第9話 揺れる想い-最終話
「え、どうして?」
川井先輩の言葉は、あたしには意外な音を含んでいた。
「どうして、辞めるなんて言うの?あんなにいい成績取ったのに」
「いいんです…」
「どうしてなんだ、桜井さん」
中嶋先輩の声も、いつもと同じように優しかった。そのせいで、答えることができなかった。あたしは、小さく頭を下げた。
「説明して。はっきりとした、説明してよ。でなきゃ、認められないわ」
川井先輩は、強く引き止めてくれる。でも、それが、あたしの意思を一層強固にしてしまう。
「ね、桜井さん」小早川先輩は優しく言ってくれる。
「あたしも、もう三年で引退だし、これからはあなたが頑張ってくれると思って期待してたのよ。ね、辞めないで。あなたが頑張り屋さんだって、みんな認めてるし、昨日の結果もそれが報われたんだって、認めてるわ。これからも、みんなの手本になって頑張って、ね?」
淋しそうに微笑んでくれる先輩には、申し訳なく思えてしまう。でも、だからこそ、ここにはいられないと、どう言ってもわかってもらえないだろう。
「お世話になりました。ありがとうございました」
深々と頭を下げた。
しん、として誰も何も言わなかった。言えなかったのかもしれない。あたしも、それ以上何も言えない。
すっと頭を上げて、誰も見ないようにして、くるりと背を向けた。そして部室を後にした。
緑道を走りながら、走ることが好きなってしまった自分に驚いている。どこか他のクラブに入ろうか。それとも、このまま、走っていようか。
まだまだ、吹っ切れていない。
もう少し走ってから、走り続けてから、考えることにしよう。
風が、あたしを包んでいる。
グリーンスクール - 揺れる想い 辻澤 あきら @AkiLaTsuJi
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