースキルによって使い勝手が良くなりました すみ 小桜 @sumitan

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